風のささやき 俳句のblog

訪問ありがとうございます
オリジナルの俳句を中心にご紹介しています
詩や短歌も掲載しています

夏休み 【詩】

2023年08月31日 | 
「夏休み」

林の中を一緒に走る
陽射しがキラキラと
短い服の手足が
掘り起こしたばかりのように
真っ黒だった夏休み

冷たい流れには
火照る手足を冷やし
魚を追った川の浅瀬
金や銀を筋引き泳ぐ
俊敏な早さにもついて行けた

短く刈った髪は
若草のように
うっすらと青い汗を流し

大きく育った西瓜が
心地よい風に
緑の昼寝をする真昼どき

てんとう虫のオレンジが
星を背負い上る空を
一つかみの雲が
梢をかすめるように飛ぶ

その繭のような白さが
もっと遠いところへ
呼んでいるような気がして
青い稲穂の間から
濃い緑の山の上の
高い空見上げた
夏休み

つく法師独り読経するごとし 【季語:つく法師】

2023年08月26日 | 俳句:夏 動物

自転車で公園を走っていました

ちょうど木々が生い茂る坂道を
通り抜けようとしたら
唐突な感じの蝉の声

家の周りではすっかりと蝉の声も途絶えていて
独りだけ地上に出る時季を
間違えてしまったように聞こえました

独りでなく蝉は
どこか真面目にお経を唱えているようにも聞こえて

自転車で走りながら
遠く聞こえなくなるまで
その声を耳で追っていました


海 【詩】

2023年08月24日 | 
「海」

金色の朝日の降り立つ
海原は幸福な笑顔に満ちて
僕は まぶしさにその顔をみられない
いつの間にか そこから
放り出された者の 許されざる罰のように

船がゆっくりと 広げる航路を
光の波が 親し気について行く
すべてを信頼しきった
歩みはじめの 幼な子のように
笑いながら 追いかけて
甘えながら まとわりついて

僕があんな 信頼に
満たされていたの
いつの日のことか

大きな後ろ姿を信じきって
おぼつかない歩調を 恐れることなく
何度転んでも 痛くはなくて
その姿を追いかけていれば
幸福に 導かれると信じて

人はいつから
こんなに臆病になるのだろう
人への信を忘れ
ぎこちないけど
美しい歩みを忘れて

素直なままの 溢れんばかりの
微笑を 忘れて
ついて行く後ろ姿をなくして

自転車やひき逃げさけし蝉骸 【季語:蝉】

2023年08月19日 | 俳句:夏 動物

自転車に乗って
街路樹の横を走っていたら
仰向けの蝉の亡骸に
何体も会いました

その度に驚いてブレーキを踏んで
亡骸を避けて走ったのですが
その数が多いので
途中からはゆっくりと
慎重にペダルを漕ぎました

日中はうるさく感じられる
蝉の声も段々と少なくなり
やがて聞こえなくなると
それはそれで寂しいものがあります


海 【詩】

2023年08月17日 | 
「海」

白い窓枠に レースを飾って
海は夢見たままの 穏やかな青い絵画
一息ごとに 色合いを変える
幸福な絵筆の 踊りやまない

真珠色の波に触ってきた
風にはオリーブの艶
部屋に遊びに来ては
僕を子供のように幸せにする

白い貝殻のらせんを 一歩ずつ
さかのぼるよう ゆっくりと記憶を探る
肌に触れるものの すべてが楽しい
その感触のつながる先へ
開いてみる 水色の扉

僕の顔に 懐かしく
温かいものが 押し寄せる
それは 遠い海の向こうにある
幸いの国 その追憶の波

そこに暮らす
一人一人の顔を思い浮かべながら
したためる文字は
青空と夏の雲とを添えて
温かい涙で濡らした
切手をはって
今の僕へと消息を伝える

確かにそんな時が
あったことの追憶を
誰も胸にひっそりと飾る
小さな額縁に入れて
やがては窓から吹き寄せる
潮風に 色褪せて行くものとして

僕だけの胸には 大切な
誰にも触れられない 秘め事
その懐かしさへの感傷も
海にとっては きっと食べあきた
ありふれた 代り映えのない出来事

夕蝉や 夜風涼しさ含むころ 君の呼び鈴押しに行こうか 【短歌】

2023年08月15日 | 短歌

夕暮れに蝉が鳴いていました
風も昼間の暑さを無くして
少し涼しい風が吹いてきました

いつまでも続くような暑さも
だんだんと熱を失っていく
毎年の事なのですが
少し不思議に思えるくらいです

風は闇を含み
僕は人恋しさを覚えて
その人の家を訪ねて行こうかと思いました


毎日が冷麦異議の申し立て 【季語:冷麦】

2023年08月12日 | 俳句:夏 人事

暑い日が続くせいか
冷麦を食べる機会が増えています
僕も嫌いではないのですが
それが続きすぎると飽きます

家の者に何を食べたいか聞くと
二言目には冷麦というので
そのあまりのやる気のなさに腹を立て
違うものにしろと異議を申し立てました

作る気は満々なので
言ってくれれば良いのですが
それを考える気力もない様子

まあ確かに暑い時期
さっぱりとした物が
食べたくなりますし

ウナギなどと言われるとこちらの財布も持たないので
ある程度の冷麦続きは受け入れています


海 【詩】

2023年08月10日 | 
「海」

真珠色の陽射しを
波がゆっくりと舐めている
午後の穏やかな 食事時
波の一つ一つが
舌の上の余韻に うっとりとしている

そんなことには気がつかず
砂の城を 積み上げる少女たち
砂の城を 積み上げる少女たち
陽射しのドレスを着た ひととき

その大切な時を守ろうと
波は繰り返し打ち寄せては
永遠を歌う
眩し過ぎる波の群で

海はどうして 舌の上の大切な光を
小さな花束にかえ
この世に捧げて やまないのだろう
誰のための 飽きることない
波の繰り返し その営み

いつしか 気がついて欲しい
願いさえも おくびにも出さずに
遠くから見ている
まるで初恋の心のように
愛しい微笑みを 胸に
飽きることなく 反芻しながら

―いつか大切な人と
 初夏の波打ち際を歩いた
 白い潮風が吹いて
 もう聞こえてはこない
 言葉の端々には
 終わってしまったものの
 穏やかな 余韻が漂っている

―水平線から湧き上がる入道雲
 真っ白なワンピースの裾が揺れている
 あなたの砂地踏むサンダルも白だった
 穏やかな昼下がり そのときも
 波は心地よい光で
 僕らを祝福してくれていた

あなたといる景色は
大切な記憶の奥に はまり込んだ
淡い恋心のひとピース
いつの間にか そこからは
取り出せなくなって
ただ 遠くから
ときおり 眺めるだけの

海はきっと知っていて
心の頼りなさ
僕らに許されている時間の短さを
だから見かえりを 求めることもなく
光を捧げてやまないのだ

波に追いかけられて
忙しい横歩きの蟹の足
海の祝福を知らないのは
おまえだけではない と