風のささやき 俳句のblog

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詩や短歌も掲載しています

眠れる処 【詩】

2019年02月28日 | 
「眠れる処」

眠りの中にも
もう安らぎは忘れ果てた
僕の心臓は
苦し紛れの鼓動を打ち鳴らしている

いつから人は
静かな眠りを失って
夜も昼も絶え間なく押し寄せる苦しみに
身悶えるのだろう

曇り空の砂浜に打ち寄せる
終わり知らない波の繰り返しに
呆然と呆れ尽くすように

僕の体は蝶番のとれかけた
ドアのように軋んでしまった
そのうち腕や足が
僕の体から剥がれて風に
飛ばされるかも知れない

目の中に入り込んでくる
毎日の極彩色の映像に
僕の脳は焦げ付いてしまった
きな臭い思いだけが僕の意識に飛び込んでくる

そんな苦々しい
一日を終わらせるために
僕はいつものこの部屋で
一人暗闇を抱いて汗ばんだ
眠りを貪ろうとする
眠りの中に今日こそは
安らぎがあるかも知れないと
虚しい期待をかけながら

頭の重さに眠れない僕は
窓を開けて夜空を見上げて

空には細い夏の月
そこにも僕が
安らかに眠れるところはない と

芽ぐむもの日々手を広げる勢いと赤子は成長競いおり 【短歌】

2019年02月27日 | 短歌
一日雨が降ったと思っていたら
次の日には木々の柔らかな木の芽が
随分と目立つようになっていました

それ以来
毎日のように木の芽は大きくなり
緑の濃さを増して行きます
その勢いには驚くばかりです

その勢いにも劣らぬぐらいの
成長を見せる赤ん坊

昨日できなかったがことが
今日には出来ていたりと
こちらの想像以上の成長ぶりに
驚いてしまいます

日々下降傾向の自分から見ると
羨ましい限りです

招きたし芽ばり柳の祓いかな 【季語:芽ばり柳】

2019年02月23日 | 俳句:春 植物
川原ではまだうすら寒い大地をよそに
柳が一足早く柔らかい芽をつけていました

それが風に吹かれるとゆっくりと揺れ
まるで神主さんが大麻(おおあさ)を振って
お祓いの儀式をしているかのようです

どこかに残っている冬の欠片を
すっかりと祓い
まだ目覚めぬ大地に
春を招き入れようとしているのでしょうか

そんな大変な役割を与えられた
柳はどこか誇らしげで
風吹くたびに芽吹いた枝を揺らしていました

大木の詩 【詩】

2019年02月21日 | 

「大木の詩」


幸せな 雨に打たれる
乾いた 喉が潤う
傘をさして 人は避ける
雨の その奥にある慈しみを
いつでも 感じていたい

勢いよく ひろがる若葉
夜の暗さに 怖がっていたのに
もう 語りかける 必要もない
何も 怖がらなくていいと
暗い夜に守られて
お前たちは成長をする

今では それぞれの葉が
それぞれの緑で
光と風とを つかもうと動く
その勢いに 枝先は
少しこそばゆいほどだ

空に昇る 春の月の
朧な明るさも とても好きだけれど
優しく幹を 濡らす雨に
今 ひとときは 打たれていたい

透明な 樹液となり
枝の先に 一葉 一葉に
言葉を届ける 雨は伝える
真っ直ぐに空へ 伸びてゆくのだと
命の ほとばしるままに

この不思議な恵みを
誰が降らせるのか 僕は知らない
ただこの場所で
大地にしっかりと 根をおろし
空の高みを 目指すだけ
雨がこうして 僕を濡らし
励ましてくれる 限りは


咳をする子の背をさする手の無力自分の咳をぐっと飲むのみ 【短歌】

2019年02月20日 | 短歌
またもや自分の風邪が
子どもに移ってしまいました

喉の痛みとそれに伴う咳がひどく
一時期直りかけていたのですが
ある日からまた悪くなり
そのまま子どもに移ってしまいました

苦しそうに咳を続ける
子どもの背をさすっていたのですが
喉が痛むのか奇声を発して
ちょっとご機嫌もななめです

薬を飲ませて待つ以外に
風邪を直す術もなく
背中をさする手の無力さを思い

これ以上子どもの状態が悪くならないようにと
まだ直らない自分の咳を飲みこんで我慢していました

ゆるむ紐直す要なし雪囲い 【季語:雪囲い】

2019年02月16日 | 俳句:冬 人事
大分前のことですが
秋田を訪ねた際に
雪の少なさにビックリしました
正月に来た時よりも
雪が少ない感じでした

前の年には
すでに一度
屋根の雪下ろしを
終えていたとのことです

滞在中は太陽の光りが
降り注ぐ時間があり
子供を連れて日光浴をさせていたのですが

家々の庭の雪囲いが
肩透かしを食らったように
手持ち無沙汰に見え
気のゆるみからか
結びつけている紐も緩んだように見えました

このまま行ったら
紐の緩みも直す必要は
ないのだろうなと思っていました

手を止めて黄ばむ詩集を繙けば若き涙に濡れられるかな【短歌】

2019年02月13日 | 短歌

引越しで
どの本を持っていこうか
物色していたのですが
本棚の奥から
古い詩集が出てきました

好きな詩が何篇も載っていて
何度も心を揺さぶられて
読み返した詩集です

引越しの手を止め
しばらくは目次から
好きな詩を拾い読んでいました
若き日の心を呼び返しながら

はかどらない引越しの
現実逃避をしていただけなのですが


春立てりベンチに集う昼弁当 【季語:春立てり】

2019年02月09日 | 俳句:春 時候
立春の日は
その名前に似つかわしく
暖かな一日でした

お昼には食事を取りに
外に出かけたのですが
陽のあたる場所に並んでいたベンチは
お弁当を手にした人々で満席の状態

暖かな陽射しを皆
待ち望んでいたのでしょう
お弁当を食べる人々は
陽射しを楽しむように
時折は箸を休めて陽射しを浴びていました

おはように笑ってくれる赤子いる一等賞の嬉しさもらう 【短歌】

2019年02月06日 | 短歌

朝の目覚めが良い子供たち

自分はいつまでも布団が恋しくて
目が覚めてもぐずぐずとしているのですが

子供たちは目を覚ますと
とたんに機嫌良くアーアーと言い始めます

おはようと声をかければそれだけで
嬉しそうに笑ってくれる者がいると
眠気も吹き飛んで
体に力がみなぎる感じを覚えます

親であるだけで笑ってくれる子供たち
自分が特別な人になれたよう
ありがたいなと思います


溺死

2019年02月03日 | 
「溺死」

夜の暗がりを不審者のように
深夜の列車が通り過ぎていく
寝静まっていたレールが悲鳴を上げ
踏み切りの警笛が早鐘のように高鳴る

ところどころに点る街の灯りは
深海魚の目のような青白い光
海草のような薄っぺらい人影が
その下を通り抜けて行く

蜂の巣のような小さな集合住宅には
鼾をかきながら背骨をくの字に眠る人の群れ
ごぼごぼ泡を吹くような
魚くさい吐息が夜に立ち上る

さっきは鰯の群れのような車の明かりが
鋭い頬をした女の横顔を照らしていった
その横顔には確かに大きく羽根を広げた
茶色い蛾のような痣が浮かんでいた

腕時計を眺めたら
歪んだ針の向こう側で
誰かが叫んでいる
まるで溺れているかのように
手足をジタバタと苦しみながら
僕に助けを求めているのだろうか

僕はおかしくもないのに嗤ってみる
時空がゆがんだように自然と口元がねじれるから
あるいは泣いているようにさえ見えるのかも知れないが
僕の心には青白い月よりも冷たい塊が
ひっそりと息づいているだけで
生きている実感なんて露ほどにもないから

道を歩いていくと標識は
僕に謂れの無い行為を強要してくる
ここは止まれ
この先は行くな
ここは右に曲がれと
僕の手足は一体誰のものなのか疑わしくなり

本を読んではおかしな思想に充満される
テレビの上には僕を欺くばかりの映像
音楽は鼓膜を破るだけの破壊道具だ
そのうちこじ開けられた小さな穴めがけて
僕の脳を破壊するための錐のような
超音波が放たれるはずだ

僕は夜の闇にひっそりと息を殺している
僕がここにいることを知られたら
誰かが僕を不意に襲撃に来るはずだ
僕の頚動脈を好物にする奴が

僕はめまいを感じながら
弱々しく翡翠のように点滅をしている
ぐるぐると目を動かして
三百六十度を警戒している

僕はここでは呼吸ができない
海の奥底にいるようで
肺は藻の類で満たされてしまう
僕は地上にいながらに
もっとも苦しく溺れ死んでしまう
自分が死んでいることさえ気がつかないままに