風のささやき 俳句のblog

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穭田や寄せるは萎靡た夕日のみ【季語:穭田(ひつじた)】

2020年10月31日 | 俳句:秋 地理

刈り取りの終わった稲に
芽が顔を出していました

数日をおいて
その穭田(ひつじた)を訪れたら
芽が随分と伸びていました

役目を終えた稲には
手をかけてくれる人はもう
誰もいないのですが
それでも伸びる芽に
力強さを感じました

そんなものを珍しく
眺めていたのは自分ひとり

僕の他には夕日だけが
うち捨てられたような穭田に
寂れた赤い色を寄せていました


人ゴミの中で 【詩】

2020年10月29日 | 
「人ゴミの中で」

貧弱に痩せた
灰色のビルの群が
黒い影を落とす通りを
うつむきながら動いている人ゴミは
悪い噂や
騒ぎ立てる声や
疲れて色の悪い顔で満ちていて
今日も
うっとおしい空模様のように
僕の魂にのしかかってくる
仮面をつけた人々の
偽りだらけの言葉が
鳴り響いている僕の頭は
頭痛の時の
不快感のようなものが
消えずにあって
みずみずしい生命の色が
目の中からは奪われてしまう
続いている顔のない
灰色の人間の行進に
優しい心や思いが
僕からは忘れ去られてゆく
魂は血の気を失ってしまい
争うことや言い訳が
体の芯までしみこんでくる。

ああもっと穏やかな気持ちで
僕の毎日を生かさせて
言葉にはならない
鋭利なナイフのような痛みを
もうこれ以上は
胸の中には
ためてはおけないんだ
生けるものを生けるものとして
生けるものらしく生かしめてくれ。

子は騒ぎ眠る大人は子の知らぬ労苦に萎み皺深くする 【短歌】

2020年10月28日 | 短歌
騒ぐだけ騒いで
子供たちが眠りました

双子は同じ年の友達と
四六時中一緒にいるような状態なので
調子に乗ると手が負えません

そうして二人が眠り
嘘のように静かになる部屋

それは子供の知らない労苦が
また心に忍び寄ってくる時間でもあります

その労苦に押しつぶされて
萎んで行くように感じられる自分の体

険しくなる顔の皺も
深さを増して行くようです

籾殻のご焼香なり田に煙 【季語:籾】

2020年10月24日 | 俳句:秋 人事
あぜ道を歩いていたら
とある田で
籾殻を焼いているのを見かけました

近くまで行くとその煙で
目がちかちかとし
むせるような感じがします

籾殻は山のようにうず高く盛られており
煙を出している様が
どこかご焼香をあげているようです

玄米を大切に守ってくれた籾殻
その焼かれていく姿に
手を合わせて感謝したい気持ちにもなっていました

桜色の夕日に 【詩】

2020年10月22日 | 
「桜色の夕日に」

車は帰路にあって
黙々とタイヤを回していた

一仕事を終えて気がぬけてしまったのだろうか
その音はあまりにも静かで
横を追い越す車の数々
追いかける力
無くしているようだった

僕らはシートに深く腰かけ
思うことなく外を眺めていた

目には留まることのない風景がたくさん
押し流されていった
気がつくと空は
桜色に染まっていた

初めて見る淡い淡い夕日の色合い
まるで散っていった桜の花びらが
空に溶け込んでしまったように

すべてのものは
その色合いに手なずけられて
従順な牛の瞳のように穏やかになった

もちろん僕らもその例外からは漏れずに
誰からとも無く黙り込んでいた

言葉は発するも聞くも
すべてが物憂く
始めから言葉は
無いことが自然だとさえ思えて

けれど僕らの胸は
言葉以上の何かで満たされていた
あるいは僕らの体が
同じベールのようなもので
包まれていたのかもしれない

桜色の夕日のように懐かしく暖かく
自然と人が恋しく思えて
隣にいる人の心の動きも
自分のそれであるかのように良く分かっていた

僕らを仲良くさせた夕日が
色合いを濃く過ぎ去った後も
僕らの肩にはまだ人恋しさが手を置いたまま

車を降りて力のないまま僕らは
思い出した言葉で
また明日とつぶやき別れた

枝先の争い忙し赤とんぼ身にしむ寒さ苛立ち隠せず 【短歌】

2020年10月21日 | 短歌
赤とんぼが二匹
枯れ枝の先を奪いあっていました

他のところに行けばいいのにと思うのですが
そこが止まり心地がいいのでしょうか
交代交代でその枝に止まっています

はたから見ればつまらない小競り合いなのですが
二匹は真剣な様です

まるで身にしみてくる寒さに苛立っていて
そこしか見えなくなっているように

その様子を眺めていた自分も
体が冷えてきたように思えて
その小競り合いの結果を見ることもなく
その場を離れました

歯を欠いて新米どこか味気なし 【季語:新米】

2020年10月17日 | 俳句:秋 人事
ここのところ
毎週末は歯の治療を受けています

特に以前直した奥歯が
全体的に悪くなっていて
左右の奥歯を治療中ということで

まともに上下がそろっている
奥歯が一組しかなく
食事時にはちょっと苦労をしています

普段はあたりまえのように
ものを噛んでいる歯ですが
こうなるとその有難さがわかります

せっかくいただいた新米も
しっかりと噛むことができずに
どこか味わいも半減

早く直ってくれればと思います

砂上に 【詩】

2020年10月15日 | 
「砂上に」

僕の足元から
砂を奪い去って行く
波の群れの連なり

まるで僕を一本の木に見立てて
棒倒しの遊びをしているみたいだ
(波は僕が倒れてしまえばいいと
 思っているのだろうか)

不意に僕は平行感覚を無くし
足元がおぼつかなくなる
踏み外した足は
新しい波の標的
(さっきまで頭上にいた鴎が
 僕の真下を飛んで行く)

僕は負けたのだと
波が白い泡をゴボゴボと吐きながら
無邪気に笑っている
(きっと悪気は無いのだ)

その屈託の無さはいつしか僕が忘れているもの
いつからか僕はこんなにも
不安におびえ続ける弱い心を抱いている
(それだけ痛い思いをしたからね)

青い空に横たわっている白い雲も
どこか飾り物のようによそよそしくて
この風景の中では
僕はもっともっとよそよそしくて

僕が立っていられる場所は
一体どこにあるのだろう
この砂のようにもろく
すべての足元は崩れて行ってしまうというのに
   
確かに何かの上には
僕は立ってはいるのだが

子を背負い秋の雨音聞く夜や祖母の背中の感触まさぐる 【短歌】

2020年10月14日 | 短歌
雨が降っていたとある夜
子供が眠らずに随分と騒ぐので

背中に背負って
暗がりをうろうろとしていました

うとうととしても
下ろそうとすると起きるので
やることも無く雨の音を聞いていました

何とはなしに
祖母の顔が思い出されました
自分は祖父母に随分とお世話になったので

幼少の頃にはこうして
背負われていたのだろうな思うと
ありがたさが胸にしみてきます

その背中の感触を
まさぐろうとしていたのですが
やはり遠すぎる記憶

何も湧いてこないことに
寂しさを感じていると
子どもは寝静まっていました

秋澄みてとんかち高く歌うなり 【季語:秋澄みて】

2020年10月10日 | 俳句:秋 時候
週末に歯医者に行く途中
新築の家が建てられているのを見ました

以前土台を作っているところを見たのですが
もう家の骨組みができあがっていました

どこか澄み渡った秋の日
作業をするとんかちの音も
空気の中に高く響き
作業が順調に進んでいることを
伝えてくれているようです

きっと家の完成を待つあるじも
期待をしながら待っているのだろうなと
想像をしていました

歯医者では今日は
どんな治療を受けるのだろうと
ちょっと憂鬱な気分でいたのですが

そのトンカチの楽しげな音に
少し気分を和らげられていました