風のささやき 俳句のblog

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吹き消される者【詩】

2025年01月30日 | 

「吹き消される者」

ただ 吹き消されることを
いたずらに 待つばかり
ただ 闇に飲まれる者として

無為に身をとかし
蝋燭よりも暗い炎で

誰が 僕を点した
直ぐに 吹き消そうと
誕生日の 蝋燭のように

ただ ただ 吹き消される日を
恐れ待つ定めを 誰が嬉々とし
僕に 火を点した


器楽的な夜【詩】

2025年01月23日 | 

「器楽的な夜」

丸や直線
三角や四角の幾何学模様が
描き出す高層建築物は
人を押しつぶすすり鉢

手の上に錯綜する
ユングの元型や
ギリシャの哲学
相対性理論が描き出す生命線を
見る易者の予言する明日は
誰にも もう分からない

密売人が魂を売買する街角の
暗がりに羽ばたく少女を
乗せるエレベーターが
夜空に高速で吸い込まれ星になる

時計台の鐘の音は
街に滅びを告げるよう
ショーウインドーのマネキンの見上げる
大画面の映像に移り変わる
世界のニュースは
花火のように爆ぜ続ける

露天商が売る水たばこの道具は
心を煙にまき
売り言葉に変わる信号に
青いギターをかき鳴らす
震える六本の弦と
張り上げる声がしわがれて
その訴えは誰も聞かない独り言

酔っぱらいの笑い声は
ビルの合間のご機嫌なこだま
もてはやすネオンサインが
点滅する都会の夜は
たくさんのくだをまき散らし垂れ流し
ブリキの玩具の
でたらめなオーケストラのように
頭の芯に器楽的な金属音を鳴らし続ける


子供たちへ【詩】

2025年01月16日 | 

「子供たちへ」

右手にはありがとうの言葉
ぎゅっと握って歩くといい
力なく見えるかもしれないけれど
その手を開いて
ありがとうを言ってみて
みんなの顔に笑顔が咲くから
それで君も嬉しくなる

左手にはごめんの言葉
間違ったら
素直に謝り心軽くするといい
そうして君が言われたごめん
文句も言わずに受け取ってあげて
その人も苦しんでいる
許せば心も慰められる

口には優しい真っ直ぐな言葉
君の心の一番の武器にして
毎日磨いて心に確かに届くように
沢山の人が幸せな気分になれる

人の良いところしか見えない
目を持って欲しいな
人のことが好きでしかいられなくなるから
人と人との間にある暮らし
きっと楽しいものになる

耳はすべての言葉や音に開いているといい
心を込めて聞けば
本当に無数の温かな音色で
この世界は充ちている
君の知らない言葉が
遠くまで君をきっと運んでくれる

鼻では嘘の匂いを嗅ぎ分けて
遠く離れて進むことを覚え
両足では怠け心と
欲しい欲しいという思いを蹴飛ばして

頭にそろえる沢山の知識
君が自由に利用できる図書館で
その知識で君の生き方
輝かせるといい

そうして一番
扱いの難しい心
知らぬ顔を次々と見せる
けれど恐れずに
勇気を持ってのぞめばいい
自分を信じて晴れやかに
囚われないようにして

上手く行くことも行かないことも
すべてが君の栄養になる
やがてたくさんの人に分け与える
君の大きな心の力

きっと何も恐れることはない
君として進めればそれで良い


手をつなぐ【詩】

2025年01月09日 | 

「手をつなぐ」

少しだけ手を伸ばして
手をつなぐ
それだけの事なのに温かい

誰とでも手はつなげる
その気になれば

大人の大きな手
赤ん坊の小さな手
ふっくらした女の人の手
骨ばった男の人の手
涙をふいた濡れた手も
悴んだ冷たい手でも

さようならと振った手
星空を指差した手
怒って握りしめた手
笑う口元を押さえた手
子供の頭を撫でた手

最初は戸惑いながらも
手のひらを重ねて
指先に僅かばかりの
勇気と力を込めれば
お互いを包みこむ
つながれた手

春の陽射しを握るように
心が温かくなって
自然と笑顔になって
歌いたい気分にもなって

一人で歩く不安を
和らげてくれる
こんなにも足に力をくれる

そこに会話はうまれ
歌もうまれる
明日を夢見る希望もうまれ
優しくもなれる

少しだけ勇気を持って
手を伸ばし 手をつなごう
恥ずかしくて後ろ手を
組んでしまいそうになるけれど
子供の素直さを学んで

つながれた手の先には
きっとまた
温かい人たちが繋がれてゆく


冬の午後に【詩】

2024年12月26日 | 

「冬の午後に」

冬の午後は暮れるのが早い
陽射しは淡い化粧のように
顔の濃淡を塗りつぶす

みんなこの世のくびきから
解き放たれたようだ
悔いも捨てやることを終え
空に帰る準備をした顔だ
もう焦ることもない
身ぶりもゆったりとしている

きっと指先を空に差しだせば
シャボン玉のように体が泡立ち
空に昇ってゆく

 ようやく帰れるね
 寄り添うように、鳥が見送ってくれる

  でも、君たちの羽ばたきは
  空に限られているから
  もうお別れだ

 それなりにここは、楽しかったよ
 でも、もう戻ってくることは
 ないと思う

  でもあなたには会いたい
  その顔にこの手で、もう一度触れて
  頬をなぞりたい、まだお覚えている
  黒子の位置も、その涙をぬぐったことも

未練を残さないものは
やはりいない
それでも満足をした
穏やかな笑いが空に木霊する

夕映えはますます赤らんで
ささやかな悔いを一緒に燃やす

やがて今日の悔いの薪も尽きて
境目なく空と地上とが闇で一つになる

明るい星を見上げ 白い息を吐いて
昨日と今日と
何を変えることができたろう
何を身に収め 何を捨てたのか
自分の出入りも もう分からないで
後悔を貯めるばかり
空にはとても昇れそうにない

みんな同じなのかな
冬空に一人立っていると
人がやけに温かいことを知る


克己心【詩】

2024年12月19日 | 

「克己心」

筆で描かれた克己心の目標
剣道部の寒稽古を
高い所から見守っている

僕も胸に克己心を刻み
ひりひりとその文字
熱かったときがある

いつの間にか
自分に負けて全敗のこの頃
敗戦の弁ばかりが上手になって
中学生を見ていると不甲斐ない
乗り越えるべき
自分さえ見失っている

誰でもいいから
僕の面に一本
鮮やかに脳天から
響くやつをくれ


冬の夕日に【詩】

2024年12月12日 | 

「冬の夕日に」

あのときの冬の夕日は
まだ心を濡らしている
病院の帰り道
少し震えながらハンドルを握り
放心したように運転をしていた

淡い橙色に車も濡れた
対向車は音もなく
違う世の乗り物のようだった

地球はそのとき
一つの橙の実であった
その表皮を上る坂は
空につながる道だった

そのまま走って
夕日に溶けてしまえと思った
炭酸水に浸かるように
体がピリピリとしびれていた

きっともう長くは生きない母
それを否定する言葉を心は否定し
その予感は3日後に
その通りになった

その夜は何を食べたのだろう
笑いを浮かべもしたのかしら
笑わせようと力むテレビを眺め

思ってもみなかった
どれだけの心象が
心を飲みこむのだろう
身の丈以上に慌て
棚から牡丹餅の幸いに酔い
たくさん過ぎて抱えきれずに
涙をもって誰かに届きたい
「分かって欲しい」と

ああ、あの時と同じ
冬の夕日だ
真っ直ぐな道は橙の鏡
夕日が落ちるその先にまで
僕は歩いたよ

少しは優しい人に
なれているのかしら

「頑張るよ」 と
誰に向かってでもなく言い

「器が大きくなくて
 でも 僕なりに」 と


冬の陽射し【詩】

2024年12月05日 | 

「冬の陽射し」

目を閉じて
顔に触れる朝日は
冬のシルクの肌触り

瞼の裏は明るい
橙 一色だ
くすぐったくもあり
ふふふと 笑いたくもなる

心は蜜柑のように
こぢんまりと
それでいて充実した丸み

体の真ん中にも
太陽がいる

ポカポカとする
寒いはずなのに 暖かい