◎森友学園問題のキーワードは、やはり「ウソ」
昨年の今ごろ、「ウソ」をテーマにしたコラムを何本か書いた。そのころ、浮上してきた「森友学園問題」に触発されたのある。その後、一年が経って、佐川宣寿〈ノブヒサ〉前国税庁長官に対する参議院予算委員会の証人喚問があった(2018・3・27)。この模様を視聴しながら、森友問題のキーワードは「ウソ」だということを、改めて確認したのである。
以下、手抜きになって申し訳ないが、一年前のコラムを、三本、再録させていただきたい。
◎ウソも真実も、さして多くを語りはしない 2017・3・30
一昨日〔2017・3・28〕のコラムで、映画『理由 Just Cause』について論じた。本日は、その続きである。一昨日は、この映画のテーマは、「夫婦の信頼関係」だと述べたが、この映画には、もうひとつ、「ウソ」という重要なテーマがある。
主人公のポール・アームストロング(ショーン・コネリー)に対し、妻のローリー(ケイト・キャプショー)は、ひとつ、重大な隠し事をしていた。結果的に、このことが、夫婦および娘のケイティ(スカーレット・ヨハンソン)を、生命の危機に陥れることになるのである。
死刑判決を受けたボビー・アール(ブレア・アンダーウッド)の「冤罪」を晴らさんと、フロリダで再調査を始めたポールは、現地の保安官タニー・ブラウン(ローレンス・フィッシュバーン)から、意外なことを聞かされる。妻のローリーが、かつて検事として、ボビーを起訴したことがあるというのである。
ポールは、妻に、それが本当かどうかを確認する。すると妻は、結婚前に話しているという。即座にポールは言う、「ウソだ」。さらに、なぜ、この再調査に着手する前に、そのことを伝えなかったのかと、妻を追及する。
刑務所を訪れたポールに対し、ボビー・アールは、「真犯人は別にいる」と伝える。同じ刑務所にいるブレア・サリヴァン(エド・ハリス)が真犯人だというのである。
続いてポールは、ブレア・サリヴァンと面会する。この男はタダモノではなかった。サリヴァンは、「あなたのことが知りたい」と言って、ポールにいくつかの質問をする。そのうち、「子どもはいるか」、「不眠症か」、「死はこわいか」という三つの質問に対し、ポールはウソをつく。そのたびごとに、サリヴァンは、ポールのウソを見抜く。
そして、激しくポールを非難する、「ペテロも三度、イエスを否定した。死刑囚にウソをつくとは、恥を知れ」。この非難に対して、ポールは静に答える、「ウソも真実も、さして多くを語りはしない」。
サリヴァンは、意外にも、「OK」と言いながら、ポールの言葉に、深くうなずく。
帰り際、サリヴァンから、重要な情報を得たポールは、その足で、ブラウン保安官の自宅へ向かう。
保安官の自宅では、その娘が誰かと電話をしている、「彼はあなたにウソをついているのよ。ゆうべ、彼女と居たもの」。こういう、どうでもよい会話にも、「ウソ」という言葉が出てくる。
ネタバレになるので、すべては言わないが、このあとの展開でも、ふたりの人物がついた大きな「ウソ」が明らかになる。
というようなことを、くどくど書いたのは、例の「森友学園問題」が解決していないからである。この問題が浮上して以来、誰が「本当のこと」を言っているのか、サッパリわからない状態が、二か月近く、続いている。
関係者のほとんどが、多かれ少なかれ「ウソ」をついている。そして、そのことが、さして不思議とも思われない状態が、この間、ずっと続いている。これ自体が、何とも不思議なことに思えてならない。
いったい、この事態は、どういう形で、決着するのであろうか。
◎映画『クイズ・ショウ』(1994)のテーマはウソ 2017・4・1
一昨日〔2017・3・30〕のブログに、「ウソも真実も、さして多くを語りはしない」と題するコラムを書いた。映画『理由』(一九九五)のテーマのひとつは「ウソ」である、ということを述べた。
それで思い出したのだが、一九九四年に公開された『クイズ・ショウ』という映画がある(ハリウッド・ピクチャーズ)。
この映画は、一九五〇年代に大きな問題となった、クイズ番組に関わる不正事件を素材にしている。そして、この映画のテーマのひとつが、やはり「ウソ」であった。
映画の最後のほうで、大学講師でクイズ番組のヒーロー、大学講師のチャールズ・ヴァン・ドーレン(レーフ・ファインズ)が、立法委員会に証人として出席し、番組における不正を証言する。そこで、チャールズは、一通の「声命文」を読み上げる。この映画のハイライトである。その声明文は、ビデオの字幕によれば、次のようなものである(適宜、句読点を加えてある)。
この一年間にあった事を、もし変える事ができたら…。
過去は変えられません。しかし教訓となります。
私は人生を、自分自身を学びました、そして社会に対する責任を。
善と悪が見かけと異なる事も学びました。
私は深く、欺瞞行為に関わりました。
友人を裏切りました。数千万の友を。
この国の人々に嘘を、知っている事と知らない事の両方で嘘を〔つきました〕。
なのに、消え去ることだと、子供のように思っていました。消え去るわけはないのに。
私は怖かった、死ぬほど。自分というものがなかったからです。
真実を語る事が、唯一の道です。
私事で恐縮ですが、私は自分を見つけました。
今までの私は、役を演じてきたのです。自分は能力があると錯覚を〔していました〕。
運にめぐまれ、自分というものの基盤を、泥にまみれて築くことをしなかったのです。
借り物の翼で、飛んでいたのです。すべてが安易でした。
これが、その結果です。
テレビのクイズ番組における「不正」が大問題になり、ついに、立法委員会で不正を証言する人物があらわれた。たかが「クイズ」と思われるかもしれない。しかしこれは、アメリカという国で、実際にあったことである。
一方、日本では、近年、国有地の売却という重大な案件をめぐって不可解な動きがあったにもかかわらず、これを「不正」として糾弾する動きが弱い。また、「不正」を証言する人物も、今のところ、あらわれそうにない。いったい、これはどうしたことなのだろうか。
◎真実を話さない限り自身が苦しむことになる 2017・4・2
【前略】
さて、映画『クイズ・ショウ』において、大学講師のチャールズ・ヴァン・ドーレン(レーフ・ファインズ)は、事件との関わりを避ける意図で、当初、メキシコに居を移していた。しかし、その後、気が変わり、立法委員会に証人として出席し、「不正がなかった」ことを証言しようと思い立つ。
帰国したチャールズを待っていたのは、立法管理小委員会の捜査官ディック・グッドウィン(ロブ・モロー)であった。チャールズは、ディックの情理を尽くした説得を受け、さらに父親のマーク・ヴァン・ドーレン(ポール・スコフィールド)に背中を押されて、「不正があった」ことを証言する決意を固めるのであった。
さて、今回の森友学園問題において、今後、これに似た「劇的な」展開があるかどうかは、何とも言えない。しかし、それを期待する人にも、期待しない人にも、この『クイズ・ショウ』という映画は、おすすめである。映画そのものが、実によくできている。楽しめ、かつ考えさせられる。ちなみに、『クイズ・ショウ』のビデオ(ポニー・キャニオン発売)のパッケージによれば、五〇年代の「クイズ・ショウ」、六〇年代の「ケネディ暗殺」、七〇年代の「ウォーターゲート」は、アメリカの「三大スキャンダル」と呼ばれているらしい。
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