バネの風

千葉県野田市の「学習教室BANETバネ」の授業内容や、川上犬、ギャラリー輝の事、おもしろい日常を綴ります。

椅子とおじいさん

2008-07-25 08:20:55 | ライフスタイル
 若い女性カメラマンが、街を歩きながら日常の風景をバシャバシャ写真におさめ、その写真集が高い評価を得ているという。
 確かに,映像を切りとる視点は優れているかもしれないが、あんなに気楽に道行く人を撮り、公表してしまっていいの?と疑問に思う。被写体の許可を得ているのかもしれないけど,どうでしょう。その写真家が、90いくつになるおじいちゃんの写真集を発表するという。映像は撮る方,撮られる方に愛があって,古き良き日本の家族が表現されていそうで興味深いです。
 おじいさんの写真ということで思い出しました。
 スペインのアンダルシア地方のある田舎街に行ったときのこと。夕方、裏通りは人でざわざわしている。子供はケンケンパしていたり,大人は立ち話していて,祭りの日の夕方のようだけど、これが日常らしい。そして老人は決まって戸口前の木の椅子に座って通りを眺めている。動の中に静が点在している。子供たちに「日本人、日本人」と取り巻かれながら歩いていると,何とも味のある老人がいた。もう何十年も使っているかと思われるような3本足の古い椅子にじっと座り,通りを行く人を睨みつけている風体。白塗りの壁、石畳,古い木の椅子,そして老人が、まるで街の一つのオブジェのように、もうずっと前からそこにあるかのような風景。写真に収めようと思い,許可をもらうと「写真、だめ、だめ!」
 しばらく路地を奥へ行くと,先ほどの老人ほどの年季もすごみも感じられないけど,それなりに絵になる風景が。「写真いいですか?」とトライすると、いいよと愛想良く快諾。さらにカメラに向かってニッコリ。さすがにピースはしなかったけど。やっぱり最初のおじいさん捨てがたくて,引き返し人ごみの中からカメラに収める。
 隠し撮りした罪悪感が残る。帰国後写真現像すると、できあがったのは思い通りの写真ではなく、おじいさんの味は表現されていなかったから,がっかりでした。ニッコリおじいさんのほうが良く撮れていました。こっそり撮ったからだめだったのかな。なんともいえないあの情景,記憶に残すだけです。