◎内外硝子戸残らず並厚上等硝子板にて……
神作浜吉『日本工業用文』(博文館、一八九四)から、慶應義塾が講堂を新築した際の「仕様注文簿」を紹介している。本日は、その五回目。すでに、「建具方並錠前蝶類」のところまで紹介している。本日は、それに続く「左官の部」、「ペンキ方ノ部」、「経師屋の部」、「硝子屋の部」を紹介する。
左官方の部
一使用物品の内粉灰〈こはい〉、角又【ツノマタ】、布海苔【フノリ】類はなるべく年月を経て能くかれたる品砂は塩気【シホキ】并に土気なき品荒木田土〈あらきだつち〉は草木の根又は芥抔【アクタナド】混しさる品「セメント」は極上等品使用可致事且工事取懸【トリカヽ】り前一品毎〈ごと〉に見本品建築掛りへ差出し検査請け置き始終【シシウ】共見本品に劣らざる物品使用可致事
【六項目分、中略】
一火筒〈ひづつ〉四本共屋根際【ヤネギハ】は前条木摺添喰【シツクイ】へ魚灯油〈ぎょとうゆ〉三升づゝ煉りかへ極丁寧に雨洩【アマモリ】無之様三返塗り仕上けに塗立可申事
一大梯段【ハシゴダン】裏木摺壁【キスリカベ】は天井蛇腹【ジヤバラ】同様の漆喰にて入念四返塗り仕上に可致事
ペンキ方ノ部
一使用ペンキ類ボイル油等ハ使用前一々建築係の検査相受け都て上等品使用可致候事
【四項目分、中略】
一入口枠台【ワクダイ】槻板【ケヤキイタ】は残らす目止め色付けの上々等蠟塗込み塗り可致候事
一外側軒廻【ニキマワ】り厚鉄板【アツテツイタ】樋【トヒ】は下地錆止【サビトメ】塗り致し有之候上青石色ペンキ弐返塗致し最後のペンキ塗致し候後直ちに建築掛より相渡し可申青石粉外廻りへ充分ふり掛け置き乾【カハ】き後荒縄【アラナハ】にて差図【サシヅ】の通りコスリ可申事
経師屋の部
一階上階下其天井総体反古【ホグ】細川紙にて骨縛り張致し仝上白半紙二返袋張り致し仕上け白西洋紙にて都合四返張り仕上け蛇腹際【ジヤバラギハ】格別入念四分一〈しぶいち〉なしに張付け可致事
硝子屋の部
一内外硝子戸【ガラスド】残らず並厚上等硝子板にて淡【アハ】火ブクレ焼色付き其他見くるしき疵無之品相撰【エラビ】裏はて共付け鱗釘【ウロコクギ】充分に用ひ舶来上等はてにて丁寧丈夫には付【ツケ】致し跡【アト】奇麗に掃除磨【ミガキ】可致事【以下、次回】
「硝子屋の部」に「はて」という言葉が、二度、出てくるが、文脈からして、「パテputty」のことであろう。