週刊誌によく「危険な薬」「飲んでいはいけない薬」なんて見出しが並んでいるのを目にします。
確かに危険な薬はあります。というか危険じゃない薬なんてありません。
例えば、処方箋なくドラッグストアで買える鎮痛剤。
実はそれを1錠飲むだけで死ぬ可能性があると添付文書に記載されています。
もちろん具体的に死ぬと書かれているわけではありません。
たとえば、重大な副作用の項目にある中毒性表皮壊死症。これは死に至りうる副作用の一つです。
副作用の頻度は不明、つまりかなり低いということではありますが、発症すれば死亡率20-40%。
かなり高い死亡率だと思いませんか。
普段何気なく飲んでいる痛み止め1錠にも内服することで死ぬリスクがあるわけです。
だから必要ない薬は飲まないに越したことはありません。
だけど、現実には不必要と思える薬を大量に飲んでいる人はかなり多いです。
高齢な患者さんのお薬手帳見せてもらったら20種類くらい並んでいることもしばしば。
いくら安く出してもらえるからってそんなに要らないでしょう…。
週刊誌の記事はそういう日本ならではの医療体制に付け込んだ悪質な記事です。
監修しているのは大抵うさん臭い本を書いているような怪しげな医者です。
普通の医者とは考え方を異にしている人が多いです。
その記事の締めの文言は「ガイドラインにとらわれてはいけない。真の名医の主張に耳をかたむけるべきだ」でした。
啓蒙のつもりでそういうことを発信したいのだとしたら、あまりに罪深いと思います。
医療界のガイドラインは原則として絶対的なものです。(これも反論はありますけどね)
頭のいい優秀な医者が集まって、海外や国内の研究結果や実臨床の状況も踏まえ、
あーだこーだと議論したうえでこれが一番良い治療だというのを提示しています。
三人寄れば文殊の知恵といいますが、文殊が三人以上寄って決めているのがガイドラインです。
それよりもたった一人の変わり者の医者の言うことのほうが正しいと信じるに足る理由がありますか?
その週刊誌の記事を流し読みした限りでは、ガイドラインに反論するだけの強い論拠の記載はありませんでした。
ちなみに個人の経験に基づく診療というのは一番信用できないものとされています。
もちろん、月日が経って過去のガイドラインが間違っていたと分かることもあります。
だけど、ガイドラインを逸脱したことをしていて患者が不利益を被ったケースのほうが圧倒的に多いのは間違いありません。
標準治療はガイドラインに準拠した最も効果的な治療です。
それを逸脱した治療を行う場合は、大きなデメリットを伴う可能性があると分かったうえで行わなければなりません。
多くの場合、患者さんはそれが分かっていません。
だから僕は甘い言葉で患者を惑わせる「名医」が嫌いです。
最近もテレビでステロイド外用薬を否定するような番組をやっていたとか聞きますし、
HPVワクチンの副作用が重篤だとさんざん騒ぎ立てて
子宮頸がんが唯一増加する国日本を作り上げたメディアは誤りを訂正しようともしない。
報道や表現の自由は確かに大切なんでしょう。
玉石混交の情報を取捨選択できる人ばかりなら問題にならないでしょう。
でも現実はそうじゃないんです。
人を不幸にしうる情報をばらまいている人たちの倫理観を疑います。
良かれと思ってやっているのかもしれませんが、本音は違うのではないでしょうか。
僕は決して名医じゃありません。
自分が関わったせいで患者に不利益を与えないかいつもびくびくしています。
ただ、少なくともそうならないようにしようという自負はあります。