◎ズーカーの懐中に残ったのは2ドル4セントのみ
新コロナ騒動で外出自粛が要請される中、自宅でDVDを再生し、映画を楽しんだ方も多かったのではなだろうか。
近年、名作映画の廉価版というものが出まわり、誰でも何時でも、過去の名画を気軽に鑑賞することができるようになった。ところが、この廉価版には、ひとつ重大な欠陥がある。それは、冒頭にある映画会社のヘッドマークが削られていることである。
名画『キングコング』(一九三三)や名画『市民ケーン』(一九四一)は、RKO(Radio Keith Orpheum Entertainment)の製作で、その冒頭、電波塔から電波が飛んでいるヘッドマークが現れる。ところが、五〇〇円の廉価版では、このヘッドマークを見ることができない。何か、大事なものを紛失したようで、気分よく鑑賞できない。
同様に、名画『カサブランカ』の廉価版でも、冒頭にあるはずの、ワーナー・ブラザーズのヘッドマークを見ることはできなかい(私が持っているのは、ケー・アイ・コーポレーション版)。
ところで、先日、『バンビブック』という雑誌形式のシリーズの第九号「映画なんでも号」(一九五二年四月、朝日新聞社)を手にしてみたところ、「映画会社ヘッドマーク集」という無署名の記事があった。今となっては、貴重な「史料」かもしれないので、以下に紹介しておきたい。同記事は、「ハリウッド映画」の部と、「日本映画」の部に分かれているが、本日、紹介するのは、「ハリウッド映画」の部。図版は省略。
映画会社ヘッドマーク集 ライオンやワシの意味を知ってますか
ハリウッド映画
コロムビア
Columbiaというのは、アメリカをあらわす言語(もちろんモトは米大陸の発見者コロンブスからきている)ニューヨーク港外にたつ「自由の女神」の像をそっくりそのままマークにしたまでの話てある。十年ばかり前から女神のささげもつ火がチカチカ画面に輝くようになって、めっきり美しくなってきた。
パラマウン卜
Paramountという字を辞書で引いてみると、(形容詞)最高の、最上の、(名詞)最高権威と出てくる。つまりマーク通りの「最高の映画」というわけ、雲表〈ウンピョウ〉にそびえるまん中の山は文字の中のマウント(山)に引っかけたもの。
別にエベレストを描いたのでもなければ、マッターホルンを写生したものでもない。ところで、この商標の周囲には合計二十四の星が、ぐるりを取りまいているが、その由来というのは――一九一三年、アメリカ映画の「父」といれるアドルフ・ズーカー〔Adolph Zukor〕が、この会社の前身である「名優ラスキー会社」〔Famous Players-Lasky Corporation〕を創立したとき、先生の懐中には、何とわずかに二ドル四セントしか残っていなかったという。その二十四と二十四時間(一昼夜)を通じて「星のように」輝く映画、それと映画の最大の魅力はスター(人気俳優・星)であるという観点に立って、こういう図案ができ上ったのだ――と物知りは語り伝えている。
RKOラジオ
会社の正式の名前はRadio Keith Orpheum Corp.といい、その作品をRKOラジオとよぶ。印刷された商漂としてはまことに平凡で、わずかに文字の下の三角形の墨地に電波を意味する稲妻を配したところに新鮮味があるだけだが、映画となると大分おもむきが違い、地球の上に突ったった鉄塔からビビーと電波をあらわす音響が周囲に発射されて、ひどく景気がよくなる。
メトロ・ゴールドウィン・メイア
おなじみライオン印はMGM。「百獣の王」は「映画のキング」をいみするというわけだが、このライオンの名前はレオといって、会社の創立者の名をとった。昨年〔一九五六か〕の秋新しいライオンにかわったが、これは六代目のレオ。ただし、まだ子供で、うまくほえられないのて、声だけは今のところロンドン動物園のライオンをアフレコで入れている。
ライオンのまわりに記されているARS GRATIA ARTISとうのはラテン語で「芸術は芸術を生む」という意味。
リパブリック
MGMが「百獣の王」ならこちらは「百鳥の王」のワシの羽ばたきで対抗するというところ。一九三五ねんの創立だから歴史はいちばん浅い。
二十世紀フォックス
一九一五年にできたフォックスは三五年に二十世紀映画会社と合併して 20th Century Fox Film Corp.となったが、後者の主宰者である大プロデューサー、ダリル•F・ザナックの実力と鼻っ柱の強さのせいか、二十世紀という字がドカンと上へ乗っかってフォックスが下の片すみに、きゅうくつに押しやられてしまった。
こ れまた映画となると、まばゆいばがりの五色の光が勇壮なテーマ・ミュージックとともに、ひどく魅力的になってくる。
ユナイテッド・アーティスツ
これはただみた通りのマーク。
ユニヴァーサル・インタナショナル
やれユニヴァーサル(宇宙)のインタナショナル(国際)のと、欲ばった形容詞がつながっているが、これは実は作品の名称で会社の正式の名称は Universal Picture Co. Inc.である。
商標は名称にふさわしく地球の上に文字がのっているだけだが、これが映画の上だと銀色に輝く地球がゆるやかに回るにつれて、しゃれた字体の帯が左から右へ回転して、澄んだ、かげの音楽がうっとりさせる。
ワーナー・ブラザース
ハリー、サム、ジャック、アルバートの四人のワーナー兄弟がこしらえた会社だから、ワーナー兄弟映画会社というのだが、マークのWとBは、もちろん頭文字。一九二五年にファースト・ナショナル会社を合併したので、今でもマークの中にFirst National という字をとり入れたのを使うことがある。
ワーナー・ブラザーズのヘッドマークについては、若干、補足したいことがあるが、これは、次回。