風のささやき 俳句のblog

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眠られぬ夜は果て無し曼殊沙華 【季語:曼殊沙華】

2023年09月30日 | 俳句:春 時候

夜、眠れずに考え事をしていました

思いはあちらこちらに及んで
あの世のことなども考えていました

目をつむって
その場所を想像をしてみるのですが
暗い道が、暗闇に続くばかりです

道の両側に時々
篝火のような赤いほの明かり
そうして道に沿うように咲いている曼殊沙華

夜の闇の中の想像は止めるものもなく
何処までも膨らんで
余計に頭も冴えてしまい
明日の朝のことを思うと憂鬱になりました


半月 【詩】

2023年09月28日 | 
「半月」

黒猫が睨むような上限の月に
射貫かれて立ち止まる
買い物帰りのレジ袋を持った僕
雲一つない秋の空に浮かんだ
半部閉じた淡黄の瞳

いつの間にか夜の空は
黒猫の大きな胴体のように
艶のある毛並の柔らかさで
僕を包む込む

涼しい風だ、それは黒猫の吐いた、眠たい吐息
もしかすると黒猫は、ただ眠たいだけの目
重くなって黒い闇の中に、やがて閉じようとしているのかも知れない

―すべてが闇にやがて眠る・・・・・

家で待っている、子供たちのことを
ギュッと胸の中で、何かを捕まれるように思い出す
君たちの間で、体横たえて、僕も眠りたい

眠たい黒猫の目を真似て、瞼を重くして
眠りと起きている所の境目も分からずに眠りについて

大きな瞳にじっと見つめられる当惑と
けれど、いつでも、人の吐息を傍らに感じていたい気持ち
寂しさの矛盾、秋の夜だ

夕暮れてあなたに触れたい寂しさは愛しさ覚えた報いなのかな 【短歌】

2023年09月26日 | 短歌

一日の出来事を終えて
家に帰る夕暮れどき

少しほっとする心に
夕日の穏やかな色合いが染みてきました

そうしてどこか人恋しく思われて
家に帰ると大切な人が
待っていてくれたらいいなと思いました

けれど今は叶わぬ望み
胸に湧く寂しさは
愛しさを覚えたからかしらと

人を慕うことの嬉しさと寂しさを二つ
心に感じていました


湖水に 【詩】

2023年09月21日 | 
「湖水に」

暮れて行く湖には
 影を落とす柳の葉
  その細長い影が闇に解き放たれて
   群れた魚のようにさざ波を立てる
    ようやく自由になった影法師
     赤い風がその背びれを押している

あなたへの愛しさも
 夕闇の静けさに解き放たれて
  捕らえようもなく泳ぎ出す
   赤い鱗をしたものもいる
    真っすぐに進むもの
     湖水深く潜り込んで
      白い泡を吐き出すものもいて

ちゃぽんと 音がした
 子供が石を投げ込んだ
  柳の影も僕の愛しさも
   そちらに耳を傾けた

二つ 三つと
 手から離した石の
  その行方を
   きっと子供は直ぐに忘れる

いつまでも大人は
 水面を見ている
  沈み行く石の時間を聴く
   どれだけのものが
    心の底に沈んだのだろうと

自らの重さに沈んだ思い
 光の届かない暗い湖底に
  もう呼び覚まされることもなく

橋も橋を渡る人も
 夕陽色の絵具一色だ
  赤い雲を真似て自動車も
   向こう岸へと渡る
    もうきっとこちらには戻らない

僕もその架け橋を
 いつの日にか渡り
  行くのだろうな
   夕日の沈んでいく方へ

それまでに
 どれだけの言葉を
  紡いでいけるのだろうか

それ以上に
 思いの骸を沈め
  冷たい水の手に絡みとられて
   生み出せなかった言葉の塊を
    悼みながら過ごし

せめてあなたの胸に届く言葉を
 綴れる日があるのならば
  くすぐったい達成感と
   それしか出来なかった
    喪失感とを感じながら

僕はあなたの感触を
 誇らしく携えて行きたい
  僕らしい言葉に写し取って
   別れることが習わしのこの世に
    別れがたく
     いつまでも離れがたいあなたの

いつまでも波に漂う海藻は投げうつ心色をなくした 【短歌】

2023年09月19日 | 短歌

水面を眺めていたら
何やらレジ袋のようなものが浮いていて
誰かが捨てたものかなと思ったのですが

よく見ると海藻でした
ずっとそこで洗われ続けて
色をなくしてしまったようです

ただ力なく波に漂い
色を失っていくその様子が
投げやりになった時の
心の様に似ているようで

時折は全てがどうでも良いやと思えてくる心は
戒めなければいけないなと思いました


隈取の秋雲睨む僕なのか 【季語:秋雲】

2023年09月16日 | 俳句:秋 天文

朝、駅で電車を待っていました

見上げると
空をキャンパスにすじ雲が模様を描いていました
その模様がどこか歌舞伎の隈取りのように見えてきて
眉をしかめて、怖い顔で
僕を睨んでいるようにも見えました

何か悪いことでもしたかしらと
少し居心地が悪くなって
それから目をそらして
入ってきた電車に乗り込んだ僕でした


夏の終わりに 【詩】

2023年09月14日 | 
「夏の終わりに」

トンボの翅はステンドグラスのよう
遅い夏の夕日を
あちらこちらで透かしている
そこにどんな祈りは降り立って
頭重くする稲穂は小判を実らせる

鳥は夕日に編隊を組み
一斉にねぐらに帰ろうとする
待宵草が月を迎えようと花を開く
河原にはなすすべもなく
悲鳴をあげて流れをすべり去る夏
昼間の間の熱を
ゆっくりと丸い石は吐き出し
山の上の星は放心している

夕餉の準備にさっき
鯉の腸を洗った
家の前の池も闇に触られて
水面に広がる血ともう
その色合いも区別がつかなくなる

僕の胸には去っていく
夏があった証のような
かすかな火照り
それも灰色の燃えカスになる

きっと明日には
ひきずりだされて秋は
泣き言をならべ
白い指先で風景を
ひっかいていくだろう

夏の面影を削ぎ落すように
病的に瘦せた輪郭のような
力ないか細い線で

まだ蝉がしみいれと言うふうに鳴く、風に、景色に、胸深く、僕の 【短歌】

2023年09月12日 | 短歌

蝉が大きな声で鳴いていました

しつこいぐらいなのですが
まるで自分たちの声を
残そうとでもするかのよう

やがて夏が過ぎれば
その声もなかったもののように
止んでしまうのでしょう

それなのに懸命に鳴く蝉の声は
どこか切なくも思えて
胸に響くものがありました


手折り来て小言相手に月見草 【季語:月見草】

2023年09月09日 | 俳句:夏 植物

河原を歩いた時に
月見草をいただいてきました
そうして、一輪挿しに挿しました

その日
嫌なこともあって
気分がすぐれなかったので

その月見草に小言を
聞いてもらいました

月見草は黙って聞いてくれるので
良い相手

ひとしきり小言を言ったら
すっきりして眠った僕でした