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october 14th あるいは坂の上の異人館




神戸は山と海の間に広がる街で、歩いてみるとすぐに平坦なところはとても少ないことに気がつく。


先月、一時帰国で帰った故郷の神戸で、昼間まったく予定のない日があった。

たまたま、その日だけ、雨が降った。

10月14日。

いや、10月14日は実際10日ほど過ぎていたが、個人的な10月14日忌にするつもりでいた。




それ以前も遊学などで神戸を長期間留守にする時期はあったものの、今後はもしかしたら住むこともないのかもしれないという思いで離れて早24年、一時帰国するたびに必ず訪れる場所がある。

しかし、その場所に戻っても、わたしが見たいものはもうそこにはない。
建物や通りは今もそこにあるのだが、わたしが「見たいもの」はもう遠に時間のなかに消えてなくなってしまっているのである。それが分かっていても、行かないと気がすまない。




宿泊中のホテルのデスクで事務的な作業を片付け、傘を持って旧居留地を出た。

三宮の駅を北に過ぎる頃までは平坦だが、先はどんどんゆるい坂道になっていく。
小雨の中を山の方に向けて歩いていくと、ランチタイムが終わったばかりの時間なのに、すでに暖かい色のあかりが灯り始めていた。




神戸の異人館は、70年代にテレビドラマの舞台になったのがきっかけで、まだ海外旅行が90年代以降ほどは一般的でなかった時代、結構な人気観光スポットになった。

今ではテーマパーク化しすぎた弊害で、昔の趣はほとんどなくなってしまったが、神戸で生まれて育ったわたしにとってはなぜだかわからないが、今もやはりとても特別なエリアなのだ。

今、英国はイングランドで、自分の書斎から見る通り向かいの家々は、まさにこの「異人館」そのものであるのに。




コロナ禍のせいか、もうとうにその流行り盛りを過ぎてしまったからか、営業中の異人館は風見鶏の家と萌黄の家だけのようだった。

現在でも15件ほど公開されているらしいが。

当時足繁く通った「10月14日」と名前のついた坂の上の異人館(旧中国領事館)のティールームが好きで、せっせと坂を登り、お茶を飲みながら本を読んだのだった。
その頃の自分に話しかけたい。




海の方を不動坂の一番上からながめて飽きなかった。

小雨の中、この通りをうろうろしている観光客はわたしただ一人だった。


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