礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

「神社制度調査会」(1929年12月発足)について学ぶ

2022-08-31 01:57:54 | コラムと名言

◎「神社制度調査会」(1929年12月発足)について学ぶ

 昭和前期の日本は、政府による宗教弾圧が激しくなり、一九三九年(昭和一四)四月には、「宗教団体法」という宗教統制法が公布された。
 特に戦中になると、国家全体が、神憑り的な「宗教国家」の様相を呈するという事態が生じた。しかし、これが不思議なのだが、そうした神憑り的「宗教国家」の段階にいたっても、政府は、「国家神道=非宗教」という立場を変えなかった。不思議なことであり、不可解なことでもあるが、これは、まぎれもない事実である。
 さて、ここ数日、赤松徹真教授の〝総戦力下の神仏問題と本願寺派「宗制」〟という論文を紹介してきた。昭和前期の日本における宗教問題に関心を持つ者にとって、この論文は必読の文献である。
 その論文の最初の初めのほうで、赤松教授は、一九二九年(昭和四)一二月に発足した「神社制度調査会」について解説している。これを読むと、「神社制度調査会」が、その後の日本の宗教政策に、重大な影響を及ぼしたことがわかる。
 本日は、赤松教授の論文の当該部分を読みながら、この神社制度調査会について学んでみたい。

 周知のように、一九二九(昭和四)年十二月九日に神社制度調査会官制が発布された。その日的は、第一条に「神社制度調査会は内務大臣の監督に属し其の諮問に応じて神社制度に関する重要事項を調査審議す 神社制度調査会は神社制度に関する重要事項に付関係各大臣に建議すること得」と述べるように、内務大臣の諮問に応じるために神社制度に関する調査・審議を目的とするものであった。第二条には、「神社制度調査会は会長一人委員三十人以内を以て之を組織す 特別の事項を調査審議する為必要あるときは臨時委員を置くことを得」、第三条には、「会長は内務大臣の奏請により之を勅任とす 委員及び臨時委員は内務大臣の奏請に依り内閣に於て之を命ず」と記された。 第一回委員会総会は、一九二九(昭和四)年十二月十七日に東京市麹町区外桜田町内務大臣官邸で聞かれ、山川健次郎会長の挨拶に続き、安達謙蔵内相は、
 《内務省に於ては神社制度に関して大正十五年度より臨時職員を置き種々調査を行ひつつあるが神社制度は団体及び国民の精神生活にも関係を有する大問題であり又地方民族習慣とも離る可らざる因縁がある、之を整備統一するに就ては種々複雑なる問題もあり軽々に決定することは出来ないと思ふ、今回、権威ある方々に御願ひして慎重に調査を遂げ神社制度の整備の統一の上に遺憾なきを期したい、宜しく各位の御尽力を願ふ云々》
と述べ、安達は神社制度が「国体及び国民精神生活」に関係する大問題で、「地方民族習慣とも離る可らざる因縁がある」と、神社制度の整備に向けの調査・審議について挨拶した。第二回委員総会は、一九三〇(昭和五)年二月二十八日に内務省社会局会議室で聞き、「官国弊杜以下神社の維持経営を確実にする方策如何」について審議した。その際、貴族院議員の水野錬太郎委員は、
 《神社と宗教法との関係如何、宗教法の制定に先だちて神社法を制定する考へなりや如何、神社制度調査会に於ては神社の根本問題を審議するや如何、政府は従来神社を宗教に非ずといつてゐたようだが其方針を以て神社法を制定する考へなりや如何、神社法といふ統一的の法を制定する考へなりや或は個々の条文を設けて内務省令又は勅命となす考へなりや知何、神社法は宗教法と相並んだものとして制定するか、又は単に神社法のみ制定する考へなりや如何。》 
と、審議の論点をあげて政府の方針を質した。第三回委員総会は、六月二十八日に内務省大臣官邸で開会し、水野委員の質問に答えて、安達内相は、 
 《従来政府は神社を以て全然宗教と区別して取扱つている、神社が学問上広い意義に於て所調宗教の範類に這入るかどうかは別問題としまして、日本の国家と神社との特別の関係を思ひますれば、神社はどうしても所謂国家の宗祀として永遠に之を尊崇しなければならぬものでありまして、従来制度上、神社を全然宗教と区別して取扱ひ来つたことは至当のことと存ぜられますから将来とも此の方針でまゐりたいと考へて居ります、また神社に於ける祈祷や神札授与などの行為が問題となつて居りますが、此等の行為は古来の民族的習慣に基く神社尊崇の現はれとして神社そのものと共に、従来一般の宗教行為とは区別せられて居ります。要するに、神社は我国独特の制度といたしまして特殊の地位を有するのでありますから、政府と致しましでも唯今までの所では従来の取扱方針を変更しやうといふ考へは致して居りませぬ、併しながら時勢の進展に伴ひまして神社の制度を明確にしやうとする場合の制度を明確にしやうとする場合に於きましては、諸般の制度との調和、権衡〈ケンコウ〉考慮しなければならず、神社に於ける個々の現象に関しても相当の説明が加へらるる必要があるかも知れぬと存ぜられますから、此の辺に就きましては追々各位の御腹蔵なき意見を承りまして善処したいと考へて居ります。(以下略)》
と述べて、「従来制度上、神社を全然宗教と区別して取扱ひ来った」政府方針・見解を踏襲しながらも「時勢の進展」に対応する必要を答弁した。〈二〇五~二〇七ページ〉

 水野錬太郎委員の質問(一九三〇年二月二八日)を受けて、安達謙蔵内務大臣は、「神社に於ける祈祷や神札授与などの行為が問題となつて居りますが、此等の行為は古来の民族的習慣に基く神社尊崇の現はれとして神社そのものと共に、従来一般の宗教行為とは区別せられて居ります」と答えている(同年六月二八日)。
 ここで安達内相が示した立場は、「神社=非宗教」である。そして結果的に見ると、戦中に日本が、国家全体が神憑り的「宗教国家」の様相を呈するようになった段階にいたっても、一九三〇年(昭和五)に安達内相が示した「神社=非宗教」という立場が維持されたことがわかるのである。

 ところで、この安達内相の回答を読んだ私は、津地鎮祭事件の最高裁大法廷判決(一九七七年七月一三日)を想起した。同判決は、二審の名古屋高裁判決を退け、「本件起工式は、古来地鎮祭の名のもとに社会の一般的惯行として是認され、実施されてきた習俗的行事にほかならず、憲法二〇条三項の禁止する宗教的活動には該当しないものである」と判示した。そこで展開されている論理は、基本的に、かつての安達回答における論理と異なるものではない。
 ちなみに、二〇一二年四月に自由民主党が「決定」した「日本国憲法改正草案」というものがある。その第二〇条第三項を見ると、「国及び地方自治体その他の公共団体は、特定の宗教のための教育その他の宗教的活動をしてはならない。ただし、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものに ついては、この限りでない」とある。言うまでもなく、これは、津地鎮祭事件最高裁判決を踏まえているのである。【この話、続く】

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「宗教団体法」(昭和14年4月8日法律第77号)の全文

2022-08-30 00:45:05 | コラムと名言

◎「宗教団体法」(昭和14年4月8日法律第77号)の全文
 
 昨日のブログで、宗教団体法(一九三九)は、インターネット上で閲覧できると書いた。もう少し言うと、今日では、その「原本」までも、インターネット上で閲覧することができる。
 本日は、宗教団体法の全文を、「原本」に拠って入力したものを、以下に掲げてみる。

 凡 例
・国立公文書館所蔵「宗教団体法・御署名原本」(請求番号:御22319100)を閲覧し、これに基いて入力した。
・宗教団体法の条文は、カタカナ文だったが、これをひらがな文に改めた。
・「第一条」、「第二条」、「附則」などの太字は、引用者によるものである。
・条文中の②③④⑤は、それぞれ、それぞれの条の第二項、第三項、第四項、第五項を示す。この数字は、原文には表記されていない。
・入力にあたり、井上順孝他編『新宗教事典』所収の「宗教団体法」を参照した。

【公布】 昭和一四年四月八日法律第七七号
【沿革】 昭和一五年三月二九日法律第二五号により一部改正
     昭和二〇年一二月二八日勅令第七一八号により廃止

法律第七十七号

朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル宗教団体法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム

御名 御璽

 昭和十四年四月七日
 
   内閣総理大臣男爵 平沼騏一郎
   文 部 大 臣 男爵 荒木 貞夫
   内 務 大 臣 男爵 木戸 幸一
   大 蔵 大 臣    石渡荘太郎 
  
法律第七十七号
   宗 教 団 体 法 

第一条 本法に於て宗教団体とは神道教派、仏教宗派及基督教其の他の教団(以下単に教派、宗派、教団と称す)並に寺院及教会を謂ふ

第二条 教派、宗派及教団並に教会は之を法人と為すことを得
 ②寺院は之を法人とす

第三条 教派、宗派又は教団を設立せんとするときは設立者に於て教規、宗制又は教団規則を具し法人たらんとするものに在りては其の旨を明にし主務大臣の認可を受くることを要す
 ②教規、宗制及教団規則には左の事項を記載すべし
 一 名称
 二 事務所の所在地
 三 教義の大要
 四 教義の宣布及儀式の執行に関する事項
 五 管長、教団統理者其の他の機関の組織、任免及職務権限に関する事項
 六 寺院、教会其の他の所属団体に関する事項
 七 住職、教会主管者、其の代務者及教師の資格、名称及任免其の他の進退並に僧侶に関する事項
 八 檀徒、教徒又は信徒に関する事項
 九 財産管理其の他の財務に関する事項
 十 公益事業に関する事項
 ③教規、宗制若は教団規則を変更せんとするとき又は法人に非ざる教派、宗派若は教団が法人たらんとするときは主務大臣の認可を受くることを要す

第四条 教派及宗派には管長を、教団には教団統理者を置くべし
 ②管長又は教団統理者は教派、宗派又は教団を統理し之を代表す
 ③管長又は教団統理者欠けたるとき、未成年なるとき又は久しきに亘り職務を行ふこと能はざるときは代務者を起き其の職務を行はしむべし
 ④管長、教団統理者又は其の代務者就任せんとするときは主務大臣の認可を受くることを要す

第五条 教派、宗派又は教団は主務大臣の認可を受け合併又は解散を為すことを得
 ②教派、宗派又は教団は設立認可の取り消しに因りて解散す

第六条 寺院又は教会を設立せんとするときは設立者に於て寺院規則又は教会規則を具し第二条第五号の教会を除くの外予め管長又は教団統理者の承認を経、法人たらんとする教会に在りては其の旨を明にし地方長官の認可を受くることを要す
 ②寺院規則及教会規則には左の事項を記載すべし
 一 名称
 二 所在地
 三 本尊、奉斎主神、安置仏等の称号
 四 所属教派、宗派又は教団の名称
 五 教派、宗派又は教団に属せざる教会に在りては前号に規定する事項に代へ其の奉ずる宗教の名称及教義の大要並に教師の資格、名称及任免其の他の進退に関する事項
 六 教義の宣布及儀式の執行に関する事項
 七 住職、教会主管者其の他の機関に関する事項
 八 檀徒、教徒又は信徒及其の総代に関する事項
 九 本末寺及法類に関する事項
 十 財産管理其の他の財務に関する事項
 十一 公益事業に関する事項
 ③寺院規則若は教会規則を変更せんとするとき又は法人に非ざる教会が法人たらんとするときは檀徒、教徒及信徒の総代の同意を得前項第五号の教会を除くの外予め管長又は教団統理者の承認を経、地方長官の認可を受くることを要す

第七条 寺院には住職を、教会には教会主管者を置くべし
 ②住職又は教会主管者は寺院又は教会を主管し之を代表す
 ③住職又は教会主管者欠けたるとき、未成年なるとき又は久しきに亘り職務を行ふこと能はざるときは代務者を置き其の職務を行はしむべし

第八条 寺院及教会には檀徒、教徒及信徒の総代(以下単に総代と称す)三人以上を置くべし
 ②総代は寺院又は教会の経営に関し住職又は教会主管者を扶く
 ③総代の選任及解任は住職又は教会主管者より之を市町村長(市制第六条及第八十二条第三項の市に在りては区長、町村制を施行せざる地に在りては之に準ずべき者)に届出づることを要す

第九条 寺院又は法人たる教会は命令の定むる所に依り宝物其の他不動産以外の重要なる財産に付地方長官において保管する寺院財産台帳又は教会財産台帳に登録を受くることを要す
 ②寺院財産台帳又は教会財産台帳を閲覧し又はその謄本若は抄本の交付を受けんとする者は命令の定むる所に依り之を請求することを得

第十条 寺院又は法人たる教会左に掲ぐる行為を為さんとするときは総代の同意を得第六条第二項第五号の教会を除くの外管長又は教団統理者の意見書を添へ、地方長官の認可を受くることを要す
 一 不動産又は寺院財産台帳若は教会財産台帳に登録せられたる財産を処分し又は担保に供すること
 二 借財又は保証を為すこと
 ②前項の場合に於て総代の同意を得ること能はざるときは住職又は教会主管者は其の事由を具し地方長官の承認を求むることを得
 ③第一項に規定する事項に付総代の同意を得ずして為したる行為は之を無効とす
 ④第一項に規定する事項に付総代の同意を得ずして為したる行為は第二項の規定に依り地方長官の承認を得たる場合を除くの外之を無効とす
 ⑤前二項の場合に於て相手方が善意無過失なるときは其の行為を為したる住職又は教会主管者は相手方の選択に従い之に対して履行又は損害賠償の責に任ず

第十一条 寺院又は教会は第六条第二項第五号の教会を除くの外予め管長又は教団統理者の承認を経、地方長官の認可を受けて合併又は解散を為すことを得
 ②寺院又は教会左の各号の一に該当するときは地方長官は其の設立の認可を取り消すことを得
 一 堂宇又は会堂の滅失後五年内に其の施設を為さざるとき
 二 住職又は教会主管者及代務者を欠くこと三年以上に及ぶとき
 ③寺院又は教会は設立認可の取り消しに因りて解散す

第十二条 寺院の境内地の管理、境内地の区域の変更及境内建物の管理並に教会の構内地の管理、構内地の区域の変更及構内建物の管理に関し必要なる事項は命令を以てこれを定む

第十三条 法人たる宗教団体は勅令の定むる所に依り登記を為すことを要す
 ②前項の規定により登記すべき事項は登記の後に非ざれば之を以て第三者に対抗することを得ず

第十四条 本法に規定するものを除くの外宗教団体の合併及解散の場合に於ける必要なる事項は勅令を以て之を定む

第十五条 民法第四十三条、第四十四条、第五十条、第五十一条第一項、第五十四条、第五十七条及第七十三条乃至第八十三条並に民法施行法第二十四条、第二十六条及第二十七条の規定は法人たる宗教団体に、民法第四十一条及第四十二条の規定は寺院及法人たる教会に付之を準用す但し民法第五十七条の規定の準用に依る特別代理人の選任は教規、宗制、教団規則、寺院規則又は教会規則の定むる所に依る

第十六条 宗教団体又は教師の行ふ宗教の教義の宣布若は儀式の執行又は宗教上の行事が安寧秩序を妨げ又は臣民たるの義務に背くときは主務大臣は之を制限し若は禁止し、教師の業務を停止し又は宗教団体の設立の認可を取消すことを得

第十七条 宗教団体又は其の機関の職に在る者法令又は教規、宗制、教団規則、寺院規則若は教会規則に違反し其の他公益を害すべき行為を為したるときは主務大臣は之を取消し、停止し若は禁止し又は機関の職に在る者の改任を命ずることを得
 ②教師法令に違反し其の他公益を害すべき行為を為したるときは主務大臣は其の業務を停止することを得

第十八条 主務大臣は宗教団体に対し監督上必要ある場合に於ては報告を徴し又は実況を調査することを得

第十九条 主務大臣は命令の定むる所に依り本法に規定する其の権限の一部を地方長官に委任することを得

第二十条 第十一条第二項、第十六条又は第十七条の規定に依る処分に対し不服ある者は訴願を為すことを得
 ②第十一条第二項又は第十六条に規定する設立認可の取消処分を違法にして之に依り権利を毀損せられたりとする者は行政裁判所に出訴することを得
 ③前項の規定に依り行政裁判所に出訴することを得る場合に於ては訴願を為すことを得ず

第二十一条 宗教団体に於て公衆礼拝の用に供する建物又は其の敷地にして命令の定むる所に依り登記を経たるものは不動産の先取得権、抵当権若は質権の実行の為にする場合又は破産の場合を除くの外其の登記後に原因を生じたる司法上の金銭債権の為に之を差し押ふることを得ず寺院財産台帳又は教会財産台帳に登録せられたる宝物に付亦同じ

第二十二条 宗教団体には命令の定むる所に依り所得税を課せず
 ③寺院の境内地及教会の構内地には命令の定むる所に依り地租を免除す但し有料借地なるときは此の限にあらず
 ③北海道、府県、市町村其の他の公共団体は宗教団体の所得に対し地方税を課することを得ず

第二十三条 宗教団体に非ずして宗教の教義の宣布及儀式の執行を為す結社(以下宗教結社と称す)を組織したるときは代表者に於て規則を定め十四日内に地方長官に届出づることを要す届出事項に変更を生じたるとき亦同じ
 ②宗教結社の規則には左の事項を記載すべし
 一 名称
 二 事務所の所在地
 三 教義、儀式及行事に関する事項
 四 奉斎主神、安置仏等の称号
 五 組織に関する事項
 六 財産管理其の他の財務に関する事項
 七 代表者及布教者の資格及選定方法

第二十四条 宗教結社の代表者は其の結社に属する布教者の氏名及住所を遅滞なく地方長官に届出づることを要す其の届出事項に変更を生じたるとき亦同じ

第二十五条 第十六条乃至第十八条及び第二十条第一項の規定は宗教結社又は其の代表者若は布教者に付之を準用す

第二十六条 教師又は布教者第十六条(前条に於て準用する場合を含む)の規定に依る制限、禁止若は業務の停止又は第十七条第二項(前条に於て準用する場合を含む)の規定に依る業務の停止に違反したるときは六月以下の懲役若は禁錮又は五百円以下の罰金に処す
 ②宗教団体又は宗教結社に対し第十六条(前条に於て準用する場合を含む)の規定に依る制限又は禁止ありたる場合に於て当該宗教団体又は宗教結社の代表者其の他の機関の職にある者、教師又は布教者制限又は禁止ありたることを知りて其の行為を為したるとき亦前項に同じ

第二十七条 宗教結社の代表者第二十三条の規定に依る届出を為さず又は虚偽の届出を為したるときは三百円以下の罰金に処す

第二十八条 法人たる宗教団体の代表者左の各号の一に該当するときは二百円以下の過料に処す
 一 第十三条第一項又は第十五条に於て準用する民法第七十七条の規定に依る登記を為さざるとき
 二 第十五条に於て準用する民法第五十一条第一項の規定に違反し又は財産目録に虚偽の記載を為したるとき
 三 第十五条に於て準用する民法第八十二条の規定に依る裁判所の検査を妨げたるとき
 四 第十五条に於て準用する民法第八十一条の規定に依る破産宣告の請求を為さざるとき
 五 第十五条に於て準用する民法第七十九条又は第八十一条の規定に依る公告を為さず又は不正の公告を為したるとき
 ②宗教団体又は宗教結社の代表者第十八条(第二十五条に於て準用する場合を含む)の規定に依る報告を為さず、虚偽の報告を為し又は調査を妨げたるとき及宗教結社の代表者第二十四条の規定に依る届出を為さず又は虚偽の届出を為したるとき亦前項に同じ
 ③非訴事件手続法第二百六条乃至第二百八条の規定は前二項の過料に付之を準用す
   
   附 則

第二十九条 本法施行の期日は勅令を以て之を定む

第三十条 明治六年太政官第二百四十九号布告、明治十年太政官第四十三号布告及明治十七年太政官第十九号布達は之を廃止す

第三十一条 本法施行の際現に存する教派又は宗派は之を本法により設立を認可せられたる法人に非ざる教派又は宗派と看做し其の管長は之を本法に依る管長と看做す
 ②前項の教派又は宗派は本法施行後一年内に教規又は宗制を定め主務大臣の認可を受くることを要す其の認可ある迄従前の教規又は宗制寺法を以て教規又は宗制に代用す

第三十二条 本法施行の際現に寺院明細帳に登録せらるる寺院は之を本法に依り設立を認可せられたる寺院と看做し本法施行の際現に存する祠宇は之を本法により設立を認可せられたる法人たる教会と看做す
 ②前項の寺院又は教会は本法施行二年内に寺院規則又は教会規則を定め総代の同意を得管長の承認を経地方長官の認可を受くることを要す其の寺院規則又は教会規則の認可ある迄の寺院又は教会に関しては命令を以て別段の規定を設くることを得
 ③地方長官前項の規定に依り寺院規則又は教会規則を認可したるときは勅令の定むる所に依り登記所に登記の嘱託を為すべし

第三十三条 本法施行前教会所、堂宇、会堂、説教所又は講義所の類として設立の許可を受けたるものにして本法施行の際現に存するものは之を本法に依り設立を認可せられたる法人に非ざる教会と看做す
 ②前条第二項の規定は前項の教会に付之を準用す

第三十四条 第三十二条第一項又は前条第一項の寺院又は教会を主管し之を代表する者にして本法施行の際現に其の職に在るものは之を本法に依る住職又は教会主管者と看做し其の檀徒総代又は信徒総代にして本法施行の際現に其の職に在るものは之を本法に依る総代と看做す

第三十五条 本法施行の際現に仏堂明細帳に登録せらるる仏堂は勅令の定むる所に依り本法施行後二年内に寺院に属し又は寺院若は教会と為ることを得其の寺院に属せず又は寺院若は教会と為らざるものの処分に関しては勅令を以て之を定む
 ②前項の仏堂にして寺院に属せず又は寺院若は教会と為らざるものに付ては本法施行後二年を限り仍従前の例に依る

第三十六条 本法施行の際現に存する宗教結社に付ては代表者に於て宗教結社の規則を定め本法施行後十四日内に地方長官に届出づることを要す
 ②前項の宗教結社の代表者前項の規定に依る届出を為さず又は虚偽の届出を為したるときは三百円以下の罰金に処す

第三十七条 登録税法第二条及び第三条の二中「寺院、祠宇、仏堂」を「法人たる宗教団体」に改む
 ②同法第十九条但書「第八号乃至第九号の四」を「第二号の二、第八号乃至第九号の四」に改め同条第二号を左の如く改む
 二 神社の敷地に関する登記
 二ノ二 寺院の境内地若は教会の構内地又は寺院若は教会の用に供する建物に関する登記
 二ノ三 墳墓地に関する登記
 ③第三十五条第一項の仏堂にして寺院に属せず又は寺院若は教会と為らざるものの不動産に関する登記に付ては前二項の改正規定に拘らず本法施行後二年を限り仍従前の例に依る

 第三十五条第二項、第三十七条第三項の「仍」の読みは「なほ」(なお)であろう。
 明日は、赤松徹真教授の論文の紹介に戻る。

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宗教に対する統制は、文部省の自由裁量(宗教団体法)

2022-08-29 02:13:59 | コラムと名言

◎宗教に対する統制は、文部省の自由裁量(宗教団体法)

 赤松徹真教授の論文〝総戦力下の神仏問題と本願寺派「宗制」〟を紹介している。本日は、その二回目で、「宗教団体法」について解説している部分を引用させていただきたい。

 政府は一九三九(昭和十四)年四月八日に宗教団体法を法律第七七号して公布し、翌年四月一日に施行した。関係法令として一九三九年十二月二十三日には宗教団体法施行令を、一九四〇年一月十日には宗教団体法施行規則などを制定した。この宗教団体法は、宗教団体と宗教結社に適用されたのである。宗教団体法の第一条には「本法ニ於テ宗教団体トハ神道教派、仏教宗派及基督教其ノ他ノ宗教ノ教団(以下単ニ教派、宗派、教団ト称ス)並ニ寺院及教会ヲ謂フ」と規定し、第二条には「教派、宗派及教団並ニ教会ハ之ヲ法人ト為スコトヲ得 2 寺院ハ之ヲ法人トス」とした。そして、第三条で「教派、宗派又ハ教団ヲ設立セントスルトキハ設立者ニ於テ教規、宗制又ハ教団規則ヲ具シ法人タラントスルモノニ在リテハ其ノ旨ヲ明ニシ主務大臣ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス」と、宗教団体は「主務大臣ノ認可」を必要とするとされた。そして、第四条では「教派及宗派ニハ管長ヲ、教団ニハ教団統理者ヲ置クベシ」として、管長および教団統理者の配置を規定した。また、第十六条では、
 《宗教団体又ハ教師ノ行フ宗教、教義ノ宣布若ハ儀式ノ執行又ハ宗教上ノ行事ガ安寧秩序ヲ妨ゲ又ハ臣民タルノ義務ニ背クトキハ主務大臣ハ之ヲ制限シ若ハ禁止シ、教師ノ業務ヲ停止シ又ハ宗教団体ノ設立ノ認可ヲ取消スコトヲ得》
と、宗教団体および「教師」が「安寧秩序ヲ妨ゲ又ハ臣民タルノ義務ニ背クトキハ」主務大臣による制限又は禁止、さらに設立認可の取り消しを規定した。第十七条では、
 《宗教団体又ハ其ノ機関ノ職ニ在ル者法令又ハ教規、宗制、教団規則、寺院規則若ハ教会規則ニ違反シ其ノ他公益ヲ害スベキ行為ヲ為シタルトキハ主務大臣ハ之ヲ取消シ、停止シ若ハ禁止シ又ハ機関ノ職ニ在ル者ノ改任ヲ命ズルコトヲ得
 2 教師法令ニ違反シ其ノ他公益ヲ害スベキ行為ヲ為シタルトキハ主務大臣ハ其ノ業務ヲ停止スルコトヲ得》
とし、第十八条「主務大臣ハ宗教団体ニ対シ監督上必要アル場合ニ於テハ報告ヲ徴シ又ハ実況ヲ調査スルコトヲ得」、第十九条「主務大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法ニ規定スル其ノ権限ノ一部ヲ地方長官ニ委任スルコトヲ得」、第二十三条「宗教団体ニ非ズシテ宗教ノ教義ノ宣布及儀式ノ執行ヲ為ス結社(以下宗教結社ト称ス)ヲ組織シタルトキハ代表者ニ於テ規則ヲ定メ十四日内ニ地方長官ニ届出ヅルコトヲ要ス届出事項ニ変更ヲ生ジタルトキ亦同ジ」などと、主務大臣・地方長官による宗教団体への監督・調査を規定したのである。
 このように宗教団体法は、主務官庁である文部省による認可制度を採用し、政府の宗教団体への統制に強力な機能を発揮することになった。認可は、事実上、主務官庁の自由裁量であった。この宗教団体法の施行に際して、神道教派十三派、仏教宗派十三宗五十六派のなかで、一九四一年三月以降、仏教界では文部大臣の設立認可を受けたのは十三宗二十八派で、派の統合が行政指導を伴って行われた。〈二二四~二二五ページ〉

 文中の下線は、引用者によるものである。この部分を、再度、引用してみる。

 宗教団体法は、主務官庁である文部省による認可制度を採用し、政府の宗教団体への統制に強力な機能を発揮することになった。認可は、事実上、主務官庁の自由裁量であった。〈二二五ページ〉

 なお、「宗教団体法」は、インターネット上で、その全文が閲覧できる。【この話、続く】

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「総戦力下」における宗教統制と宗教弾圧

2022-08-28 03:31:43 | コラムと名言

◎「総戦力下」における宗教統制と宗教弾圧

 龍谷大学の赤松徹真(あかまつ・てっしん)教授に、〝総戦力下の神仏問題と本願寺派「宗制」〟という興味深い論文がある(『眞宗研究 眞宗連合學會研究紀要』第五二巻、二〇〇八年三月)。
 その論文の中で、赤松教授は、「総戦力下」における政府の宗教統制について、次のようにまとめている。

 さて、政府は、法律第七七号として宗教団体法を一九四〇(昭和十五)年四月一日に施行し、宗教界を管轄する文部省は、九月に三教〔教派神道・仏教・キリスト教〕代表者を集めて、各宗派の合同を強硬に求め、各宗の翼賛体制への参加を強力に行政指導していた。一九四一(昭和十六)年三月に仏教連合会は「大日本仏教会」に改組し、七月には文部省と大政翼賛会の後援で各宗首脳五百人が東京小石川伝通院〈デンヅウイン〉に集まり、第一回の大日本宗教報国会を開催した。それは明らかに政府の意向に応えるものであった。翌年二月には、三教の「大詔奉戴宗教報国大会」が代表二千名の参加のもとで開催され、四月には神仏基イスラムが「興亜宗教同盟」を結成し、総裁に林銑十郎〈ハヤシ・センジュウロウ〉、副総裁に大谷光瑞、理事長に、永井柳太郎、遠藤柳作らが就任した。十月には、物資不足が懸念される中で寺院の仏具、党鐘などの軍需品生産の資材として供出する方針を決定した。一九四三(昭和十八)年九月には、三教連合の「財団法人大日本戦時宗教報国会」が作られ、事務局を文部省内において「文部省と表裏一体となって宗教報国に邁進することを」明らかにしたのである。一九四四(昭和十九)年一月には、〔岡部長景〕文部大臣の下に「宗教教化方策委員会」を設置し、五月には三教の参加で「宗教教化活動促進に関する答申」を出し、八月には政府は「戦時宗教教化活動強化方策要綱」を決定し、九月にはその決定にもとづき三教の各連合会を解消して「大日本戦時宗教報国会」を結成したのである。このように、文部省管轄下のある宗教界は、総力戦体制を翼賛する組織、国民動員の装置として機能していたのである。〈二二三~二二四ページ〉

 若干、注釈する。大谷光瑞(おおたに・こうずい、一八七六~一九四八)は、浄土真宗本願寺派第二十二世法主。永井柳太郎(ながい・りゅうたろう、一八八一~一九四四)は、政党政治家。遠藤柳作(えんどう・りゅうさく、一八八六~一九六三)は、官僚、政治家、弁護士。
 ここで赤松教授は、宗教弾圧については言及していないが、同時期、深刻な事例が数多く生じている。たとえば、一九四一年(昭和一六)四月には、旧「本門法華宗」(同年三月の宗派合同によって「法華宗」の一部となっていた)に対して不敬罪が問われ、幹部ら六名が逮捕された。一九四三年(昭和一八)七月には、創価教育学会(創価学会の前身)に対して不敬罪と治安維持法違反が問われ、幹部ら二一名が逮捕された。
「宗教団体法」は、一九三九年(昭和一四)四月公布、翌年四月施行。赤松教授は、同法について、この論文で要を得た解説をおこなっている(次回のブログで引用)。なお、赤松教授の論文は、インターネット上で、容易に閲覧できる。【この話、続く】

*このブログの人気記事 2022・8・28(10位のベッベルスは久しぶり)

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僕は北さんの所で朝日平吾に会っている(嶋野三郎)

2022-08-27 00:03:39 | コラムと名言

◎僕は北さんの所で朝日平吾に会っている(嶋野三郎)

 当ブログでは、今月三日から六日にかけて、吉野作造の「朝日平吾論」を紹介した。民本主義者として知られる吉野作造が、テロリズムを擁護するかの如き発言をしていたことに、かなり驚いた。
 その後、朝日平吾のことについて、少し調べてみた。今のところ、参照できたのは、次の諸文献である。

・宮島資夫『金(かね)』〔小説〕萬生閣、一九二六年四月【国立国会図書館デジタルライブラリー】
・吉野作造「宮島資夫君の『金』を読む=朝日平吾論」吉野作造『講学余談』〔吉野作造著作集「主張と閑談」第六〕文化生活研究会、一九二七年五月【国立国会図書館デジタルライブラリー】
・久野 収「日本の超国家主義―昭和維新の思想―」久野 収・鶴見俊輔『現代日本の思想―その五つの渦―』岩波新書、一九五六年一一月
・津久井龍雄・橋川文三(対談)「諌死・斬奸の思想」『伝統と現代』の第14号〔暗殺〕、一九七二年三月【今月二日のブログで紹介済み】
・川合貞吉『北一輝』新人物往来社、一九七二年一二月
・吉田喜重監督(別役実脚本)『戒厳令』現代映画社・日本ATG 、一九七七年七月【DVD、ジェネオンエンタテイメント】
・鈴木邦男(聞き手)「老壮会・嶋野三郎氏に聞く」島津書房編『証言・昭和維新運動』島津書房、一九七七年二月

 社会運動家の川合貞吉(かわい・ていきち、一九〇一~一九八一)は、その著書『北一輝』の一八二ページで、朝日平吾について次のように述べている。

 かれの遺言状をみると、天皇の権威を逆手にとり、日本を改造しようとした、北の手法をそのまま使ったことがうかがわれる。朝日平吾は北一輝とはなんの面識もなかった。しかし天皇の権威を逆手に使って、当時の日本の政治権力構造の一部をなす財閥に一弾を放った点では、北一輝の一番弟子といってもよい。

「朝日平吾は北一輝とはなんの面識もなかった」とある。しかし、朝日平吾が生前、北一輝のところに出入りしていたという証言もある。
「老壮会・嶋野三郎氏に聞く」の一六~一七ページには、次のようにある(聞き手は、鈴木邦男氏)。

 ――北一輝のまわりには、ずい分と面白い人間が集まっていたんですね。
 嶋野 北さんの家で会ったんだが、朝日平吾という男は一徹もんだったな。
 ――朝日平吾というと、安田財閥の安田善次郎を殺して、その場で自決したという…。
 嶋野 そうそう。時折北さんの所へ来ていたよ。伊達順之助を色白にしたようで、男ぶりがよかったな。
 ――朝日平吾は、自決後、遺書と血染の服を北にやるように、言付けていたらしいですね。しかし色々な本を読んでも、朝日の方では北に傾倒していたが、北には一度も会ったことがなかったと書かれているのですが。
 嶋野 そんなことはないよ。現に僕は北さんの所で会ってるんだもん。北さんは朴烈だとか、大杉栄だとか、多くの変わった人間とのつき合いがあるんだが、あまり、そんなことは人には言わなかったね。

 嶋野三郎(一八九三~一九八二)は、ロシア研究家。老壮会・猶存社・行地会に参加。
 北一輝と朝日平吾との関わりについては、補足したいことがあるが、機会を改める。

*このブログの人気記事 2022・8・27(9位の安重根、10位の吉本隆明は久しぶり)

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