本と映像の森 223 F・ホイル&J・エリオット『アンドロメダのA』<ハヤカワSFシリーズ3171>、早川書房、1974年(昭和49年)6月30日4版、新書版、276ページ、定価570円
「アンドロメダ…」というタイトルの文芸作品では、マイケル・クライトンさんの小説『アンドロメダ病原体』や、竹宮恵子さんのコミック『アンドロメダ・ストーリーズ』が傑作ですね。
イギリスが1960年代に建設した巨大電波望遠鏡(つまり、巨大なお椀です)で、宇宙からの明らかな人工電波をとらえます。
それがアンドロメダ星雲の付近から発していたというので、別にアンドロメダ星雲M31でなくてもいいのですが、やはり「アンドロメダ」って、素敵な名前なので、ホイルさんも使いたかったのでしょうね。
ぼくだったら「白鳥のA」とか「琴座のA」にしますが。
その宇宙文明からの電波を解析した科学者、ジョン・フレミングは、その電波が巨大なコンピュータの組み立て設計図であるとして、その建設を政府に提唱します。
科学者や政府関係者などが、入り乱れているので、最初は軍人で「報道官」として電波天文台に赴任する若い女性ジュディが語り手なので、主人公かと思ったのですが、違っていて、実は、主人公は科学者のフレミングと、別の若い女性です。
建設されたコンピューターが主体性をもっていて、最初は生命体を、そして知性を持つ、あきらかに人類を模した若い女性が生まれたことで、その若い女性「アンドロメダ」=「アンドレ」が米ソ冷戦の課題を解決し始め、主体と客体が逆転し始めます。
1960年代に創られた「アンドロメダのA」と、1990年代に創られた、カール・セーガンさんの「コンタクト」は、同じような宇宙文明からの電波を受けてその内容を解読して何かを創る話ですが、悪意の宇宙文明から善意の宇宙文明に変化しているのは、冷戦の終わりと関係しているかもしれませんね。
イギリス首相は言います「美人と女性は第一だ」。アホですね。
おもしろいのは、みんなが宇宙からの電波を解読して建設された巨大電子頭脳と、地球人そっくりの若い女性アンドロメダの一体性を信じているのに、ただ一人、フレミングだけは、その一体性を疑い、アンドロメダを独自の人間として、感性や心をもった個性として扱うことで、アンドロメダと意志を通じることです。
フレミングは自分を殺しに来たアンドロメダに言います。
「君はたんなる思考器械じゃないはずだ。君は我々に似せて作ってあるのだから」「違うわ!」「君は感覚を持っている。感情もある。君は4分の3は人類そのものだ。ただ、人類の破滅をもくろんでいる何者かに、強制的に縛り付けられているだけだ」(p240~241)