風のささやき 俳句のblog

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詩や短歌も掲載しています

顔 【詩】

2022年03月31日 | 

「顔」

# 1

あなたの 肩の上にまた
青ざめた 顔が浮かぶ
途方に暮れて どうしたらいいのかも
分からなくなった顔だ

「もう止めたらいいのに」と
何度も小さく つぶやいているのに
あなたは 出ていってしまう

心のざわめくまま
するりと身軽に 回転ドアを抜けて
夜の喧噪の中へ
心に 炎を点す 刺激を求めて

# 2

そうしてぐったりと
あなたはまた ねぐらに帰る 疲れている
いつの間にか 頭の中に詰め込んだ
止まらないおしゃべり
二日酔いのような 頭痛
暗闇を泳ぐ目線は 視点も定まらずに
刺々しい心 自分に刺さり 不機嫌になる

# 3

そんな時には また
寂しそうに 目線を落とす
青白い顔が あなたの肩に 浮かぶのに
あなたは 何も気が付かないふりで
心を覆い隠している
悪夢のしみついてしまった 包帯で

けれど疼きは やがて傷口を開き
痛みを麻痺させる 薬をもとめて
あなたは 出会うこともない
人の間を訪ね歩くのだ

# 4

やがて腐り始める あなたの心に
青い干し柿のように
しおれた寂しげな顔は
消え失せて もう二度と
肩に ほのかにも 浮かぶこともなく

あなたは本当に あなたを失ってしまう
いつしか 荷車を運ぶ
牛のように 血走る寂しい目をして
街の片隅に 涎を垂らし
モーと鳴きながら 暮らすばかりで


畑打ちや土に混ぜこむ陽射しかな 【季語:畑打ち】

2022年03月26日 | 俳句:春 人事

大分前のことですが
秋田で畑を掘り起こす手伝いをしました

冬の間は重い雪に押さえ込まれていた地面は
固い表情をしていました

耕運機を使ってみたのですが
操作になれていなくて弄ばれてしまうので
途中から鍬やスコップを使ってみました

掘り起こしていると
土も柔らかくなり
今まで蓋をされていたような
土の匂いも漂ってきます

天気も良く
作業をしていると
まるで太陽を土の中に
混ぜ込んでいるように思えてきました

暖かな陽射しを貯える土は
きっと作物には柔らな布団のよう

種をまいたら勢いよく芽が
吹き出すのだろうなと思いました


風の委託 【詩】

2022年03月24日 | 

「風の委託」

# 1

詩は魂の安息日にやって来る
青い海からのあるいは遠い山からの
それは風の委託

凪いだ海のように静謐な魂が
肌を通して受け取る
瑞々しい手紙

それはいつしかの誰かの夢
分かって欲しかった気持ち
言い尽くせない言葉と一緒に
透明な文字で丁寧に綴られた

#詩 2

今も 風は
新しい物語を写し取って
僕に手渡そうとする
悲しい話だったのか
少ししっとりとしていることもあって

風は放ってはおかない
誰も忘れてはいないよ
忘れられるはずはないんだよ

# 3

風に心を明け渡して
その中に文字を拾う
さなぎを破り蝶が現れるように
じっと言葉が生まれるのを待つ

空に解き放たれる蝶
もう追えない
かすかな燐分の軌道を
言葉になぞらえて
また風の流れへと返す

見ず知らずの人へ
遠い未来の人へ
それを感じる人へ の
新たな風の委託として


届かない夢に伸ばす手へこたれて恨み辛みを覚えはじめる 【短歌】

2022年03月22日 | 短歌

自分の心をひきつける
夢を持って生きること
とても大切なことだと思います
自分の世界を広げてくれます

ときどきは夢との距離が
いつまでも縮まらずに
不平不満もこぼしたくもなりますが

届かない夢への焦燥、困惑
愚痴、試行錯誤といった全てが
自分を形作るのだと思います

夢の形は変わって行くとして
重力のように自分を引きつける
夢をいつでも
胸に抱いていられればと思います


人の間を吹けば味する寂しさを口に噛みしめ光れよ僕よ 【短歌】

2022年03月22日 | 短歌

人と一緒でなければ生きられないことは
良く分かっているつもりなのですが
それでも人と一緒にいると
疲れてしまうことも少なくありません

人の意地悪な気持ちを
寂しく思うこともあります

もちろん人に慰められることも
立派な思いに感化されることもあって

きっと清濁併せ呑むことが
自分を磨くことにつながるのでしょうね

あまり気持ちが強くない自分なので
くじけそうになると
きっとこれも自分の成長のためと
思うようにして気持ちを奮い立たせます


犬ニ匹じゃれる足元犬ふぐり 【季語:犬ふぐり】

2022年03月19日 | 俳句:春 植物

まだどこか朝日の眩しさが
風景に残る春の朝のことでした

朝の散歩でしょうか
犬を連れた人が二人
道の傍らで話をしていました

それぞれの犬も
顔見知りなのでしょう
親しげにじゃれ合って楽しそうです

そうしてその犬の足元を見ると
小さな犬ふぐりの群生

何気ない朝も
もう春色に染められているようです


万華鏡 【詩】

2022年03月17日 | 

「万華鏡」

悲しみは いつの間にか
心の奥底にこびりついて
結晶した 万華鏡のように
表情を刻々と変え
複雑に 暗い
ステンドグラスのような
光を投げかける

いつまで 見ていても
変わり続けるばかり
姿が捉えきれなくて


思い出が思い出の先欲しがって悪い癖だな何度も欲しがる 【短歌】

2022年03月15日 | 短歌

時々、昔のことが急に思い出されて
あのときこうしていたらどうだったろうと
選ばなかった思い出の先を考えてみたりします

けれど選ばなかった時間の先は
ただ黙っているだけで
どんな答えのかけらも返してくれません

あれはもう過ぎたことだからと
なだめる言葉にもうなずかない心の未練も
押し寄せる時間が
やがて洗い流してくれるのでしょうか

そんな思い出の先を欲しがる癖を
なかなか止めることが出来ずに
取り留めもなく思い出の先を探る僕です


春めくや甍の鱗に光あり 【季語:春めく】

2022年03月12日 | 俳句:春 時候

子供たちの幼稚園の
入園説明会があった日のこと

小さなホールで椅子に座って待っていると
窓際が明るく感じられたので
そちらを眺めると
となりの屋根の瓦が
魚の鱗のように陽射しを照り返し
それが自分の目に届いていたものでした

その日話しをした
理事長先生の挨拶では
幼稚園の桜も蕾をつけ始めたとか

季節は一歩ずつ
自ずから近寄っているようです


買い物 【詩】

2022年03月10日 | 

「買い物」

# 1

ベランダにはじょうろが投げ出されていた
(母親が鉢植えに
 水をやるつもりだったらしい)

突然の夕立の後の
空には虹が
七色の橋を
ビルの間に渡していた
(雨粒が赤い花びらの上を
 すべり落ちてゆく)


# 2

母親は買い物に行ってしまった
小さなかごを
不機嫌そうに振り回しながら
(家の中はガランとしている)

お天気の気まぐれに
ささやかな愛情を遊ばれた気がして
母親は買い物に行ってしまった
(帰りには夕食に並ぶ
 ネギやキャベツが
 かごから顔を
 覗かせているのだろうけど)