◎民主警察官の職責について(『警察作文の作り方』より)
昨日に引き続き、福馬謙三『警察作文の作り方』(一九四九)の内容を紹介する。同書には、現職警察官の文章が、多数、紹介されているが、次にあげるのも、そのひとつである。
民主警察官の職責について
小金井署 保坂 直光
現行新警察制度への改革案は憲法の民主的改整に依り、当然改革を見なければならない運命にあつたが警察制度民主化促進のため発せられた片山首相宛のマ元帥依りの書簡の内容が其の改正を決定づける者と思う。又政治、思想、経済其の他あらゆる国民生活の分野に歴史的な社会革命を為しとげようとしている敗戦日本がポ宣言の要請に応えるための必然的運命とも言え様、其の特質は民主的権威に依る組織警察の地方分権化民主的運営である。しかも吾々は敗戦後の軍隊なき新日本の治安は吾々警察官自らの手で護らねばならない。警察官の本来の責務はいま更申上る迄もありませんが国民の身体生命財産及び公共の維持である現在直面する不安な世相に於て、兇悪犯罪が横行する時一身を顧みずして敢然と一命を捨て立ち向わなねばならないのである。又寒風にさらされての公番勤務警邏等肉体的精神的の苦痛は国民各位の知る由もない其の苦労の反面悪い人間を善良の人間に導き悪の社会を一日も速に平和な民主的社会にする様守り導かなければならない。又其の反面基本的人権も濫用してはならないのである常に公共の福祉のためにこれを利用する責務を負う者であつて市安維持のため警察権を如何に調整して行かなければならないかと言う事が肝要である。警察官は常にやさしく陽気で公衆のために雇われた人物であるアメリカは民主国家はあつても警察国家は決してないのである、街の四角〈ヨスミ〉に建ている赤い屋根は朝光に映え磨かれたガラスに青空がうつる若い警察官達はみず色のすがすがしい姿にて朝の点検を終えて、今日の配置につく電話のベルが鳴る迷子、盗難道を尋ねる者暖い手をのべて交番に立つて居るそれは小さい建物だが交番は街の心臓だ、悩む人々を指導し紛争に解決世紀の風の中に民主のドアを開く人々はそれをみつめて安らかに眠りにつけるのである。現在の警察は昔しの様に官僚警察でなく警察制度も民主化されて居り新憲法の精神に従い国民の真の公僕として世間に怖がられる警察ではなく真の信頼を受ける国民のために奉仕すると言う使命と思う様になつた日本は今正しく民主革命の途上にある此の時に当り最も必要なものは革命の精神であり自由平等友愛の精神であつて人間を愛し人間を尊敬し重んずる精神が其の基調となるのである。公僕として国民の絶対的な信頼を受け国民を愛し人権を尊重して新日本再建のために捨身の奉仕の使命を果さんとしつつある、警察の任務は重大である。茲に於てか吾々の任務は永久不滅なる光りを放つ如何なる民族国家に於てもそれが独立を保ち繁栄していくには常に吾々は公共の福祉のために生命を賭して闘う一群の人々乃至階級がなければならない其処に吾々の誇りと崇高なる使命観があるのである。而して吾々は其の崇高なる使命観と誇りの下に新警察制度第二年度の飛躍的発展向上のため今日より決意を新にする者である。
「公番勤務」、「市安維持」は、原文のままである。
この保坂直光さんの文章について、『警察作文の作り方』の著者・福馬謙三は、次のように批評している。
批評
文章を書く前に、一応どういうことを書くべきかを、心で構想を立ててから書くべきであつた、恐らく印刷所の誤植だと思うが、非常に読みにくい、文章全体がぎくしやくとしていて、その上、論旨の進め方にも、無理があるように思う、知つていることを皆書こうとするよりも、その中の中心となる点を抜出して書いてゆくようにしたいものである。
この批評から、この文章が、一度すでに活字化されているものであることがわかる。なお、福馬謙三は言及していないが、この警察官の文章の欠点は、第一に、句読点の決定的な不足、加えて、文章の呼応の不備であるように思う。
今日のクイズ 2013・5・31
◎上の保坂直光さんの文章は、いつ書かれたものでしょうか。次のうちから選んでください。
1 1946年度 2 1947年度 3 1948年度 4 1949年度
【昨日のクイズの正解】 2 新聞関係者 ■『秘録大東亜戦史 第四』(富士書苑、1954)
に、「朝日新聞参与室」の肩書で執筆している。「金子」様、正解です。
今日の名言 2013・5・31
◎入口では成功しても出口は難しい
本日の日本経済新聞「大機小機」欄にある言葉。署名は「横風」。言うまでもなく、黒田東彦日本銀行総裁が主導する「異次元の金融緩和」に対する危惧である。最近の同紙は、こうした論調が目立つ。