時々 亡くなった
母の夢を見ます
心温まる夢のときもあるのですが
その日は母が離れてゆく夢
冬の朝のこと
起きると体も震える感じでした
もう随分とたつのですが
今でも亡き人の喪失感に
心寒く感じます
(Haiku)
Numbed by winter’s chill,
Mother’s dream, sorrow’s embrace,
Waken, heart in pain.
時々 亡くなった
母の夢を見ます
心温まる夢のときもあるのですが
その日は母が離れてゆく夢
冬の朝のこと
起きると体も震える感じでした
もう随分とたつのですが
今でも亡き人の喪失感に
心寒く感じます
(Haiku)
Numbed by winter’s chill,
Mother’s dream, sorrow’s embrace,
Waken, heart in pain.
「古い木の家」
# 1
古い木の家は思っている
庭に顔出す春先の菜の花
降り止まない梅雨の雨を
自分の中を通りすぎた夏の風のこと
降り積もる落葉 雪の重さを
古い木の家は耳を傾ける
新しい生命の産声に
夕餉の集いの笑い声に
軒下の猫の眠り
仏壇の前の念仏の呟きに
# 2
古い木の家は考える
受け継がれて行く人の営み
織りなされる物語の不思議さを
悲しいことさえも乗り越えて
いつしか柔らかな笑顔
身につけるそのしなやかな力を
# 3
古い木の家の前に
横たわる広々とした畑
人が耕し丹念に育てた作物は
季節毎に恵みとなり
その人の手に実りの重さ伝えて
秋
沢山の実をなす柿の大木
口を開くあけび
ぎっしりと詰まった栗
# 4
古い木の家は
暖かな陽射しに思い出す
山の斜面に生えていた
一本の木であった時のことを
若葉で捕まえた陽射しの感触も
こんな感じだったのかしらと
遠い記憶を懐かしくまさぐり
# 5
古い木の家は
一人起きては目を凝らす
静かな眠りについた家の者を
何人も脅かせはしないようにと
そんなことには
まるで気がつかず
古い木の家に守られて
暮らす家族の
この先に語り告がれる物語に
思いをはせる古い木の家
願わくは それが
末永く幸せであることを と
電車から吐き出されるように
駅のホームに降り立ちました
今日も一日が終わったなと
深くため息をつくと
自分の体にため込んでいた毒気が
少し抜けたようで
緊張していた肩からも力が抜けて
見上げると
ビルの灯りが目に飛び込んできました
毎日のように降りる駅なのに
そんな綺麗な夜景に気づかずにいる自分は
余裕のない毎日を送っていて
見落としているものが
随分と多いなと思い知らされました
宮道を上っていたら
椿が赤い花をつけていました
薄暗い所を歩いた目には
その突然の出会いがとても鮮やかで
火を点したような花を
思わず手に取りました
きっと立派な神様が
この奥で待っていてくれる
そんな気持ちにもなり
少し疲れた足に力が戻りました
「明るい島」
# 1
あちらの島が
陽射しに明るんでいる
こちらの堤防は
少しの雨もぱらついて
人が渡る先
死はそんなに
隔たれたものではなくて
それこそ目の前に浮かぶ
あの島との距離位ではないのか
そこに自由に行き来する
船がないだけで
渡った人だけがもう戻らない
その末を知りたい
#明るい島 2
陽射しの当たる段々畑
蜜柑の木
昔ながらの民家
今にもその人が姿を現して
こちらに手を振るようだ
楽しくしているよと告げに
こちらも、元気でやっているよ と
大きな声を、届けてみたい
手も届きそうな距離に
いつまでも、そちらの方は
陽射し溢れる
明るい場所でありますように
心の中に巣食う痛んだ風景が
時折、頭をもたげて苦しくなります
普段そんな痛みは
忘れたように生活しているのですが
心弱った折に顔を出して
胸の中を占拠します
病んだ風景を悔いも痛みもなく
朽ちさせる柔らかな陽ざしにまどろみたいと
春の日に散る桜を見ながら思います
朝の電車に乗っていたときのこと
僕の目の前には
白い耳当てをした
若い女の人が一人
ドアにもたれかかって
外を眺めていました
そのドアのガラス窓からは
朝日が差し込んで
その女の人を包んでいます
その姿がまるで
今、咲いたばかりの
一輪の花のようにも見え
少しの間通勤の疲れを
忘れさせてくれました
「街で」
# 1
歩き疲れて
あなたと二人
こうして座って
目を合わせ微笑む。
ささいな仕草からも
読みとれる
僕らの間には黙っていても
通じあえる言葉があって
それがこうまでに
二人を一緒にする。
僕らのテーブルにも
白い珈琲カップが二つ運ばれて
手で触れるとあなたといる時の
温かさと同じだ。
# 2
耳に届くのは
壊れて話をやめなくなった
ラジオから流れるような言葉
少し暴力的で疲れてしまう。
僕はあなたと
そんな言葉で
結ばれたものには
なりたくはないんだ。
黙っていても心は華やいでくる
春風に心地良く揺られる
タンポポを真似て
その気分に揺られていたいんだ。
# 3
たとえばあなたと
目を合わせ微笑む。
あどけない少女の
人懐っこさ残す笑顔
優しい瞳に映し出される
あなたの心のさざ波が
僕の心にも押し寄せて
そんなとき僕には
あなたがよく分かるのだ。
そうして寂しげな仕草には
誘われるように背を押す
そんな二人だけの言葉を
大切に思うのだ
# 4
口に出した傍から
本当のことが伝えられなくて
嘘を重ねる言葉は
もうこれ以上
紡ぐのを止めにしたくて。
どんな人込みにでも伝えあえる
二人だけの言葉に
僕の心の調べを
あなたが感じとってくれるといい。
もしかすると僕自身でさえ
気が付いていないかも知れない
心の調べを。
天上大風と良寛さんは
子供たちの凧に書いて飛ばしたという話を
聞いたことがあります
天上にはどんな風が吹くのでしょうか
けれど地上にも
僕を吹き飛ばすには充分の大風が吹いていて
人の心から湧く毒気に当てられ
留まりがたい自分を感じたりします
子供たちが小さな頃
一緒に高尾山に登りました
リフトからちょっと歩いた所の
ベンチに座り
喉が渇いたというので
ジュースを飲ませ
リフトに乗る前に買った
ポップコーンを食べさせました
最初のうちは僕の横に
子供の一人が座っていたのですが
太陽の陽射しを直接受ける側のせいか
眩しいといって席を移動しました
子供なのにだらしないと思いつつ
確かに以前よりも強くなってきた
陽射しを感じていました