風のささやき 俳句のblog

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春めくや野の風呂の湯気のほほんと 【春めく】

2020年02月29日 | 俳句:春 時候
体が疲れている感じがしていたので
久しぶりに近くの温泉施設に出かけました

お昼時にでかけたせいか
人も少なく
何種類かある湯船を
それぞれゆっくりと楽しむことができました

露天風呂もあったので
そちらにも足を伸ばしたのですが
温泉の湯気も
冬の時分のようには真っ白ではなく
春にあわせるように
のほほんとした色合いに見えました

春の風邪 【詩】

2020年02月27日 | 
「春の風邪」

あなたが激しく咳き込むと
そのたびに僕はビックリとして
あなたの方を振り返る
すべての空気 吐き出した風船のように
あなたが萎んではいないかと心配になって

春の風邪は意地悪だ
窓の外の太陽は肌触りのいい陽射しで
すべての者を誘い出そうとしている
そよいでいる風は少しばかりのイチゴの香りに上品だ

走り去る自転車に羽根がついたように軽い
買物袋もどこか楽しそうに揺れているのに

あなたの体だけは火照り続けて
そこだけ一足飛びに夏が来てしまったようだ
熱にうなされ見る夢は
砂漠の蜃気楼のように
熱砂の暑さであなたを苦しめている

寝言とも溜息ともつかない寝息
あなたの喉の奥に
奇妙な生き物が住み着いてしまったようだ
横たわっているだけにしては
あまりにもあなたの額を光らせる汗

ベランダには三日前に買って来た
鉢植えの花がそのままで寂しそうだよ
台所のイタリアンパセリも
だらしなく伸びているし
僕が沸かすと薬缶の音さえ不機嫌そうだ

あなたといつものように
話をしていたい僕も一人テレビを眺めながるだけで
目をどんよりと 退屈に身をゆだね

家の中のすべてのものが
あなたの元気 待っているよ
早くこの意地悪な風邪を治して
家の中の調子を取り戻して
誘われるがまま
太陽の陽射しの下を
ゆっくりと散歩をしようよ

雪のショール肩から落とす杉もいる春滴りて野山潤す 【短歌】

2020年02月26日 | 短歌
まだ雪の残る野山の間を
車で走っていました

車窓から眺めていると
ところどころで杉の木が
肩に降り積もった雪を
落としていました

まるで邪魔になった白いショールを
脱ぎ捨てるような仕草で

きっと僕が感じ取れないだけで
春が静かに野山に満ち始めているのでしょう

その明るさに野山が潤い
待ちきれないでいる者たちが
胎動を始めたのだと感じられました

春疾風赤子(こ)の頬もプルルと揺れそうで 【季語:春疾風】

2020年02月22日 | 俳句:春 天文
その日は朝から
随分と風が強く吹いていました
ベランダを通る風も
すごい音をたてて通っていきます

鉢植えやら物干し竿やらが
飛ばされてはいないかと心配になり
目を覚ましたぐらいです

こんな風の中に子供を連れ出したら
どうかなと想像したのですが
パンパンに膨れた頬っぺたが
プルプルと震えるのではないかと
そんな姿が浮かんで来て
一人でニヤニヤと笑っていました

障子の向こうに 【詩】

2020年02月20日 | 

「障子の向こうに」

障子を透かして
ほのかな橙の薄明かりがこぼれます

裸電球を
消し忘れてしまったのでしょうか
月明かりで眠るには
あまりにも心細く思えたので

古めかしい本の
虫食いの黄ばんだ色
顔に乗せて安心をして
いつの間にか眠っていたのです

古い柱時計は二つばかり
真夜中の時間を告げました
遠い木魂を聞いているようでした

僕は半分は目を覚まし
半分は懐かしい夢を見ていました
額には大粒の汗を浮かべて

障子の向こうには
着物を着た女の人が本を読んでいました
風が吹くたび潤んだ目で
窓の外を眺めました

生真面目に伸ばした白いえりくび
まだ見ない未来が
その両方の耳に呼びかけていました

その人の未来に
抱かれるのは僕でした
柔らかな胸に安心をして
名前を呼ぶ声が聞こえます
その名前が僕でした

その人は甘えさせてくれる人
若き母よ
だから息を潜めて
気づいてくれることを
寝たふりをして待っていました

胸に産みつけられる寂しさが
その人のうなずき一つで
消えることを知っていたから

年を重ねて
口を噤むことを求められる
世の仕来りに唇を歪める
僕はここにいるのだと

けれどうつむき本を読んでいる
その人の瞳が
僕の方に注がれることはなく
その人の未来は
障子の向こうに閉じられたままでした

裸電球の色をした夢のなか
その人を懐かしく思いながら
僕は僕の時間で生きてゆくことを
求められているのでした


携帯に酔った声あり去る人の嬉しさ寂しさ何回か聞く 【短歌】

2020年02月19日 | 短歌
自分の携帯電話に留守電が残っていました

たまたまその日は送別会があったのですが
自分はどうしても仕事で参加できず
わざわざ声を残してくれたものです

相当飲んでいたのでしょう
酔っ払った声はちょっとろれつがまわらず
同じことを繰り返していました

時期が来て部署が変わる嬉しさと
きっとまだ遣り残したことがある寂しさ

そんな二つが残された言葉には読み取れて
思わず何回か留守電を聞いていた自分でした

春風邪の熱食い散らす夢に酔う 【季語:春風邪】

2020年02月15日 | 俳句:春 人事
普段は風邪もひかず
熱をあまり出すこともない自分なのですが
今回は39度近い熱を出してしまいました

土曜日は薬を飲んで一日寝ていたのですが
熱にうなされていたせいか
断片的な意味もわからぬ夢を
たくさんみました

そのめまぐるしさに
起きたときには少し酔ったように
ふらふらとした気分
やはり健康が一番ですね

冷たくはない雨に 【詩】

2020年02月13日 | 
「冷たくはない雨に」

いつの間にか降り出した雨が
降り積もった雪に吸い込まれていく
音までも一緒に吸い込まれたように静かに

雪のない路面だけには文句でもあるのだろうか
音を立て騒ぐあまり冷たくはない雨だから
傘の間から紛れ込んでも僕は驚かずにいるよ
それは後ろをついて歩いてくるあなも同じ

水気を含んで膨らんで見える雪の塊が
昨日よりも角をなくして見えるのは
僕の目の錯覚でないとしたなら
はっきりと春は侵食を始めている

昨日は晴れ渡った青空に
一本の飛行機雲がスーッと引かれた
随分と空も柔らかくなったんだな
冬の空にはとても色の乗らない
力強いパステルの線がいつまでも消えずに
僕の瞳には残っていた

さっきは一瞬
僕を怯えさせた強い風が
裸の木々を大きく鳴らした
けれどもうその威嚇も通じることはない
木々はどこか揚々としていた
だから風はすぐに諦めて
逃げていってしまったんだ

道のところどころには
もう地面が顔を覗かせている
春になればあの場所は
どんな草花に埋め尽くされるのだろう

季節はいつでも僕が気がつかないうち
その歩みを進めている
僕はただその時々の季節の足音
ようやく聞くことを学び始めた者
新鮮なままの驚きと尽きぬ慰めとを
いつでも胸に抱いていられる

この道は小さい命の通学路水仙群れて呼びかけている 【短歌】

2020年02月12日 | 短歌
車での出張の途中
とある曲がり角のところに
「この道は小さい命の通学路」と
手書きの交通安全の標語の看板が
壁にかけられていました

きっと近くに小学校でもあり
子供たちが大勢通る道なのでしょう

そうしてその下には
たくさんの黄色い水仙が咲いていました

まるでその標語を一生懸命通る車に
呼びかけているようで

一瞬にしてその言葉は
僕の頭に刻み込まれました

春朝日眠たいまなこに矢のごとし 【季語:春】

2020年02月08日 | 俳句:春 時候
ここのところ多忙で
夜が遅いせいか
朝起きるのがつらく思えます

家に帰って来て
早く寝ればいいのですが
気分が高まっているせいか
なかなか眠りにつくことができず
睡眠時間が短いのでなおさらなのですが

そんな眠たい目には
明るい春の朝日は少し強すぎるようで
電車を待っている
僕の瞳に飛び込んでくる陽射しは
どこかちくちくとして
矢に刺されているようでした