「しょうこりもなく」
しょうこりもないと、じぶんでもおもうよ
けれど、しょうこりもなく
いきていくんだ
それしか、じぶんには、ない
古めかしい平屋の前を通りました
縁側には大きな鉢に梅
小さな鉢には桃が飾られていました
梅も桃も沢山の花をつけ
その色合いに思わず足を止めました
その一角だけ時代に取り残されたような
古い木の家屋
家のまとう空気も懐かしさを感じさせて
庭先にいた
人好きのする顔もどこか懐かしく
目のあった僕に挨拶をくれました
ときどき子供たちを連れて遊ぶ公園
大きな滑り台もあり
お気に入りの場所です
土曜日の午後に
子供たちを自転車に乗せて
出かけたのですが
いつもよりも
子供たちが沢山遊んでいました
特にいつもは見ない
小学生が集まっていました
冬場には子供も少なく
遊具も独占状態で
それもお気に入りの
理由の一つだったのですが
少しずつ日脚も伸びて
陽射しも強くなっていることを
子供たちも敏感に感じているのでしょう
他の子供たちに混ざり
我が家の子供たちも
楽しそうに走り回っていました
(Haiku)
Sunlight spills and spreads,
Eager children throng the slide,
Spring air, laughter threads.
「優しい人」
聞いてしまう耳は、寂しい
あなたの、優しさのさだめ
泣いている声、いつでも耳に入って
一緒に、泣いてしまう、優しい人
感じてしまう心、どうしようもなくて
受けたくないものを受けても
柔らかい、その笑い
胸に棘、挿しながらも
だから、みんな、あなたに
凭れかかっていたいと
思うのだ
強くて、優しい人
春めいた陽射しが
景色に眩しさを添えます
例えば裸の梢に
すずめの小さな体に
冬用のコートにも
陽ざしは冬のかけらを
遠くへ追いやって
重いコートも早く脱ぐようにと
急かしているようでした
肌寒い毎日なのですが
陽ざしは日ごとに
明るくなるように感じられます
先日も公園を歩いていたのですが
風は冷たいのに
太陽の当たる背中は
どこかポカポカとしてきました
そんな暖かな陽だまりには
丸い姿の三毛猫が一匹
日向ぼっこをしているのでしょうか
その姿も影も
まるで動かないでいます
遠くから見ていると
生き物ではなくて
まるで置物のようでした
炬燵から這い出してきて猫が
陽ざしを楽しむ春が
もうそこまできていることが
実感できました
「弾ける」
小さな雀、死んでいた
きっと巣から落ちて、首が折れ曲がって
温かで、蟻がたかっていた
赤い炎のような蟻だ、のを払って
両手にいただくように、あなたの家に
急いだ、白い呼び鈴を押した
胸の中の可哀そうは
膨らみ続ける、風船のようだった
いつか割れてしまう定め
せめて、あなたの前で、弾けたかった
おんぼろな車の、さえぎる横断歩道
憎らしい、笑っている人たち
心よ、あなたの家まで、もってくれと思った
でも、知っているよ
僕が破裂したとして
あなたは拾わない、僕の屍
子供がお手製の万華鏡を
褒められて帰ってきました
厚紙で三角の筒状の躯体を作り
その先には一口ゼリーの
透明な容器を取り付けています
容器を何種類か用意し
様々な模様を描いて
それを取り替えると模様が変わる仕組みです
こうした工作が得意な次男
我が家では異質な存在で
誰の血を引いたのだろうと思います
次男に急かされて
覗いてみた万華鏡は
確かになかなかの出来栄え
万華鏡から眺める光溢れた世界は
きっと次男に見えている世界
これからどんな
光の模様に浴そうとするのか
楽しみにしています
まだコートの隙間から入り込む
風が冷たい日
曇った空からは
ちらほらと雪が降ってきました
職場の近辺が開発が続いているせいか
古いビルが取り壊されていて
馴染みのレストランが入っているビルにも
解体のお知らせ
そのレストランのドアにもひっそりと
閉店のお知らせが貼ってありました
閉店前に寄れればよかったのですが
気が付きませんでした
昨日までは普通にお客さんもいたのに
そんなビルへのお別れなのか
それとも記憶を薄れさせようとしているのか
直ぐに溶けてしまいそうな大粒の雪が
空から降りてきました
「扉」
人の心を開くとは
夜空に散りばめられた、硬い鉄の扉
その一つ一つに、どんな人が住むのか
知らずとも押してみる、チャイムの呼びかけ
いつでも、遠いところにある
つかめない距離感、立ち眩みがする
ぎゅっと握る、こぶしは汗ばんで
チャイムを押す指先には、力を入れて
(心も、縮こまって、汗をかく)
すると、どの扉からこぼれ、流れ星
瞳の中に、青い糸を縫いつけるように
真っ逆さまに、暗闇の静けさに
落ちて、燃え尽きた
それは、どんな、思いの欠片
長い時間、人の胸に、閉じ込められて一塊となり
味わいたくなくとも、何度も味わって
人知れず、夜空に流れ、消えた
沢山の思い、僕の知らない悲しみ
諦め、不安、寂しさ、苦しさ、焦り、憤り、暴力
僕は、そこで指を止めて、言葉を失うのだ
沢山の扉を見上げながら
チャイムを押せば、迷惑顔で
出てくる眠たげで、怒り含む人の目に向かい
その先、何と挨拶をすれば良いのか
僕がどんな言葉で、その扉の向こうの人と
つながればいいのか
夜の扉の中に、ひとり物思いにふける
人たちの、胸の内、かき回すことなく
チャイムで、眠りを妨げずに
そうして、僕自身も、触れられたくない胸の内
穏やかな夢に眠りたいと
もう、扉の向こうの誰かを
呼び出そうともしなくなって
夜空から、扉が、また一つ、また一つと消えて
やがて真っ暗な闇に塗りつぶされる
僕は地上からその闇夜を、見上げるばかりだ