言葉は病を連れて来て、しばしば人を惑わせる。
意思どおりでないことを口走るのも、度数が増えるにしたがって癖となり、やがて病にもなる。
口走り症は、症状が外に現れて見分けやすいから、ああまた出たかと思っていれば済むのだが、相手を友連れにする病もある。
正誤病がそれである。
正誤病は、質問という形になって発症するから、素直に相手をつとめていると同じ病に引き込まれる。
カウンセラーが神経症に侵されるのと似ている。
正誤病の人は、何か言葉を聞いたり読んだりすると、「この言葉は正しいですか」とすぐに質問する。
言葉には、適否、巧拙はあっても正誤のないのが日常茶飯なのだが、とにかく正誤を判定させたがる。
正誤を判定することにまったく意味のない場合でも、判定を迫る。
そして、自分では考えない。
そういう人には、訳知り顔に「それは正しいです」などと答えてはならないので、「正誤はありません」が正解なのだが、正しいですかと質問した人は、その正解をもらっても、さぞいらいらしていることだろうと想像がつく。
しかし、正誤病には「正誤はない」と答えない限り治ることはない。
誤って「ある」と思い込んでしまった人には「ない」という返事を繰り返すしかないのだから。