喜んだ子供たち
早速、蟹鍋となりました
普段はそんなに食べることができない蟹
美味しそうに食べる子供たちの姿を見て
こちらも楽しくなったので良かったのですが
鍋奉行をしていた僕は
蟹を鍋に入れては
喧嘩にならないように子供たちに分け与え
ずっと蟹がなくなるまで
その作業を続けていました
あっという間に蟹を食べつくして
僕の出番も終わり
後はゆっくりと
鍋に残った物を突っついていました
「冬の思い」
# 1
いつからか 雪は降り
ボタン雪となって 終わりなく続いた
幼いときに見た 夢の続き
真っ白な舞台の 一夜限りのおとぎ話
声無き 影絵の始まりのように
ストーブの前の椅子 赤い毛布をかけて
あなたは眠ってしまった いつの間にか
本降りの雪の 様子など知らず
さっきまであんなに はしゃいでいたのに
# 2
雪はどんな祈りを 心の真ん中に埋め
降りてくるのだろう 長い長い旅路を
巡礼者のように 敬虔に
壊れやすい結晶の 姿をして
時折は この部屋の灯りに
誘われるものもいて
窓辺に顔を寄せては
透明なガラスに張りついて
とけていく せつなさ
まじわれない せつなさ
―雪は どんな祈りを僕に
捧げに来たのだろう
# 3
やがて大地は 祈りの言葉で
満たされて 静寂を増す
明日の朝になれば 大地から
きっと消える雪は 遠い夢物語として
かなわない祈りは 空に帰り
また降る時を 待つのだろう
# 4
雪の降るよりも 微かな吐息で
まどろむ あなたの頭に
僕はそっと 頬を寄せる
溶けることなく 温もり伝わるあなたに
さわれることの うれしさ
きえてしまわない たしかさ
胸に湧く言葉を
綺麗な結晶にみがき
あなたに届けたいと
ささやく雪を 真似たくて
静かに 窓の外に 耳を澄ませた
「冬の日」
# 1
冬の朝
寒さ湛える外気に
風景は人の吐く息で白い
朝日はまだゆっくりと
山並みの稜線に
空に昇ることを
億劫がっているようで
冷たい水を一口含んで冬の朝
かじかむ手を擦りながら
いつもの駅へ向かう
足どりが運ぶ僕の心は
眠たい毎日に鈍り
寒さは無用の長物と感じている
# 2
針山となった街路樹の通りを
四角いバスは走る
ぎっしりと人を
その体の中に詰め込んで
時々急ブレーキで驚かせ
うつむいて上がる駅の階段
ホームは騒然とした
人の声 電車の到着する音
発車ベル ため息にも満ちて
僕はまた朝からけだるく疲れている
# 3
寒々とした毎日を
当たり前のものとして
受け入れる僕の心は
悲しみも喜びもなく
なんの痛みも感じなくなって
冬の朝
空だけが晴れ上がって
ああ 美しい
「大木の詩」
# 1
太陽が 僕の上にある
陽射しが 降り注いでくる
すべてが 僕の栄養
僕はたくさんの 枝を伸ばし
葉をひろげる
風を掴んで 膨らむ
静かな水を湛えるように
透明に潤む空
その澄み渡る 湖に身を浸そうと
心 高鳴らせ あこがれのまま
力の限りに 梢を伸ばす
# 2
自由に空を満喫する
白い雲は ここまでおいでよと告げる
絶え間ない 呼びかけ
僕の体を 巡る樹液は
雲が絞った 雨の恵み
大地を貫く 根を駆け上がる
伸びること止めない 枝の先
一枚一枚の 葉の管へと
葉っぱが 笑い
ざわめくのは
風との会話が
楽しすぎるから
# 3
足早に 一日は過ぎて
いつしか顔をかえて 空は夕暮れ
僕は蝋燭よりも 赤く燃え立ち
訪れる夜の 道標となる
一番星 二番星と
月も憩う 星月夜
星々の会話に 聞き入ること
それは僕を深めて行く 知恵
そして時は今 秋を迎えて
玲瓏な風が 年輪を重ねる
季節だと告げる
# 4
過ぎたひととせの 想いを全て身に宿し
去り行く葉の あるだけを落とし尽くして
深く自分の中に 潜り込む僕は
身じろぎもせずに 体に力を漲らせ 冬に立つ
どこまでも高みを目指し 青空に捧げられた
一つの 祈りの 形象として