◎『綴方教室』は、たちまち異常な反響を呼んだ
昨日は、大木顕一郎・清水幸治著『綴方教室』(中央公論社、一九三七)について紹介した。本日は、豊田正子著『定本 綴方教室―附 悲しき記録―』(角川文庫、一九五二)について紹介したい。
今、机上に、角川文庫版『定本 綴方教室』がある。表紙をめくると、本扉(内表紙)の左上に、エンピツ書きで「100」とある。このことから、駿河台下の「三茶書房」で買い求めたものであることがわかる。おそらく、四〇年以上、前だったと思う(古書価は一〇〇円)。
奥付には、「昭和二十七年二月二十日 初版発行/昭和二十九年一月二十日 四版発行」、「臨時定価 百円」、「著作者 豊田正子【とよだまさこ】」などとある。
角川文庫版『綴方教室』は、第一部・第二部・附録の三部構成になっている。第一部には、中央公論社版『綴方教室』の「前篇」で紹介されていた豊田正子の「綴方」二十六篇が、すべて収められている。第二部には、豊田正子著『続綴方教室』(中央公論社、一九三九年一月)に収録されていた豊田正子の「綴方」二十四篇のうち、十二篇が収められている。附録は、「悲しき記録」として括られた三篇の文章である。
巻末には、「角川文庫編集部」による「解説」がある。本日以降、これを二回に分けて紹介する。
解 説
初めの「綴方教室」は、昭和十二年七月、大木顕一郎、清水幸治両氏の編著として、中央公論社から出版された。そしてこの本の半ば以上をとる前篇は、全部豊田正子の作品で占められていた。それで、編者も序文の中で、「この記録は、豊田正子の個人文集と考えて頂く方が適当であるかも知れない」とことわつているほどである。
この本はたちまち異常な反響をよんで、つぎつぎと版を重ね、劇化されて築地小劇場(山本安英主演)で上演され、さらに東宝で映画化(山本嘉次郎演出、高峰秀子主演)されて、記録的な好評を博した。しかし、劇でも、映画でも「綴方教室」の原作者として豊田正子の名をかかげていたとおり、世評の焦点となつたものは、天才少女豊田正子とその作品であつた。
当時文学者の間でも、「綴方教室」はひろく問題にされ、新聞や雑誌の上にたくさんの批評と記事があらわれたが、この方面でも問題の中心はやはり豊田正子であつた。それで、あくる昭和十三年〔ママ〕、中央公論社から「続綴方教室」が出版されたが、これはまぎれもなく、豊田正子の著となつていた。
本書の第一部におさめたのが、初めの「綴方教室」に収録されたもので、第二部の分が「続綴方教室」に集められたものである。それから、附録の「悲しき記録」は今回初めて公表されるものである。【以下、次回】
文中、「あくる昭和十三年」とあるのは、原文のまま。『続綴方教室』奥付によれば、同書の発行日は「昭和十四年一月八日」である。