前日にみどりの窓口で乗車券・特急券を購入し、5時起きして久遠寺に出かけた。久遠寺は満開の枝垂れ桜と五重塔という絵柄のポスターぐらいしか知らない。立川から甲府まで「あずさ号」、甲府で「ふじかわ号」に乗り換えて国分寺から身延まで約2時間半で到着する。この日は雲は低く垂れこめて、計画を一日延ばすべきだったと悔いたが、雨の身延山も得難い体験になるだろうと開き直った。
バスは身延駅から富士川を渡り、坂を登り「総門」をくぐりぬけ門内商店街の「三門」の近くが終点だ。普通は山門だから、これは駄洒落なのかと訝った。三門横の観光案内所で地図を手に入れて、外に出るとはやばやと大粒の雨が落ちてきた。三門とは「空・無想・無願」の解脱を意味するという、それにしても巨大な門だった。三門をくぐるとそこからは厳粛な聖域だった。
両側を巨大な杉の並木の囲われた、ごつごつした石畳を歩いていくと正面に、天にそそり立つ長い石段が見える。「菩提梯」と呼ばれ高さ104mで287段もある急な石段である。無理は禁物の警告の立て札がある。菩提とは悟りの境地、すなわち「悟りへの階段」である。これを登り切ることが今回の楽しみの一つだった。足の置き場は狭く、腿を高く上げなければ登れない。
登る石段は太いステンレスのパイプの手すりが命綱である。途中逃げ道もあるが、心臓の鼓動を静めつつ集中して登り続ける。左手には傘、右手でパイプをこすり上げるたびに水が撥ねる。慎重に慎重に登りつめると最後の石段の向こうに荘厳な本堂が目に飛び込んできた。このような劇的な瞬間を演出したのは何者だろうか。あるいは劇的と感じたのは私だけだったのか。思いのほか広い境内に、本堂、祖師堂、仏殿、五重塔などが偉容を誇っていた。
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