*文章は試乗当時のものです。
○居住性★★★
特徴的な、下部を大きくラウンドカットされたドアを開け、座席に着く。低い。さらにドアを閉めると、かなりタイトなコックピットであることが分かる。ただ、座面は低いが、フロントウインドーから見えるグラマラスなフロントフェンダーのおかげで、サイズの割には車両感覚は掴み易い。目の前にはタコメーターを中心に各種メーター類が並び、左手を置けば、自然にそこにはシフトレバーが。タイトだが、閉塞感はない。むしろ、”俺は今、スポーツカーに乗っているんだ”という満足感と、軽い高揚感が湧き上がる。インパネのデザインも、いかにもスポーツカーらしい、オリジナリティのあるデザイン。こういうところにも、マツダのスポーツカー作りのうまさを感じさせる。後部座席は、想像以上に狭い。座席というより、完全に小物置き場だ。普通のドライビングポジションを取ると、後部座席のレッグスペースはなくなるので、4人乗車しようと思ったら、前席もかなり座席を前に出す必要があるだろう。
○動力性能★★★★★
軽くレーシングすると、タコメーターの針は何の抵抗もなく上昇するが、回転落ちは鋭くはない。一速にいれて、アクセルオン。FCに比べ、格段に低速トルクが向上している!3000回転以下が続く街中のストップ&ゴーでも、普通のレシプロエンジンと全く同じで、なんの不満もない。私が以前所有していたRX-7(FC前期型)は、とにかく極低速トルクが不足しており、渋滞に巻き込まれた時の疲労度はかなりのものだった。とくに坂道での渋滞など、泣きたいほどトルク不足になやまされたが、FDではその懸念が払拭された。国道を軽く加速してみるが、あっという間に前の車に追いついてしまい、4000回転にも達しない。充分速いのだが、これではFDの真価は体感できない。渋滞を避けるため、路地を左折すると、30km以下のタイトコーナーでも、FDの重量バランスの良さを体感できる。FCの頃からあった、フロントミッドシップならではの車体の慣性を感じさせない、自分を中心にクルっと向きを変える感覚は健在だ。路地を抜けると、交差する国道に出る。空いている!ラッキー、とばかりに2速でフル加速!あっという間に吹けあがるエンジン!アイドリングから6000回転まで、まさに一瞬。これは、FCとは比較にならないほど強烈な加速性能だ。レーンチェンジも、コブシひとつハンドルを操作するだけで瞬時に向きをかえる。すべてがドライバーの意のままに、ダイレクトに呼応する!余計な遊びも、おせっかいなハイテクデバイスもない。ただ、ダイレクトに。まるで、脳や神経に直結されているがごとく、クルマは向きを変える。これこそ本物のスポーツカーだ!!もちろんブレーキも完璧で、100km以上に到達した車体をあっという間に減速させる。加速、減速、ハンドリング、その全てが楽しい!いつまでも運転していたい、そう思わせるクルマであった。
ついついひいき目で評価してしまったが、欠点がないわけではない。確かにFDのハンドリングは機敏だが、さすがに車重が1200kgを超えるだけあって、”軽快感”はあるが、”軽快”ではない。愛車プジョー205GTI(890kg)と比較すると、減速や車線変更では、どうしても重さを感じてしまう。また、エンジンレスポンスについても、プジョーが僅かなアシの親指の圧力にすら反応するのに対し、ロータリーユニットはダルで、微妙なアクセルコントロールを受け付けない。さらに、FDの真価を発揮させようと思っても公道ではまず無理。サーキットにでも持ち込まない限り、全開の走りを楽しむ、なんてことは不可能だろう。低速で走っている限り、RX-7はただの退屈な乗用車であり、日常的な使い方では、結構ストレスを感じてしまうかもしれない。
○結論★★★★
スポーツには色々な定義がある。そして、日本にも色々なスポーツカーが存在し、それぞれに違ったカタチでスポーツを詠う。しかし、RX-7に乗ってみれば、ほとんどのクルマが色あせてしまい、自らうたうスポーツの意味すら色あせてしまうだろう。意のままに操る。人馬一体。やはり、RX-7こそが国産唯一のスポーツカーだと個人的には思う。ああ、買ってしまいそうだ・・・
マツダRX‐7―ロータリーエンジンスポーツカーの開発物語 | |
小早川 隆治 | |
三樹書房 |