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英国と言えば...ロイヤルバレエ




コベントガーデンのロイヤルオペラハウスを牙城にする世界三大バレエ団のひとつ、ロイヤルバレエ。

英国へ転居することが決まったとき、夫がわたしの釣りえさにしたのが「ロイヤルバレエ見放題」「ナショナル・ギャラリー行き放題」の二点だった(対象が芸術でも「放題」をつけると途端に「ビール飲み放題」「パン食べ放題」のレベルになりますね...これ以上品を失わないよう気をつけます・笑)。

だからわたしにとって「英国転居と言えば...」ロイヤルバレエと言える...ような気がするのである。


このバレエ団の特徴のひとつはストーリーの語り口にあると思う。

どの国のどのカンパニーにも、劇場という「場」、文化、習慣、しがらみや惰性や力学や資金の有無やトップの才能や...から成る「○○節」「エクリチュール」というのがある。

ロイヤルバレエの場合、ストーリーの展開の仕方に明らかなカラーがあり、他にも特徴はあるだろうが、わたしはそれを特におもしろいと思う(他の切り口でロイヤルバレエを語れない、というのもあるけど)。


例えば大晦日に見た「くるみ割り人形」(A.コジョカルが出演し盛り上がった)。


クリスマス前夜。クララの家ではパーティーが開かれている。クララはゴッドファーザー(魔術師、時計技師、人形技師、あるいは単に名士)のドロッセルマイヤーからくるみ割り人形を贈られる。クララは一目でその人形が気に入る。パーティーが終了した夜中、クララはネズミ軍VSくるみ割り人形軍の戦いに巻き込まれるが、くるみ割り軍に力を貸し勝利に導く。結果呪いがとけ、くるみ割り人形は美しい青年(王子)の姿にもどる。彼はクララをお菓子の国への旅へ誘う。雪の精に送られ到着した城で、クララは世界のダンスを見ながら楽しい時を過ごす。


ロイヤルバレエでは、青年(王子)がくるみ割り人形に姿を変えられたのは、誰の呪いによってなのか、どんな理由でその悲劇が起こったのか、どうしたら呪いが解けるのか、最初にきっちり説明がされる。

ドロッセルマイヤーも謎に包まれた人物ではなく、最初にその立場と働きと目的をはっきりさせる。

主人公のクララの役割もまた明確である。
また、彼女の見る「夢」は、眠りにつく直前に彼女自身が経験した世界の完璧なうつし絵だ。夢の中で訪れる宮殿は、クリスマスケーキとして用意されていたケーキの意匠そのもの、という風に。
クララ自身がお菓子の国の女王になって踊るというまことに夢夢しいバージョンもあるが、ロイヤルバレエ世界ではすべて筋が通っていなければならないので、女王もクララとは別人なのである。


このようにロイヤルバレエの語りには、この世の動きには原因と結果があり人間にはそれが説明可能で、同時に夢と現実の経験は強いつながりを持っていて、夢にも現実と同じ整合性と意味があり、原因と結果という図式で説明できる...という考えが貫かれている。

おお、もしかしてこれがイギリス経験主義と言うものなのか?
ほら、to be is to be perceived (存在するものは感知されるものである)と言ったバークレイとか。
あるいはホッブズ的機械論とか。
全然違うかもしれないけど(笑)。


そういえば新プロダクションの「不思議の国のアリス」でも、彼女が夢の中で見るもの出合うものはすべて現実の世界にあったもののうつし絵だ。
白ウサギの正体は狂言回しとしてのルイスキャロルで、ハート女王の正体は神経症気味の母親...
(さりとて最近のわたしの一番の気に入りはこの「不思議の国のアリス」。DVDも出ているのでぜひぜひ)



ロイヤルバレエは、今後も曖昧な影の中でまどろんでいる妖精を光の中へ引きずり出し、謎を解読し、全部説明し尽くし、経験主義的芸術の高みへと上昇していくのだろう。

これがロイヤルバレエのエクリチュール...だから曖昧な話を語るロイヤルバレエは今だに見たことがないのである。たぶん今後もないだろう。

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