礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

天皇を戴く民本政治に我より進んで復帰

2017-07-17 01:14:38 | コラムと名言

◎天皇を戴く民本政治に我より進んで復帰

 富田健治著『敗戦日本の内側――近衛公の思い出』(古今書院、一九六二)の紹介を続ける。
 一昨日および昨日は、第四〇号「『戦争終結』への木戸構想」を紹介したが、本日以降は、第四一号「対ソ仲介交渉」を紹介する。

(四一)対ソ仲介交渉
   (昭和三十四年〔一九五九〕三月十日記)

 前号に述べた通り、近衛公から委嘱を受けた酒井鎬次氏はソ連不信の念を懐きつゝも、近衛公の陛下に対する至誠の念と、大東亜戦争早期終結のためという名分に感激して、ソ連に対する仲介交渉案を一夜のうちに書きまとめ、更にこれに付、六時間にも亘って近衛公と二人、膝詰めで論議し合い、遂に「和平交渉の要綱」なるものが次の通り、でき上ったのである。
   和平交渉の要綱
  一、方 針
 (一)、聖慮を奉戴しなし得る限り速かに戦争を終結し、以って我国民は勿論世界人類全般を、迅速に戦禍より救出し、御仁慈の精神を内外に徹底せしむることに全力を傾倒す。
 (二)、これがため内外の切迫せる情勢を広く達観し、交渉条件の如きは前項方針の達成に重点を置き、難き〈カタキ〉を求めず、悠久なる我国体を護持することを主眼とし、細部については、他日の再起大成に俟つ〈マツ〉の宏量を以って、交渉に臨むものとす。
 (三)、ソ連の仲介による交渉成立に極力努力するも、万一失敗に帰したる時は、直ちに米英との直接交渉を開始す。その交渉方針及び条件に就ては、概ね本要綱に依るものとす。
  二、条 件
 (一)、国体及び国土
(イ)、国体の護持は絶対にして、一歩も譲らざること。
(ロ)、国土に就ては、なるべく他日の再起に便〈ベン〉なることに努むるも、止むを得ざれば固有本土を以って満足す。
 (二)、行政司法
(イ)、我国古来の伝統たる天皇を戴く民本〈ミンポン〉政治には、我より進んで復帰するを約す。これが実行のため、若干法規の改正、教育の革新にも亦同意す。
(ロ)、行政は右の趣旨に基づき、帝国政府自らこれに当るに努むるも、止むを得ざれば、彼我協議の上一部の干渉を承諾す。
 (三)、陸海空軍軍備
(イ)、国内の治安確保に必要なる最小限度の兵力は、これを保有することに努むるも、止むを得ざれば、一時完全なる武装解除に同意する。
(ロ)、海外にある軍隊は現地に於て復員し、内地に帰還せしむることに努むるも、止むを得ざれば、当分その若干を現地に残留せしむることに同意す。
(ハ)、内地にある軍隊は、(イ)項に関するものを除き、他を悉く速かに復員す。
(ニ)、兵器、弾薬、軍用艦船、航空機は(イ)項に関するものを除き、これを廃棄又は提出することに同意す。
  (四)、賠償及び其他
(イ)、賠償として、一部の労力を提出することには同意す。
(ロ)、条約実施保障のための軍事占領は、成るべくこれを行なわざることに努むるも、止むを得ざれば、一時若干軍隊の駐屯を認む。
  (五)、国民生活
(イ)窮迫せる刻下の国民生活保持のため、食糧の輸入、軽工業の再建等に関し、必要なる援助を得るに努む。
(ロ)、国土に比し人口過剰なるに鑑み〈カンガミ〉、これが是正のため必要なる条件の獲得に努む。
 三、休戦と和平との関係
 (一)、本要綱の諸条件は、なるべくこれを休戦条約に包含せしむることに努むるも、先ず速かに休戦を成立せしめ、国民を戦禍より救うの必要上、止むを得ざれば、その一部を平和会議に移すことに同意する。
 (二)、右の場合、前諸項条件中重要なるものに関しては、少なくとも好意ある保障を取り付くるに努む。

 以上が、「和平交渉の要綱」で、このあとに、その「解説」が付く。「解説」の紹介は、次回。

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