年も明けてから陽射しが
少しずつ強くなってきていることを
肌で感じられるようになってきましたが
まだまだ風は冷たく
朝夕はコートのボタンもしっかりと止めて
俯き加減に道を歩いています
その夜も一日の仕事を終えて表に出ると
待ち構えていたように風が襲いかかり
身震いを感じるような冷たさに
まだ冬であることを実感しました
年も明けてから陽射しが
少しずつ強くなってきていることを
肌で感じられるようになってきましたが
まだまだ風は冷たく
朝夕はコートのボタンもしっかりと止めて
俯き加減に道を歩いています
その夜も一日の仕事を終えて表に出ると
待ち構えていたように風が襲いかかり
身震いを感じるような冷たさに
まだ冬であることを実感しました
「影」
# 1
地面の底から湧く
不吉な染みの様に
人々の背中にはりつき
離れない
雑踏の中では 逃げ場をなくし
影と影とが入り乱れ
人の形をなくし 奇妙な姿となって
手や足を 何本もはやし
もはや誰とも分からない首を
沢山 並べて
寂しい昆虫の 触手のように
落ち着きなく 揺れている
# 2
影は入り乱れかき回される脳に
浮かぶ考えはいつも船酔い
思い定まらず気分が悪くて
それは影から影へひろがり
都会の重い気分となって
寝苦しい悪夢へ変わる
起きた時の自分は
表情のない黒い影のようだった
僕は乗っ取られる予感でいる
何も感じないままに
黒い影に心を奪われて
毎日の暮らしの中では
心からうなづけないことも多く
けれど、分かったような顔をする僕がいます
そんなうなづけないことは
消化不良を起こしたまま胸の中できしむのですが
したり顔をしようと
その軋みには耳をふさいでしまいます
やがて、そんな軋みが耳に届かなくなるときに
僕は一人前になるのかなと
自虐的なことを考えたりします
朝から雪がちらついた日のこと
その日は歯医者の予約を入れていたので
セーターやらをたくさん着こんで
家を出ました
ドアの外に出ると
外気が肌に少し痛く感じられます
とある交差点で立ち止まると
雪で白くなった景色の中
目の前を一台の赤い車が横切りました
急に飛び込んできた
雪と鮮やかなコントラストをなすその色は
眠気を覚ますような新鮮な感じで
その車自身も
今日の主役は自分だと言うように
誇らしげに雪を押しのけ横切っていきました
「あなたへ」
# 1
僕の詩を
あなたの胸の片隅に飾らせてください
吐露することのできない胸の内深く
せめぎあう世界に身をさらしては
傷つき取り出してくる言葉から
僕の魂を感じとって
あなたの胸の中に
抱きすくめてください
# 2
悲しみにとらわれてあなたが
一人もの思いに沈む日には僕の詩を
あなたの 静かな伴侶にしてください
(僕の魂のかなでる調べを
そこに刻みつけようと思うのです)
あなたの胸の祭壇に
貧しい言葉ですが一心に
熱い祈りを捧げていたいのです
# 3
星も瞬かない夜の底
誰にも知られない痛みに
狂おしく悶える
そんな孤独な魂にこそ
詩は震えます
昼間は
騒がしい人たちに踏まれ
足跡だらけになっていた言葉が
月の光の静けさに洗われ
生命を新しく取り戻す時に
あなたへと流れ
あなたへ触れようとする調べを
あなたの心で噛み砕い下さい
毎日を過ごしているうちに
少しずつ使い古される心は
どこかボロきれのように汚れ
穴さえも開いています
けれどそんな心さえも励ますように
朝の陽射しが
新しい一日の訪れを教えてくれます
きっと誰にでも同じ眩しさで
それが目覚めたくもない心には
時として残酷に
思えるときもあるのですが
雪の降る秋田で過ごした時のこと
ほぼ毎日雪が降り
あたり一面が銀色の雪景色
子供たちは大喜びでしたが
外に出ると直ぐに寒いと言って
家の中に入って来ました
都会の子供だなと
ちょっとそのひ弱さが
心配になりました
もっとも風が強く雪と混ざると
大人の自分でも逃げたくなったので
仕方がないのでしょうが
その夜のことでした
寒さに目覚めトイレにでかける途中
窓の外を眺めると
オレンジの街灯の下に
静かに降り積もる雪
その風景は昔から続き
これからもずっと同じであるようで
まるで時間が止まっているように見えました
「僕はここにいるよ」
# 気づいて
僕はここにいるよ
君に気づいてもらおうと
君の力になるために
僕はここにいるよ
それに気づいてくれたなら
君はきっと一人ではないから
# 花
僕はここにいるよ
君の足元で 静かに風に揺られているよ
君に見てもらおうと 真っ白な花を咲かせたんだ
# 風
僕はここにいるよ
難しい顔をした君の 入り組んだ気持ちを解きほぐそうと
君の髪の毛に触り そよそよと揺らしているんだ
# 星
僕はここにいるよ
眠れないでいる 君のため息が耳から離れず
空の奥から君の部屋を 瞬き覗いているんだ
# 鳥
僕はここにいるよ
君の目が晴れ晴れとする 青い空に注がれるように
鳴きながら 空の奥へと羽ばたいていくんだ
# 蜜柑
僕はここにいるよ
君の手に温もりを残したくて 陽射しを一杯に浴びて
太陽のような こんな色に染まったんだ
# 玉蜀黍
僕はここにいるよ
君が僕の背の高さ 追い越そうと希望を持つように
真っすぐに 高く高く伸びて行くんだ
# 雨
僕はここにいるよ
物思いに沈む 君の耳を楽しませようと
君の家の屋根や窓を 七色の音階で叩いているんだ
# 虹
僕はここにいるよ
この世界が 綺麗な色で満たされていること
君に見せたくて 雨上がりの空を駆けていくんだ
落ちていく夕日に
追いつこうとするように
子供たちが一生懸命に
ペダルを踏んで追いかけていました
西日さえも遊び相手にして
真剣になれる
子供たちの一心さが
とてもうらやましく思えました
僕も子供の頃に
追いつけない夕日に向かって
自転車を走らせた
土手の上の風景を思い出しました
初仕事の日
少し重い気分で電車に乗りました
だらけきった寝正月
頭もまだしゃっきりとせず
眠気が頭の真ん中に居座るようでした
目的の駅で
たくさんの人と一緒に
電車を降りて歩き始めると
とても甘い香りが鼻につきました
香水の香りです
急に漂ってきた甘さは
気付け薬としては十分でした
億劫に思える日々の生活に
また戻るのだと実感しました