風のささやき 俳句のblog

訪問ありがとうございます
オリジナルの俳句を中心にご紹介しています
詩や短歌も掲載しています

桜見ぬ赤子は花より眠気なり 【季語:桜】

2020年03月28日 | 俳句:春 植物
桜がちょうど見ごろということで
子供を連れて近くまで出かけることにしました

子供をおんぶ紐で抱きかかえ
風が冷たく感じられたので
毛糸の織物でその体を包みました

しばらく歩いていると
程よい揺れに
気持ちよくなってしまったのでしょうか

さっきまでキョロキョロと
辺りを見回していた目を閉じて
すっかりと寝入っています

桜の下に着いたので
「桜だよ、綺麗だよ」と声をかけても
一向に起きる気配がありません

その姿を見ながら
桜より眠気かとつぶやいていました

桜の咲く頃に 【詩】

2020年03月26日 | 
「桜の咲く頃に」

ほころび始めた桜のつぼみは
いつ咲く心積もりを決めたのだろう
開き始めれば走り出した子供のように
待つことを知らず
陽射しに白く溶け出してしまいそうだから
青い空はしっかりとその色で縁取りをしている

短い命の桜の花だから
悪戯をするな風よと
命ずる僕の言葉を無視して
洗い立てのシャツをなびかせるように
無造作に花を揺らす風に

舞い降りてくる花びらには
淡い春の静けさがそっと手を置いている
僕を透明な空気のように
すり抜けて花びらは
無尽蔵にも見えてきっと限りがあり

夢ほどにも淡くなる桜の印象は
目覚めたときのため息に消されながら
また普段の暮らしは続いて行くから

桜の印象に震えられる胸の
無二なひと時を
ありがたく思い桜に礼する

つぼみ持つさくらの根元にたたずみてその日の色に思い巡らす 【短歌】

2020年03月25日 | 短歌
夜遅く仕事を終えて
終電を待っていました

時計を見たら電車が来るまで
まだ10分以上あります

幸い夜になっても
あまり冷え込むことはなかったので
その時間もあまり苦にはならなかったのですが

時間をもてあまし周りを見ると
駅のホームまで枝を伸ばした
一本の桜の木が
たくさんの蕾をつけていました

その蕾を見ていたら
その桜が満開になった時の鮮やかな様子が
脳裏に浮かんできて

しばらくは夜の闇に浮かぶ
その桜の枝を見上げていました

春の朝湯気立ち茹だるポストかな 【季語:春】

2020年03月21日 | 俳句:春 時候
コートを着て外に出たことを
すぐに後悔するほど
その日は朝から随分と暖かでした

前日までが肌寒く
その寒暖の差から余計にそう
感じられたということもあるのでしょうが
実際に額からは汗が薄く滲んできます

いつも見かける赤い郵便ポストも
普段よりも赤く見えて
まるで茹だっているようです

目の錯覚なのでしょうが
そこから湯気が立っているようにも見えて

予想外の暖かさに
自分の頭もおかしくなったのかなと思っていました

いなくなった春風に 【詩】

2020年03月19日 | 
「いなくなった春風に」

万国旗を持ち上げる力もなくなって
春風は不意にいなくなってしまった
汗をかいたコップの水が急になくなるように突然に
空を飛ぶヘリコプターが見つかる当てもない捜索を続けている

残された木立の明るい影だけが
ばつが悪そうにじっとしている
柳の若葉はぐったりとしょげかえっている

僕らもスッとドアから出て行くような気軽さで
姿を消せたらいいのにと
自分の重さに倦んでいる僕は一人思っている

壁にかかったコートは誰のものだったかしらと
君が思うぐらいに
人の記憶の中からも軽くなれたら
不意に僕らしい僕が顔を出すかも知れないから

けれど不用意に僕は
たくさんの僕の印象を垂れ流して生きているから
たくさんの人に染み付いた僕の痕跡を消して歩くには
残されている時間は少なくて

僕の中にもたくさんの人の印象が
積みあがってしまっているから
その多くのところが君だということもあり
簡単に投げ捨ててしまうこともできなくて

僕はますますこの世の中につながれて
僕はもっと重くなって生きることになる
願わくばそれが鉛のように鈍た重さではないことを

風が不意にまた吹いてくる
自在というのか勝手というのか
柳の木がうれしそうに動き出した

止まれとのしるべ無視して自転車は滑り行くなり春風に乗り 【短歌】

2020年03月18日 | 短歌
その日は朝から暖かく
春らしい一日でした

僕は歯医者に行こうと
自転車に乗りました

歯医者までの道を走っていると
僕の前に何台かの自転車がいました

ほどなく交差点のところで
止まれの標識があったのですが
先行している自転車は
その標識で立ち止まることもなく
走っていきます

かく言う僕も
春風に背中を押されて
勢いがついて
自転車がすべるように進み
止まれの標識を意識せずに
通りすぎてしまいました

もちろん車が来ないことを
確認してなのですが

電車去る度に見送る雪柳 【季語:雪柳】

2020年03月14日 | 俳句:春 植物
駅の片隅に雪柳が
真っ白な花をたくさんつけていました

お昼時
電車の本数も少なくなり
辺りは静かです

暖かい太陽を浴びていると
日向ぼっこをしているようで
少しうとうととしてきます

その静寂をやぶるように
やがて電車がやって来ました

電車に乗り窓の外を眺めると
先ほどの雪柳が電車の起こした
風に揺られています

それはまるで電車を見送るために
手を振っているようです
電車が来る度にそうしているのでしょう

僕の乗る電車もその雪柳に見送られて
走り出すのでしょう

君が走っている 【詩】

2020年03月12日 | 

「君が走っている」

君が走っている
夕陽の照らすアスファルトの道を
首の白いタオルが
走りに合せて羽ばたくようだ

君が走っている
赤い車が追い越していく
すぐに遠く引き離されて
けれど自分のペースに焦ることなく

君の足は楽しく軋みをあげる
力を込めればやがて
重力からも開放されると信じ

吐く息は熱い
軽く握られたこぶし
失わない一定のリズム
汗は夕陽を映して惜しみなく流れ

君に手を伸ばす新緑の柳も
追いかける赤い風も
気にせずに地面を蹴って
君はスピードを上げて

眼差しはどこまでも真っ直ぐに
君がたどり着く場所に注がれる
届くことを信じて疑わない
胸の思いが熱く急がせる

道は長く真っすぐに続き
その先は夕陽に溶けている
君の力強い足は
君をその先にまで運んでくれる

君が走っている
疲れを知らず力強く
熱い息を吐きながら


目が合った老婆の瞳に春色の穏やかさあり生き永らえた 【短歌】

2020年03月11日 | 短歌
お昼時
皆で昼食を食べようと
食堂に入りました

普段はさほど込んではいない食堂が
珍しくその日は満員状態

注文を頼んだ後は
食事が出てくるまで
しばらくお茶を飲みながら待っていました

後からお年寄りのご夫婦が入って来たのですが
自分たちの会話が途絶えた合間に
周りを見回していたら
そのご婦人の方と目が合いました

春の色にも似た
とても穏やかな眼差しでした

きっと今まで色々なことがあったことでしょう
それをすべて引き受けて生きてきた
その果ての穏やかな瞳なのかなと思うと

自分もそこまで辿り着けるのかなと
不安になりました

白酒の相伴もせず夜半に帰す 【季語:白酒】

2020年03月06日 | 俳句:春 人事
先日は桃の節句でした

男の子だけのわが家では
雛人形を飾ることもないので
その日の存在自体を
意識することなく過ごしているので
尚更なのでしょうが

当日の僕はばたばたと忙しく
家に着いたのは0時を過ぎていました

桃の節句だったと思い出したのは
何気なくテレビを見ていた時のこと

きっと小さな女の子がいたのなら
怒られるのだろうなと
そんなことを想像していました

帰りたくても帰れない
お父さん方も実際にたくさんいたと思うのですが