ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

バス高速輸送システム(BRT)で震災復興(地域復活)はどこまで可能か?

2012年02月08日 20時49分14秒 | 社会・経済

 今日の朝日新聞朝刊38面14版に「岩手のJR被災2路線 廃止し、バス専用道に 地元は反発」という記事が掲載されています。それほど大きな記事ではないのですが、震災からの復興を考えるには非常に重要な話であり、考えさせられます。新幹線の開業に伴う在来線の切り離しと同様に、否、それ以上に、地域の交通、ひいては社会全体に悪影響を及ぼしかねません。しかも、岩手県は両方の問題を抱え込むことになります。既に東北新幹線の開業により、盛岡~青森が東北本線でなくなり、2つの第三セクター鉄道になり、利便性が大きく失われたという問題があります(これはとくに青森県で深刻です)。その上に、三陸地方の公共交通網が破壊される危険性が高まった、とも言える話になったのです。

 今回、廃止の方針が出されたのはJR山田線の宮古~釜石と大船渡線の気仙沼~盛です。どちらも三陸の海岸付近を走っており、昨年の東日本大震災による津波の被害を受け、現在も運休が続いています。この他、気仙沼線などにも不通区間があるのですが、今回、山田線と大船渡線が廃止の対象として取り上げられたのは、おそらく、営業係数と被害の程度によるのでしょう。JR東日本は、鉄道の復旧にかなりの時間が必要となることを理由として、鉄道の復旧ではなく、BRT化を打ち出したということのようです。

 たしかに、東日本大震災では、地震に対する鉄道の弱さを改めて知らしめることとなりました。首都圏でも、一般の路線バスは夕方までに運行を再開していましたが、地下鉄は、一番早く運行を再開したところでも夜の8時半頃、私鉄が運行を再開したのは9時台から11時台にかけてです。しかし、JR東日本、東武など、早々運行中止を決めたところも少なくありません。JRは3月12日の午前中まで運休していました。当然、バスの出番となります。

 勿論、バスには渋滞という問題があります。私も、震災当日、国際興業バスと都営バスに乗って渋滞に巻き込まれました。しかし、全く動かないよりはマシです。

 東北地方でも事情は同じでしょう。しかも鉄道の利用率があまりよくないのです。山田線は盛岡~釜石の路線ですが、とくに盛岡~宮古の状況がよくありません。この区間を通しで運行するのは一日4往復しかなく、平時からバスに負けていました。大船渡線の状況はわかりませんが、おそらく営業係数は悪いでしょう。

 JRとしては、高い費用をかけて採算の合わない路線を復旧しても無駄である、と考えたのでしょう。一企業としては当然の判断である、ともいえます。

 しかし、山田線と大船渡線を廃止すれば、少なくとも三陸の鉄道網はズタズタになります。まず、三陸鉄道に大きな打撃となる可能性が高くなります。現在、三陸鉄道の北リアス線の一部(小本~陸中野田)と南リアス線の全部(盛~釜石)が不通となっていますが、北リアス線と南リアス線は山田線を介してつながっています。実際に、南リアス線から山田線を経由して北リアス線に直通するという運行も行われていました。南リアス線の復旧は非常に難しいとも言われていますが、三陸鉄道が南リアス線を復旧させたとしても(同鉄道は復旧に強い意欲を示しています)、山田線が廃止されていたのでは北リアス線への直通運転が不可能となってしまいます。また、大船渡線も廃止されてしまうとなれば、南リアス線に連絡するのは釜石線だけとなります。かなり厳しい状況になることは明らかです。

 北リアス線も同様です。宮古では山田線の盛岡~宮古と接続する訳ですが、前述のように山田線の盛岡~宮古が非常に利便性の悪い区間であるだけに、同線の宮古~釜石が廃止されると鉄道でのアクセスが非常に難しくなります。北リアス線は久慈で八戸線と接続していますが、これは青森県側です。従って、盛岡市や花巻市から行きにくくなり、三陸鉄道が実質的に孤立状態に追い込まれることになりかねません。

 三陸鉄道の経営状態が良ければ、大船渡線の気仙沼~盛と山田線の釜石~宮古を三陸鉄道に移管し、完全に一本化するということも可能でしょう。しかし、これも非現実的です。

 また、私は、大船渡線の気仙沼~盛と山田線の釜石~宮古の廃止が他にも影響を与えるのではないかと考えています。山田線の盛岡~宮古も、廃止などの可能性を持っていますし、震災前から岩泉線は不通のままで、JR東日本が復旧させるつもりなのかそうでないのかわかりません。気仙沼線にも不通区間がありますし、震災の被害を受けなかったような路線でも、BRT化が検討されるのではないかと考えるのです。

 しかし、BRT化が最善なのかというと、疑問も湧いてきます。

 まず、今月に入ってからの大雪などでわかりますが、バスなどの自動車は雪に弱いという事実があります。昔から言われていることです。勿論、装備や整備の状況にもよりますから一概には言えませんが、赤字の鉄道路線でも冬季の代替道路の未整備などを理由として存続しているところもあるくらいです。

 次に渋滞です。現在はえちぜん鉄道となっている京福電鉄勝山線などが廃止された後、通勤通学の時間帯に大渋滞が発生し、生徒の学校生活などが滅茶苦茶になったという事実があります。また、のと鉄道の能登線が廃止された後も同様の状況になっています。バスでは大量輸送ができないからです。1台の路線バスが運べる人数は知れています。鉄道であれば、2両以上連結して100人でも200人でも運ぶことができます。それに、混雑による遅延はあっても渋滞はありませんから、到着までに全く時間が読めないということもありません。

 そして、鉄道の廃止が公共交通機関網の全滅につながる可能性が高いということです。 鉄道が廃止されると、その地域の過疎化などは一気に加速化されるという話を聞いたことがあります。実際、そのような例が見受けられます。

 1980年代、赤字国鉄ローカル線が次々に廃止されましたが、バス化されたところでは代替バスの廃止が相次いでいるようです。代替バスの利用客が鉄道時代よりも減少してしまし、採算に合わなくなったためです。1990年代に廃止されたローカル私鉄などでも同じようなことが起きています。自家用車の利便性が高いためです。公共交通機関網が衰退し、さらに消滅してしまうことが考えられるのです。

 今後、岩手県の三陸地域で、どのような動きがあるのかが注目されますが、BRT化してよいのかどうか、考え直すことはできないのでしょうか。

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