風のささやき 俳句のblog

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詩や短歌も掲載しています

紙くずと間違うばかりに冬鴎 【季語:冬鴎】

2020年11月27日 | 俳句:冬 動物
肌寒い午後
ビルの屋上から
海へと続く水路を眺めていました

水路には小さな船が行き来し
その船にまとわりつくように
何匹もの鴎が輪を描いています

遠くから眺めているせいでしょうか
僕の視点から眺めるかもめは
破り捨てられ風に舞う
汚れた紙くずのようにも見えて

冬に生気を奪われて
軽くなった生命が風に弄ばれているようで
ビルの中にいる
僕も少し肌寒ささえ感じていました

公園は虫にも子にも柔らかい枯葉を敷いた遊べや子供 【短歌】

2020年11月25日 | 短歌
子供たちを連れていく
いつもの公園は
とても緑の多いところです
敷地も広く野球場等も併設されています

そんな公園で色とりどりの枯葉が
あたり一面に落ちて
綺麗な模様を大地に描いていました

それはとても柔らかい絨毯にも似て
子供たちが転んでも守ってくれるようで
安心して子供たちを野放しにできます

子供たちが駈けて行くのにまかせ
僕は空を見上げたりしながら
ゆっくりその後をついていきました

小春日や地面背負いて駄々言う子 【季語:小春日】

2020年11月20日 | 俳句:冬 時候

子供たちを乳母車に乗せて遊びに行く途中
とあるマンションの一角に
コンクリート製の鹿の遊具がありました

小さな子供が背中に乗って遊ぶのに
ちょうど良い大きさのものです

最初は仲良く
その背中に乗って遊んでいた
我が家の双子でしたが

いつものごとく
鹿の背中をめぐっての
喧嘩が始まりました

しばらくはその喧嘩の様子を眺めていたのですが
やがて一人が負けて泣き出しました
一人が背中を独占しています

仕方がないので慰めに行こうと近寄ると
地面に寝ころび泣きながら駄々をこねます

抱き上げようとしたのですが抵抗するので
しばらくそのままにして様子を見ました
暖かな小春日和
地面もそこまで寒くないだろうと思いながら

負けた子供はしばらくは
寝ころんで泣きわめきながら
抵抗を続けました


風が吹いてくる 【詩】

2020年11月19日 | 
「風が吹いてくる」

風が吹いてくる
雪降りそうな曇天の空の下から
細長い葉の並ぶ平原を鳴らし

吹いてきた風は僕に来た
その勢いに胸一杯になって
僕はどきまぎとしていた
その驚きの透明な色合い
風はさらっていった
僕を通りすぎてどこへ

僕の溜息と涙とを
いつかの夜に僕は風に
渡していたことを思い出す
風は僕のまわりで
水を含んだ真綿のように湿った
あの悲しみの跡はまだ風の胸に
抱かれたままなのだろうか

風も最初は誰かの発した
小さな吐息だったのかも知れない
健やかなる幸いへの憧れの
吐息は吐息を集めて
世界を渡り始めた
やがて大きな流れとなり
留まることを知らず
明日へと向って

風が吹きすぎていった
僕はその余韻に浸っている
風があまりにもたくさんの
中身を含んでいたから

僕はそれを自分の言葉で捉えなおし
風にまた返すだろう
風がこれから吹いて行く
見えない地平へと向けて

今日も風が吹いている
透明な人の思いをたくさん集めながら
それはどこへ吹いて行くのか
願わくば
たくさんの人の喜びと笑いを摘むものとして
吹いていくことをと

喪に服す葉書受け取る神楽月今年も沢山人の逝くなり 【短歌】

2020年11月18日 | 短歌
来年の年賀状のことが
頭をよぎるようになるこの時分
喪中を告げる葉書が届くようになりました

直接自分が知っている人が
亡くなったということはないのですが
親戚の親族がなくなったりという知らせです

近くに日々成長する
小さな子供を見ていると
死という現象を見落としがちになりますが

自分に届いた葉書を見ていると
今年も生から解き放たれた
人の数も少なくないことが実感させられます

子を背負う温さ嬉しき冬初め 【季語:冬初め】

2020年11月13日 | 俳句:冬 時候
外出するにも
乳母車を使わずに
歩いて行くことも多くなり

ただ二人とも直ぐに疲れてしまい
抱っこやらおんぶやらをせがんで来るので
それなりに疲れるのですが

先日も道を歩いていたら
おんぶしろとしつこく迫るので
仕方なくおんぶをしました

その時の自分は薄着で寒かったせいもあり
子供を背負うとその部分が暖かく
ちょっとした暖房器具のようでした

その日はいつもよりも長いことおんぶをし
子供もご機嫌でいました

見えない手紙 【詩】

2020年11月12日 | 
「見えない手紙」

まどろみの中に
祖母の顔が浮かんでいた
暗闇の中でそこだけが
蝋燭で照らされたように明るく
祖母はうっすらと微笑んでいた

あれは小学生の夏休み
東京へ帰る僕の車を
見えなくなるまで見送ってくれた祖母の顔だ
手を振る僕のバイバイに
いつまでも応えてくれていた
優しい祖母の顔だ

寒い冬の夜のこと
僕は胸が温かくなることを覚えて
久しぶりの深い眠りに誘われる

僕はどれだけ
救われて来たのだろう
気がつかない間に
僕に注がれていた暖かな眼差しに

知らず知らずの間に
僕の胸を満たしていた
無償の慈しみの火照り
迷いの中でいつでも僕を
導いてくれる温もりに

祖母は誰からその温もりを
もらったのだろう
そうして分け与えられた温もり
僕も誰かに伝えられる
者になれるのだろうか

言葉にならない僕の思いを書き足して
人から人へと手渡されていく
目には見えない手紙の束として

子が空というから見上げた冬の空いつにもまして青く思えた

2020年11月11日 | 短歌
子供を乳母車に乗せて散歩していたら
子供の一人が上の方を見上げながら
「空」と言いました

初めてそんな言葉を聞いたので
つられて空を眺めると

葉が落ちた枝の隙間から
確かにいつもよりも青い空が見えました
子供にも印象深い空だったのでしょうか

それとも上の方に僕の気付かない
何かが浮かんでいたのでしょうか

その言葉の真意はわからなかったのですが
子供が教えてくれた空の青さが気に入って
その場に足を止めて
「空、綺麗だね」と
皆で上の方を眺めていました

薄味の海老に寂しむ秋の暮【季語:秋の暮】

2020年11月07日 | 俳句:秋 時候

その夜は海老を買って食べました
特に食べたい訳ではなかったのですが
大振りの茹でた海老の赤い色に惹かれました

久しぶりに口にする海老は
独特の食感で味も悪くなかったのですが
何故か口に寂しさが広がりました

室生犀星さんの遺作で
「老いたるえびのうた」という作品があるのですが
その詩との連想で感じたものなのでしょう

秋の憂いは胸に沁み
ときどき困惑させられます