風のささやき 俳句のblog

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灯台はいつ息絶やす寒の波 【季語:寒の波】

2020年01月31日 | 俳句:冬 地理
秋田県内の日本海に面した
ホテルに宿泊する機会がありました

部屋の窓からちょうど日本海が一望できたのですが
冬の日本海はさぞかし荒れているのだろうという
自分のイメージとは裏腹に
随分と穏やかな海原

ホテルの人いわくその日は
凪いだ状態だったそうです

それでも夜の海は
やはり寒々とした感じがして
遠くの半島の方で点る灯台の灯りは
今にも途絶えてしまいそうに
不安げに見えました

海辺の午後に 【詩】

2020年01月30日 | 

「海辺の午後に」

随分と遅い時間に目を覚ます
眠りつくした夜の長さ
いくつの夢を生きたのだろう
そのすべてが思い出せない
頭の芯の気怠さには珈琲の香り

陽射しに膨らむカーテンを開けると 
海原にはもうたくさんの
光りが舞い降りている
餌を啄ばみにきた小鳥の大群のよう

空から押し寄せる羽ばたきに
海は戸惑っているのだろうか
その割には呑気な顔をしている
気の長い老人のようだ
いつまでも繰り返す
その呟きは貝殻の奥に
閉じ込められた古の物語

白い鴎が飛んでいた空は
もう雲さえもいない
魚の群れでも見つけて
まるで帰ってくる気配もない

その広いキャンバスを飾るとしたら
何が一番似合うのだろう
桜貝をはめ込めば
きっと素敵なコントラスト
波が触れようとする砂の城は
君との夢の住まい
そこには花束をおこう
薄いピンクのオールドローズ
匂い立つカサブランカの大輪も
きっと君に似つかわしいと思う

そんな戯れにつきあってくれる空を
やがて周回遅れの能天気な雲が横切る

あまりにもありきたりな一日
それでいて満ちたりた午後
繰り返す空色の波の音
思いもただ穏やかに漂うだけのもの

昼間には
休憩を与えられている灯台は
岬の先で軽くまどろんでいる
まるで僕のあくびがうつったようだ

貝殻を探す子供の手には白い化粧砂
丘の上のオレンジが潮風をすっぱくする
生垣の赤い花にミツバチは羽を休め
透明なコップの冷たい水を飲み干して
あと何が生きてゆくために必要だろうか

長い坂道を上って
買い物帰りの君が
ドアの呼び鈴を鳴らす
フランスパンを片手に抱え
潮風を背中に連れて
陽射しで一杯の笑顔を見せて


寝過ごすも昨夜のままや雪景色 【季語:雪】

2020年01月24日 | 俳句:冬 天文
秋田で過ごした時のこと

夜、静かに降る雪を感じていると
三好達治さんの「太郎を眠らせ・・・」の詩を思い出します

そんな静かな夜にお酒の杯を重ねていたら
調子にのってしまい
随分と飲んで次の日は二日酔い

子供たちが起きるも
自分は頭が痛く起きられず
しばらくしてから
皆のいる台所に顔を出しました

そんな寝坊をした朝でも
あたり一面は相変わらずの白

雪から切り離されない生活を実感させられます

僕は時間を 【詩】

2020年01月23日 | 

「僕は時間を」


一足飛びに時間を
飛び越えて行きたかった

憧れのその人に
自分を重ねられるように
その人の見る世界を
この目にも映せるものだと思い

飛び越えてその人に
たどり着けると信じていた
迷うことなく一直線に
それができると思っていた
記憶の片隅の若い日のこと

そうして気がついた
追い越す時間の速さ
あがらい進めない遅い歩み

その人の面影は星影より遠く
雲のように自由でつかみどころもない
どうしてたどり着けると思ったのだろう
その訳を答えてよ 若い僕よ

徒労というには
あまりにもお粗末な努力を繰り返し
知った自分の歩みののろさ
兎に馬鹿にされる亀のような
恥ずかしさに頬も火照るけれど

忍耐は秋に実をなす果樹に習い
懸命さは地を這う虫を真似
自分の歩調で進んで行くよ
それがほんとうの
僕の最初の一歩であったと
今は確かに思っているよ

一足飛びに時間を
飛び越えて行きたかった
それが自分に許されないことだと
知ることもなく


分け隔てなく降る雪やその下の暮らしの色は塗りつぶされた 【短歌】

2020年01月22日 | 短歌
さっきまで明るかったのに
いつの間にかまた空から
雪が降りてきました

雪は人の都合など考えず
場所の分け隔ても無く降ります

その様子を見ながら
どれぐらい降るのだろうと
帰りの時間を心配していた自分

いつしか真っ白な雪に
一面は埋め尽くされて
電車から見る風景からは
それぞれの家や道端にも感じられるはずの
暮らしの色も塗りつぶされていました

雪の朝赤き車の誇らしげ 【季語:雪】

2020年01月17日 | 俳句:冬 天文
朝から雪がちらついていました

僕は歯医者の予約を入れていたので
セーターやらをたくさん着こんで
家を出ました

ドアの外に出ると
外気が肌に少し痛く感じられます

僕は道を歩き
とある交差点で立ち止まりました

雪で白っぽい景色の中
僕の目の前を一台の赤い車が横切りました

急に飛び込んできた
雪と鮮やかなコントラストをなすその色は
僕の眠気を覚ますような新鮮な感じで

その車自信も
自分が今日の主役だとでも言うように
誇らしげに横切っていきました

君の瞳は 【詩】

2020年01月16日 | 
「君の瞳は」

君の瞳は
青いアイシャドウのような哀しみで縁取られている
さっきまできっと 泣いていたんだ
涙の跡が 青く染まって頬に消えない

君は口を開いて 無理に笑おうとする
頬がぎこちなく引きつる 唇が歪む
真っ赤なルージュが 痛々しく見えて

君の耳が しょんぼりと下を向く
銀色のイヤリングは 寂しげな雨粒のようだ
君の鼓膜を打ち続けている 憂鬱な物音
それは君の死を願い続ける 拍手のようで

逃れる術のない君の鼻は おかしな位に
ヒクヒクと震えて湿った 犬の鼻のようだ
何度も手で 擦り付けたからだろうか
真っ赤に 腫れあがっていて

おずおずと差し向ける 君の眼差しには確かに
君を見る たくさんの人の好奇の目
君は怯えて 言葉を失くし
だからパントマイムで 人々と話す

もう 遠くに行っておくれと
自分を 一人にしてくれと
しなる指先 汗ばむ手足は
滑稽な程に 力が入って硬くなっている

紫色の天幕は 残酷にも沈黙を続け
夢見る星々は 自分たちの夢だけで一杯だ
笑顔を向ける 人々の心は闇で
どんな黒い思惑が その後ろに蠢めいているのか
本人でさえ 気が付いていない気持ちの悪さに

化粧で隠した 君の顔は
笑っているのに 泣いて見える
泣いているのに 笑って見える
もうどちらとも 分からない表情で

素の顔はすっかりと 歪められて皺も深く
君は 狂気の手前の抵抗に 体を動かしている
君の 声なき声は誰にも届かない

見ていることも 辛くなって
僕は 君の側から立ち去っていた
まるで自分を 見ているようだったから

初めての靴履き外に放たれた笑顔雪にも微塵も曇らず 【短歌】

2020年01月15日 | 短歌
子供の一人が
随分と上手に歩けるようになったので
靴を履かせて初めて自分の足で
外を歩かせてみました

どこに行くかもわからないので
背中には紐のついたリュックを背負わせました

まだよちよち歩きのもう一人のほうは
もう少し我慢と抱き上げて家を出ました

家を出ると体の芯から底冷えのする寒さ

それでも初めて自分の足で
歩くことが楽しいのでしょう

靴を履かせた方はその寒さに
めげることもなく走っていきます

微塵も曇ることの無い笑顔
子供の元気さにはほんとうに感心させられます

雪の朝季節跨ぎの花屋かな 【季語:雪】

2020年01月10日 | 俳句:冬 天文
その朝も雪がちらつき
体の芯から寒く感じられました

僕は用事があり
当初は自転車ででかけようと考えていたのですが
滑ったら悪いということで
歩いてでかけることにしました

歩くと30分近くかかるので
嫌だなと思いながら
花屋さんの前を横切りました

その店先には早
春の花と紹介されて
チューリップやらが飾られていました

ハウス栽培などで育てられたのでしょうが
この寒い中で春の花とは
ちょっと気が早すぎるよなと思っていました

一人だけ圧力鍋は仕事して怒りあらわに昼寝の合間 【短歌】

2020年01月08日 | 短歌
夕食の食事のために
圧力鍋に材料を入れて仕込みました

自分はというとその合間に
眠ってしまった子供たちと一緒に
少しだけ昼寝をしようと
布団の中に入り込みました

火を弱めてはいたのですが
やがて蒸気を勢い良く噴出す圧力鍋

まるで皆が休んでいる中で
一人だけ仕事をさせられて
怒りをあわらにしているようです

それでもしばらくは
無視をして目をつむっていたのですが
やはりその音が気になり
火をとめました

やがて皆が寝静まり
部屋は静けさを取り戻しました