スマホの待ち受けにしていた子供たちの写真は 冬に撮ったものでした その時の二人の表情が気に入ったので そのままにしていたのですが さすがにジャンバーを着たその写真を見ていると ちょっと暑苦しく感じられます 夏らしい写真を撮ろうと その機会を狙っていたのですが つい最近行った場所で 川遊びができたので そこで遊ぶ子供たちの姿を 追いかけていました 結局は動き回りすぎる子供の姿を捕えられずに ピンボケ写真ばかりとなってしまったのですが
窓の外には雨が降っていました
その雨音のせいでしょうか
寝苦しい夢を見ました
うろ覚えだったのですが
その中でも雨が降っていました
ここのところのすっきりとしない空模様は
胸の中にも入り込んで
いつしか夢までも侵食したのでしょうか
朝目覚めると
雨が降っている外を
がっかりとした様子で眺めている子供
大好きな散歩が中止ということが
直にわかったのでしょう
今日も持て余した力を
家の中で発散させていました
「午睡に」
君の手が和らぎわたる初夏の午後
僕の額に触れているのは君の手か
夏の陽射しなのか
僕は分からなくなる
僕はどうしてここに横たわっているのだろう
もう忘れてしまった遠い遠い道のりを
あなたは知っていて
それでも僕を慰めてくれる
あなたの手は風でもあったのかもしれない
飲みかけの麦茶に確かにさっき
僕の喉は潤っていた
けれど僕の渇きが
そこで止まることは
この先もないのだろう
コップだけが汗をかいて満足だと注げている
人のよさそうな顔をした老人が二人
家の前で日常の挨拶をしている
屈託の無い笑顔で
確かにその人たちにも
少年の日があった
今日も暑いですねと
頭上から降るその陽射しの強さに
僕は家の中で横たわっているんだ
いつの間にか太陽に染まらなくなった
白い手足からは
大地の香りはしなくなっている
そういえば西瓜が
冷蔵庫の中にはあったっけ
あの種を庭に吐き出しながら
頬張っていたときもあったっけ
この昼寝から覚めたのなら
その西瓜を食べようと思うが
僕はもうこの午睡から
そちらの世界に帰りたくはないと
ほんとうは思っているんだ
君の団扇の送る風は
何故そんなにも規則的で
迷うことがないのだろうか
額に汗が流れて行くのを
僕は気づかない振りをして
目を瞑ったままだ
電車に乗って 水田の広がる風景を眺めていると 何故かほっとするものを感じます そこに茅葺屋根の古い家でも加わろうものなら 僕の胸の内に穏やかで 懐かしいものが広がっていきます 小さな時分 茅葺屋根の家で暮らした経験が 自分にはあるので その原風景のようなものに出会うことで 穏やかさを感じるのでしょうか それとも個人的なもの以上に 日本人の心象に潜む原風景なのでしょうか 茅葺の家で暮らした経験はない 自分の子供たちが大きくなったときに こうした風景を見て どんな感想を覚えるものか 聞いてみたいものだと思っていました
シトシトと雨が降っていました
すべての物音は
落ちてくる雨粒が吸収してしまったように静かです
あるいは雨の音が
他の雑音を包み込んでしまったのでしょうか
視覚的にも雨は町に変化を与え
普段は角ばって輪郭がくっきりとした
ビルとビルもその肩を濡らし
輪郭もしっとりと膨らんで
その境が曖昧となり
まるで町一面が灰色に押し込められた
絵画のように見えていました
子供たちの足に生傷が絶えません 外で走りまわっては転んでいる 元気な証拠だと思うのですが それにしても次々と傷をこしらえてきます それでも見ていると新陳代謝が早いせいか 傷が治るのも早く驚きます そんな風に毎日鍛えているからでしょうか ここのところ子供たちの駈足に 追いつくのが一苦労という時もあります 自分は運動不足もいいところなので 後何年もしないうちに 追いつけなくなってしまうのではと ちょっと危惧しています
暑くはない夜のこと
それでも子供たちは
体温が高いのか
布団をはいでお腹を出し
すごい姿で眠っていました
触ってみると
どこか汗ばんでしっとりとしています
うつぶせに寝ていた側の髪の毛は
濡れた感じで汗をかいています
その汗で痒くなるのでしょうか
出したお腹をボリボリと掻きながら
寝返りをうったりしています
今からこれで大丈夫かしらと
子どもたちの体調を気にしています
「風と赤子と」
白いレースのカーテンが
慌てた生き物のように動きだす
さっきまでは寝ぼけ眼で
部屋をうかがっていた
初夏の風 その目覚め
くすぐったい風を歓迎する
マシュマロのような小さな手足
ミルクの匂いの二人の赤子
風が睫毛に触ったと
くすぐったく笑う歯は
まだ生えたての柔らかさで
どこかで生まれ
どこへでも吹いてゆく風は
ずっとずっと昔からの
大地の木々の海の人の
親愛なる昔馴染み
だから赤子にも挨拶に来てくれた
それで嬉しくなって
ばたばたと手足を動かす赤子
風はあやすことを楽しんで
次から次へと窓に押し寄せる
風は饒舌に伝えてくれるかな
世界がどれだけ素晴らしいのか
僕の幾千もの言葉よりも
一吹きでそれを教えてくれる
赤子は風の話に
素直に耳を傾けている
甲高い喜びの声も
風呂敷に包むように
きっと持って帰るよ
こんな赤ん坊もいたのだと
これから生まれくる赤子への
土産話にでもしようと
まだ 風の方からやってきて
手足を触られている赤子
やがて自分の足で立つときには
風を追いかける人になる
まだ見ない広い広い世界へと
風に誘われて 心躍らせて
走ってゆく人になる
以前、飛魚漁と干し物を作る資料を 眺める機会がありました 飛魚が飛んでいる写真は 一枚も無かったのですが 何故か自分の頭の中に 海面を離れて空中に浮かぶ 飛魚のイメージが鮮明に浮かびました 銀色の体が強い日差しに光り 何匹も群れている様です 何故そんなにも飛魚が自分の印象に残ったのか 不思議だったのですが しばらくは頭の中で ちゃんと見たことの無い飛魚が 飛び回っていました