◎国民社会主義独逸労働党ノ条款ハ総統コレヲ決定ス
電報通信社発行の『独逸大観』(一九三六)を紹介している。本日は、その四回目。
昨日は、同書の第三篇「党と国家」から、「一、党と国家との統一」の前半部分を紹介した。本日は、その後半部分を紹介する。
以上の如き考へ方から一九三三年十二月一日、「党国帰一を鞏固〈キョウコ〉ならしむる為の法律」が発布せらるゝに至つたのである。
右法律の本文は、次の通りである。
中央政府ハ、次ノ法律ヲ決裁シ、茲ニコレヲ公布ス。
第一条⑴、国民社会主義革命成就後ハ、国民社会主義独逸労働党ハ独逸国家思想ノ支柱タリ。従ツテ国家ト不可分的ニ連結セラルルモノトス。
⑵、国民社会主義独逸労働党ハ、公法上ノ団体トス。ソノ条款ハ総統コレヲ決定ス。
第二条 党ノ諸機関ト公ノ官庁トノ間ノ緊密ナル共働ヲ保障スル為、総統ノ代理者ハ中央政府ヲ〔ママ〕閣員タルベキモノトス。
第三条⑴、国民社会主義国家ノ指導的並ニ活動的原動力タル国民社会主義独逸労働党及突撃隊員(ソレニ従属スル部隊ヲ含ム)ハ、総統、国民及国家ニ対シテ、重大ナル責務ヲ有ス。
⑵、党員並ニ隊員ガ、コノ責務ニ違背シタル場合ニ於テハ、特殊ノ党裁判管轄権、又ハ突撃隊裁判管轄権ニ服属スベキモノトス。
⑶、総統ハコノ規定ヲ。〔ママ〕ソノ他ノ諸組織ニ属スル人々ニ準用スルコトヲ得。
第四条 国民社会主義独逸労働党ノ存続、活動又ハ威信ヲ侵害シ、或ハ毀傷スルガ如キ一切ノ所為又ハ不作為、特ニ突撃隊員(ソレニ従属スル部隊ヲ含ム)ニアリテハ規律ト秩序トニ相反スル如キ一切ノ非違ハ、コレヲ責務ノ違背ト認ム。
第五条 其他ノ場合ニ於テ慣行セラルヽ懲戒罰ノ外、更ニ拘留及禁錮ヲ以テ処罰セラルルコトアルベシ。
第六条 公ノ官庁ハソノ権限内ニ於テ、党裁判管轄権並ニ突撃隊裁判管轄権ノ行使ヲ委託セラレタル党又ハSA〔突撃隊〕ノ諸機関ニ対シ事務上ノ又ハ司法上ノ互助ヲナスベシ。
第七条 一九三三年四月二十八日附、突撃隊及親衛隊隊員ノ懲戒処罰権ニ関スル法律(RGBI・Ⅰ二三〇頁)ハ、ソノ効力ヲ失フ
第八条 宰相ハ国民社会主義的独逸労働党総統トシテ、並ニ突撃隊総統トシテ、本法律ノ実施上最高司令官、並ニ補充上必要ナル規定、特ニ党裁判管轄権及突撃隊裁判管轄権ノ組成及訴訟手続ニ関スル規定ヲ公布ス。宰相ハコノ裁判管轄権ニ関スル規定実施ノ時期ヲ定ム。 宰相並ニ内務大臣(署名)
以上掲ぐる処の法律本文に関して、尚次の事が注意されてよいであらう。
第一条は国民社会主義革命の成果たる国民社会主義国家の宣言を包含してゐる。国民社会主義独逸労働党は、独逸国民の国家思想の支持者となり、以て自ら国家の根柢なりと宣言するのである。党は該法律の発布までは、民法上の「登記社団」といふ法律上の一形式を持つてゐたにすぎない。該法律第三条は党を目して、「国民社会主義国家の指導的並に活動的原動力」と呼ぶのである。これによれば、国民社会主義独逸労働党は、国家生活及国民生活全体を形成する公法上の最高の団体であるのである。
第二条に於ける総統の代理者は、国家組織の範囲内に於いては、無任所大臣である。その任務とする処は、「連繫本部」の長として、党の機関と国の官庁との間の不断の接触連絡を確保する事である。加之〈シカノミナラズ〉党と国家との間の統一は、既に該法律発布前に於ても官党兼摂に伴ふ多岐的な制度のおかげで、著しく促進させられてゐたのであつた。即ち国務大臣は党にも地位を占めてをり、統監及州知事は同時に党の地方支部長であり、又国民社会主義の郡長〔ママ〕は、同時に又党の郡支部長の職にも在つた事は、特筆に値する。
第三条は、NSDAPの党員に対して、一層重大なる責務を課するが、しかしその為に余計の特権を与へると言ふ事は決してない。此の規定は重責を進んで引受ける代償として特権を要求することを最初からして拒けた〈シリゾケタ〉国民社会主義者の理想主義的且道徳的な精神にふさはしいものである。NSDAP又は突撃隊に加入することが自発的に行はれるのと同じく、団員たるものは、何時でもその脱退を宣言し得るのである。
党と突撃隊とに特殊の裁判管轄権を創設することは、党の共公上〔ママ〕法律上の性質の何たるかといふことと、党が国家に対して独立してゐるといふ事とを、明瞭に表明してゐるのである。