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金曜日のヴェネツィア





金曜日の夕方。

アカデミア美術館前の船着場でボートを待っていたら、学校が終わったばかりらしい男の子らとその母親たちがやってきた。

最年少の5歳くらいの子がグズグズ泣くので、若く綺麗なお母さんに名前を何度も呼ばれていた。

「アルヴィーゼ」

お母さんにシャボン玉液を与えれれて機嫌を直したアルヴィーゼ坊やはシャボンを飛ばし始めた。他の子供達がそれを乱暴に追いかけた。

ドージェの肖像のように頬が削げた高齢の男性も、ベンチに腰掛け、杖をついた身体は全く動かさなかったが、微笑んでそれを見ていた。

さきほど遅いランチをとったレストランで見かけた丸い白髪頭の男性と美しいお嬢さんも偶然やって来た。お嬢さんが1番のボートに乗り込むと、彼は背中に声をかけたが彼女はこちらをふり返らなかった。しばらく水辺に佇んでから彼は背中を丸めて去って行った。


アルヴィーゼの飛ばす七色のシャボンがあちこちへ飛び、ヴェネツィアの時間を写しては消えるようだった。



(アルヴィーゼはヴェネツィアの男子名で、ルイの変形)
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