風のささやき 俳句のblog

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ある朝の涙に 【詩】

2021年04月29日 | 

「ある朝の涙に」

起きたばかりのお前の顔が
今朝一番の涙に濡れていた
その轍なぞる
カーテンからの朝の光

今日もまたお前の
涙と笑いとの一日が始まる

腹が減ったと涙し
乳が飲みたいと涙し
眠くなれば涙し
機嫌が悪くなれば涙し

その合間を埋めるような笑顔
そうして束の間の静けさ
くれる眠りの後の涙と

二つの間を行き来する
その表情は見るに飽きることはなくて

まるで風景の微塵
洗い流す通り雨のような
軽やかな涙は
お前の綺麗なまなこから
溢れてはポロポロと零れ

その頬を洗い
母の手を洗い
乾く間もなく
この父の手も洗われ

睫の間にはまだ涙が留まっている
朝日を受けた耳朶が赤く透けている
一度も剃ったことのない顔の産毛は
金色の草原のようだ

僕は指先で涙の跡をなぞり
桃のように丸々とした頬に
かぶりついてみた
口に広がる冷たいしょっぱさが
何とも綺麗なものに思えた

―お前の涙がこれからも
 綺麗なものであることを


木の棒を武器と言い張り挑み来る子はどの国からの使ひ人 【短歌】

2021年04月28日 | 短歌
公園から帰って来た子供が
木の棒を持って帰りました
近頃流行のヒーローの武器だそうです

すっかりそれが気に入ったようで
家の中でも振り回して襲い掛かってきたのですが
それなりに太い棒なので
叩かれると痛く
こちらも半分本気で応戦していました

一体どんな世界が
この人たちには見えているのだろうと思うと
可笑しくもあり
想像がまったくつかなくもあり
どの世界から来た人々だろうと考えてしまいます

子に蹴られ目覚める春の朝寝坊 

2021年04月24日 | 俳句:春 時候
週末
いつもの平日の朝よりも
少しゆっくりと眠っていました

目が覚めかけてはいるのですが
休みだと思うと
うつらうつらしてしまいます

そんな自分を
横で眠っている
寝相の悪い子供が足で蹴ります

何回かそれをやられているうちに
結局は目が覚めてしまい

その腹いせにと
寝ている子供の頬を指でつっつき
起こしました

まだ眠い子供の泣き声で
始まった朝でした

ペットショップで 【詩】

2021年04月22日 | 

「ペットショップで」

あれは ワンワン犬だよ
それは ミューミュー猫だよと
絵本を見ながら 伝えていた
その生き物たちが
お前たちのまさに目の前にいるから

お前たちは目を輝かせて笑っている
持ち上がった頬っぺたは
まるで焼いたばかりのお餅のようだ

あそこにいる犬や猫も
まだ生まれたばかりの赤ん坊だから
お前たちと一緒だね
疲れという言葉を知らず
動きまわっている

まるで生きていることが
楽しくてしかたないよと言うように
しっぽを振るポメラニアン

ちょっと胴体が伸びてしまって
ヨチヨチ歩きのダックスフンド

空中に向って一人じゃれている
挙動不審のアメリカン・ショートヘアー

君たちなんて相手にしないぜと
目もあわせてくれないペルシャ猫

ここにいるすべての生き物は
お前たちと一緒の時間を生きて行く
とても大切な仲間なんだよ

だからそれぞれがそれぞれに
今のままで楽しく暮らせたらいいね
もちろんお前たちをその代表格として。

ほら あちらのコーナーからは
鳥の鳴いている声もする

実は僕は一番 鳥が好きなんだよと
子供たちの耳元で告白をして
まだ犬や猫に釘付けの
子供たちを促してみた。


春の池甲羅干す亀岩に寝て心干す我木陰のベンチに 【短歌】

2021年04月21日 | 短歌
春の長閑な日の午後でした

池のある公園を歩いていると
池の真ん中の岩の上に
大きな亀が四匹
甲羅干しをしていました

面白い風景だなと思って
足を止めて眺めていたのですが
亀はじっとして動きが見られません

そのうち飽きてしまった僕は
木陰の下のベンチに腰を下ろしたのですが

春風に吹かれていると
いつの間にか湿った心が
乾いて軽くなったように感じられて

ああきっと先ほどの亀も
こんな気持ちのいい気分を
楽しんでいるに違いないと
亀の甲羅干しの姿を思い出していました

舞い込んだ残花この子を見にきたか 【季語:残花】

2021年04月17日 | 俳句:春 植物
仙台にいた時のこと

友人に子どもたちもかまってもらい
人が来る日には二人とも
機嫌よくしています

そんな来客に釣られたのでしょうか
窓を開けていたら
まるで家に遊びに来たように
桜の花びらがどこからともなく
舞い込みました

随分高く舞い上がったものだなと感心しつつ
子どもたちを見に来たのかなと
親馬鹿な想像を働かせ
その花びらを子どもたちにも見せていました

遠くへ 【詩】

2021年04月15日 | 

「遠くへ」

200キロを超えるスピードで
僕の体を八戸へと運んで行く
8時31分のはやて1号

昨夜 遅かった
僕の頭は青白く麻痺をして
砂嵐のようなノイズに満ちている

神経の行き届かない
石のように重たい体は
座った時の姿勢で
どこまでも沈んで行くようだ

僕はまるで
宅急便の荷物と大差はなくて
受取人の待つ場所へと
時間通りに運ばれていくことを
良しとされている

封筒に入っているのか
ダンボールに収められているのか
それとも洋服に身を包んでいるのか
それだけの差の僕の
頭には何の思いも浮かばず
ただ風景が掃除機に
すいこまれるように流れていく

誰がこんなにも急いで
僕を運んでくれと命じたんだ
いつの間にか僕の心は
体からは置いてきぼりとなって
もうその姿も見えないでいるから

僕は遠くへ運ばれ過ぎた
それに気づくのが遅すぎた

抜け殻となった僕の体だけが
荷物のように目的地から目的地へと
手渡されていくことは
さほど不思議なことでは
ないのだろう

さらに遠くへ 遠くへと
僕はなすがままに
運ばれようとしている


イヤイヤと地団駄踏む子に散る桜来年にはもう無い一こま 【短歌】

2021年04月14日 | 短歌
散歩に一緒に出かけた子供が
桜の木の下でイヤダイヤダを連呼しながら
地団太を踏んでいました

相変わらず思い通りにならないことがあると
イヤイヤを繰り返し抵抗します

最初は面白くて笑う余裕もあるのですが
それが延々と続くとほんとうに腹が立ってきて
思わず大きな声で怒鳴ってしまいます

その声に反応して
一層声を大きく泣く子供

きっと来年の今時分は
もう少し物分りも良くなっていて
きっとこんな風に騒ぐこともなくなるのでしょう

そう思うとこの一瞬がとても愛おしく思えて
子供の我侭にしばらくつきあっていました

衆目に無頓着なり花の華美 【季語:花】

2021年04月10日 | 俳句:春 植物
薄紅の花を満開にさせた桜
その華やかさに人は自然と集まり
満開の花の下では
人が絶えません

けれどそんな人目は
まったく気にする素振りも無く
外気との会話に咲くときを知り
風や雨もそのままに受け入れ
散っていく桜

その美しさをもうしばらくは愛でたいという
人の目にはつれなく見えますが

人の計らいを越えたところに触れているから
桜の花は美しいのかも知れません

床掃除 【詩】

2021年04月08日 | 

「床掃除」

子供たちのやりたい放題は
時として大人の想像を遥かに超える

大声をあげながら
時間をかけて食べた離乳食
好き勝手にのばす手を自由にさせていたら
床の上には投げつけられた
パン屑やりんごが目にも無残な状態だ

その上をさらに丁寧に
何度も歩行器で踏み固めたから
床と一体となってしまった硬い食べ残し

よくもこんなにも汚せるものだと
半分は感心しながら
四つん這いになり雑巾をかけている
ギターを弾く伸びた爪で
落ちない食べかすを擦っている徒労

さっきからもう
一時間近くこんなことをしているけれど
床を見渡せばまだ
汚れたままの状態だ

食事中の子供たちは随分と楽しそうだった
自分の意思で積極的に食べたいと手を伸ばす
もう一人前の存在がそこにはいる

育むということは
こんなにも時間と労力を要するもの
そうして育まれているものは
それを知らずに無邪気なままだ

(僕らもこうして育まれてきたのだと
 親になって始めて分かる
 実感が確かにある)

育みながら僕らも
子供たちに育てられている
耐えることを学ぶこと
注意深く見守ること
分け与えることが
喜びであるということ

願わくばいつか僕らが
草木を導く太陽のような
暖かな陽射しとなって
お前たちを育んで行ければいいと
お前たちの中に伸び行こうとする芽が
自然と胎動を始められるように

それには僕らはまだまだ足りず
その術が分からないままだから

とりあえずは目の前の
汚れた床の掃除に
注力をしようと思っている