風のささやき 俳句のblog

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かまくらや友との会話は静けさを増し胸に染むしみじみとする 【短歌】

2020年12月30日 | 短歌
以前友人と一緒に秋田に出かけて
かまくらもどきの中で
酒を飲みながら話をしたことがあります

ギターを持ち込んで
歌を歌ったりしながら
それなりに騒いでいたのですが
音は雪に吸い込まれて
静けさはまして行くばかり
世界がその中だけで閉じてしまったようです

やがて騒ぐのもやめて
会話をしていたのですが
その一言一言が静かに胸にしみて来て
どこかしみじみとしたものが感じられて
やがて二人とも黙り
雪の気配に耳を傾けていました

体の芯から凍えてくるのを感じて
暖かい部屋が少し恋しくなっていました

人混みや染みる寂しさ寒の月 【季語:寒の月】

2020年12月25日 | 俳句:冬 天文
以前に
夜に一人渋谷を歩いた時のこと
その日の仕事を終えて
家路に着く途中の道です

忘年会シーズンのせいか
陽気に酔った人がたくさん
道を歩いていました

僕の頭はまだ仕事をしていたときの
緊張感から解放されずにどこか冷静で

楽しく流れて行く人混みに乗り遅れた
寂しさが胸にしみました

空を見上げると寒々とした月が光り
寂しさが一層胸にこみ上げてきました

トマト 【詩】

2020年12月24日 | 
「トマト」

雪のちらつく間に差す
太陽は殊更に白く眩しく

僕は湯むきしたトマトを手に
その皮を剥いでいる
スルリと顔を出すトマトの赤い実は
新生児の頬っぺたのようにきめが細かい
僕は包丁を置いて
陽を浴びた手の中のトマトを眺めている

これが僕らに命をくれる
瑞々しい力なんだ
内側には滋味を蓄え
赤い丸みを空間に際立たせて

白い湯気を吐き
やかんが沸々と湧いて
麦茶ができあがったようだ
もう少し煮出したら
芳ばしい色も濃さを増すのだろう

さっきまで泣いていた二人の赤子は
ミルクでお腹が一杯になったのか
満足気な顔をして
すやすやとまた眠ってしまった

やかんだけが
音を立てている静かな部屋で
僕はトマトを白いまな板に置き
包丁に力をこめる
「痛い」という
小さな悲鳴を聞いた気がした

冬の海波頭を荒ぶ風凄く夜の鴎は何処に眠るか 【短歌】

2020年12月23日 | 短歌
その日泊まったホテルは
冬の日本海に面していました

風が随分と冷たくそして激しく
波濤が砂浜に間髪を入れず
訪れていました

暖かい部屋から見ている
僕の心からも熱を奪っていくようです

そんな強風に弄ばれながら
空から落ちずに頑張っている沢山の鴎
空にゴマ粒をばら撒いたように
随分の数でびっくりしていました

その強い風は夜通し続き
僕は何度かその風の激しさに
目を覚ましたのですが
その度ごとに昼間見た鴎の姿が思い起こされて
どこで羽を休めているのだろうと
気にかかりました

釣り竿も鼾かくよな小春かな

2020年12月18日 | 俳句:冬 時候
冬とは思えない暖かな日でした
薄いセーターで歩いても苦には思えず
陽射しを楽しむのには最適な日和でした

川辺を通りすぎると
たくさんの釣り人
やはりこの陽射しに誘われたのでしょう

その釣り人たちも
魚を釣るよりも日向ぼっこを
楽しむのが主目的のよう
そうして魚も昼寝をしているのでしょう

釣竿の先は動くこともなく

釣竿は単調さに仕事も忘れ
鼾をかき無防備に眠っているように見えました

とある日の散歩に 【詩】

2020年12月17日 | 
「とある日の散歩に」

さっきまで降っていた
わずかばかりの雪も止んだらしい
窓の外が随分と明るくなって来た

ちょうど今なら陽射しが零れているから
家の中で過ごしてばかりのお前たちを連れて
日光浴の散歩に行こう

家の周りの
わずか数百メートルの距離だけど
新鮮な風に触れる
その心地よさを感じに

真っ白な雪に覆われた一面
銀色の陽射しの照り返しは
家の中にいたお前たちには
きっと眩しすぎて

もったいないよと
耳元で呟く僕の言葉を
聞くこともなく頑なに
目を開けようともしない
お前たちに苦笑いしながら

僕らの散歩を邪魔しないよう
すべてのものが気を使ってくれているようで
物音も少ない道
立ち止まっては時々
あれは川のせせらぎだよ
あそこに飛んでいるのは鳶だよと
僕は指差し伝えている

そうして眺める空は
なんて深い色を醸し出しているのだろう
もう少しお前たちが大きかったら
その空に向けてお前たちを
高く投げ上げてやれるのに
その色の祝福を受けられるようにと

こんな時間があったこと
お前たちの記憶からは消えて行くのだろうけど
僕の言葉は届いているかい
固く目をつむったままのお前たちに

それを受け取ってお前たちが
豊かに育んでくれればと
そんなことを思っていた
とある日の散歩に

雪降れば道行く人皆うつむいて心見つめる僧侶のごとし 【短歌】

2020年12月16日 | 短歌
雪が降るとうつむき加減になるのは
自分一人ではないようです

雪が顔にかかるのを避けようとするのか
足もとに注意を向けているからなのか
いずれにしろ皆うつむき気味に歩いていきます

寒いせいか誰も口を開くこともなく
閉ざされた口からは
言葉が漏れてくることがありません

そうしてどこか固定された視線

その様がどこか
心を整えることに一心になりながら
歩いている僧侶を連想させて

道を行く人がすべて生真面目に見えていた
雪の日の朝でした

吹雪く海鴎追い越す列車から 【季語:吹雪く】

2020年12月11日 | 俳句:冬 天文
北海道に出張に行く機会がありました

途中
小樽から札幌に向ったのですが
その車中から海が見えました

雪のちらつく寒々しい海
何気なく外を見ていると
鴎が一羽ずいぶんと近くに
列車と併走するように飛んでいました

まるでこちらの様子をうかがっているようで
一度僕とも目が会ったような気もしました

そんな鴎を列車は追い越して
寒々しい海だけが僕の眼前に広がっていました

古い夢 【詩】

2020年12月10日 | 

「古い夢」

部屋の外で猫が鳴いている
早く開けて欲しいと言っている

そういえば台所の引き戸を
開けてきたかしらと
まどろみの中で
少し前の記憶を探る
うん 大丈夫だったと確かめて
また眠ろうと身を委ねる

雪が降っている
寒さが入り込んでくる
布団にくるまって寝返りを打つ
さっきまで瞼の裏にあった夢は
色あせた写真の様に懐かしかった

古い木の家
囲炉裏端の祖父や祖母
若い母もいる
ご飯とみそ汁と漬物
三毛猫のミッケも食事をしていた
ふさふさとしたその毛に触った
気持ちよさそうにニャーと鳴いた

いつの間に眠りから剥れ落ちた夢は
猫の記憶の先にかろうじてつながっていたようだ
古い夢の懐かしさの余韻
もう少し浸りたくて
布団からは離れずにいた

加湿器が湯気を立てている
赤子はすやすやと眠る
時折 手足をビクリと動かして
それはきっと動物的な反射
悪夢に脅かされた訳ではなかろう

まだ夢見る力はない経験の少なさと
一人で生を掴むにはあまりにも小さな手

僕にも幼い頃があったと
すっかりと忘れていた
それを思い出させてくれたのは君
これから君と一緒に
自分の生を振り返るのだ
そうして楽しい夢を
新たに積み上げるのだ

雪はまだ降り続く
いつまでも止まない
赤ん坊はいつから
夢を見始めるのだろうか


餅背負いて泣いて転がる我が子見る深謝笑いの涙に含めて 【短歌】

2020年12月09日 | 短歌
子供たちが一歳になった記念にと
一升餅を背負わせてもらいました

双子用にとわざわざ二人分を搗いてもらい
それぞれに背負わせたのですが
まだまだ二人には重たい様子

立ち上がろうとするのですが
餅の重さにゴロゴロと転がっては
泣き喚いていました

大人はその様子を見ながら
大笑いだったのですが

よくもここまで成長してくれたものだという
感謝の気持ちも湧いてきて

笑いの涙に感謝のわずかばかりの涙を
含めていました