少し前に週刊誌で「飲んではいけない薬」が話題になっていました。
定期的にこういう話題が出てきますね。
あういうセンセーショナルなことを言う人は
往々にして根拠の乏しい個人的な感想を言っているだけなので、気にしなくて構いません。
(尤もこの記事も出典が怪しい情報も載せていますので、話半分に読んでください 笑)
ただ、中にはまともな先生がまともなことを書いている項目が紛れ込んでいます。
具体的には「経口抗生剤」の項目がそう。
感染症の分野で有名な神戸大の岩田先生が「フロモックス」「メイアクト」「クラリス」をあげていたようです。
クラリスは少し種類が違いますが、フロモックス、メイアクトは僕も嫌いな薬です。
以下は第三世代経口セフェム系の抗生物質に分類されるもので、
風邪の時やけがの時の「化膿止め」としてよく処方される薬です。
①「フロモックス(セフカペンピボキシル)」(不明)
②「メイアクト(セフジトレンピボキシル)」(16%)
③「セフゾン(セフジニル)」(25%)
④「トミロン(セフテラムピボキシル)」(不明)
⑤「バナン(セフポドキシム)」(50%)
これらの薬、内服するメリットよりもデメリットのほうが大きい、百害あって一利なしの薬です。
( )の数字はバイオアベイラビリティ(bioavailability)という数字です。
簡単に言うと飲んだ薬のうち、どれだけが血中に移行するかを表す数値です。
(サンフォード感染症ガイド2013にきちんとした記載があるそうなので、気になる人はそっちを見てね)
特によく処方される上の3剤のバイオアベイラビリティなんて10-20%(!)
つまり、飲んでも吸収されないんです。
当然、一般的な処方量じゃ細菌をやっつけるだけの血中濃度に達し得ないんです。
(参考までに同系統の抗生物質の点滴ではは普通1g*2-3回/日で投与しますが、
これらの経口抗生剤は100㎎*3錠/日ぐらいの量で処方されます。それの10-20%がどれだけ低い数値か・・)
「でも薬を飲んだらよくなったよ?」
それは薬に関係なく自然に軽快したにすぎません。
この薬に限らず、厚生労働省が日本で抗生剤があまりに乱用されることを憂いて
無駄な抗生剤処方はやめるように通達をだしています。
→ネットで読めます
これによれば一般的な診療所の外来を受診するほとんどの患者で抗生剤が不要ということになります。
それもまあ極端なので、飲み薬の抗生剤を出したいと思ったら何を出すか
①ペニシリン:サワシリン
②第1世代セフェム:ケフラール
この辺が僕は好きです。
バイオアベイラビリティ80-90%だし、僕が飲み薬でやっつけたいと思う細菌はほとんどこれでカバーできます。
第3世代セフェム系抗生剤は点滴として使うときは非常な強力なツールとなります。
ところが、経口抗生剤を飲んだせいで病原性を持った耐性菌が増えてしまうと、いざ必要な時に抗生剤治療が効かなくなります。
また、吸収されないということはそのまま便中に排泄されやすいということ。
腸内細菌叢がめちゃくちゃにかき乱され「偽膜性腸炎」という抗生剤投与に特有な副作用が出やすいとの指摘もあるようです。
ただ、僕が添付文章に書いてある情報を見た限りでは他の抗生剤に比べ極端にそのリスクが高いというほどのことはなさそうでした。
いずれにしたって、飲む必要ないんですから飲まなければいいんです。
みなさんも「念のために抗生剤出しておきますね」と言われて経口第3セフェムが処方されそうなら、
断るか第1セフェムまたはペニシリンに変えてもらってください。
本文とは全く関係ないけど、この前言ってきた学会会場の写真。
横浜っておしゃれな街ですね。