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『小さな旦那様、小さな奥様』




わたしがもし「この世で最も美しい人は誰だと思うか」と聞かれたら、即答で「マルタ・アルゲリッチ」と答えるだろう...

去年の夏、南スペインはグレナダのアルハンブラ宮殿内でラヴェルのピアノ協奏曲を演奏するというので、娘と飛んでいった。
12月にはパリでシューマンのピアノ協奏曲を聴くはずだったが、日本へ行くか、パリへ行くかと迷っていたところ、アルゲリッチ病欠との知らせが入り、快癒を祈った。

昨夜のベルリンはパリの予定と同プログラム。同郷のバレンボイムが指揮する。彼の引退コンサートの一環でもあった。

アルゲリッチの、神のような大胆さ。素晴らしいスタミナ。限りない新鮮さよ。(若いのがいいという意味ではない)常若。マンネリズムのカケラもない(と書くわたしの文章がマンネリ)。
彼女がスコアのあらゆる美点をひきだし、際立て、具体化し、驚異的なリズム感で楽しませつつ、他の楽器へ目配りをし、引き立てることを忘れない...のはいつもわたしが書くマンネリながら、シューマンのピアノ協奏曲のピアノがオーケストラの伴奏に回るところ、そのダイアローグがこれまたひっくり返るくらいすばらしかったです!!

「能力の高い人」の定義が、他の人の能力を最大限に引き出す能力のある人、であるとしたら、まさにその通りの大天才である。


アンコールでは、ビゼーの『子供の遊び』から『小さな旦那様、小さな奥様』Petit mari, petite femme! をバレンボイムがおどけて紹介し(「小さな旦那様」で自分を指差し、「小さな奥様」でアルゲリッチを指した)、アルゲリッチと連弾した。

その音色には会場中のカップルが手を握り合った。

森鴎外の『ぢいさんばあさん』のような美しさに胸をつかれた。

『小さな旦那様、小さな奥様』、『ぢいさんばあさん』...

第一コンサートマスター樫本大進さんも目を赤くして泣いておられました。それがまた感動的で泣かされた。


次は3月、ウィーンでリストのピアノ協奏曲を聴く。
指揮はバレンボイム。
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