ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

地方公共団体の議員のなり手を増やすため(?)

2022年12月10日 13時00分00秒 | 国際・政治

 先月(2022年11月)、神奈川県大井町の町議会議員補欠選挙において、立候補者がゼロであったため、無投票になったという事件がありました。実質的には選挙が行われなかったこととなります。

 最近、選挙を行うとしても候補者がいないという状況がよく見受けられます。2017年には高知県大川村で、議員のなり手がいないということで、議会を廃止し、地方自治法第94条に定められる町村議会を設置しようという動きがあり、総務省も「町村総会のあり方に関する研究会」を設置したことがありました。この研究会が「議員のなり手不足の要因」としてあげているものは、次の通りです(「町村議会のあり方に関する研究会報告書の概要」から引用しておきます)。

 ・議会は「広範な事項を議決対象としており、専門性がより強く求められるとともに拘束時間が長くなっている」。

 ・「各市町村において定数削減を進めてきた結果、元々議員定数が少ない小規模市町村ほど議員の負担感が増加している。(1町村当たりの議員定数:15.25人(平成11年)→11.45人(平成27年))」

 ・「小規模市町村においては、時間的拘束が大きい一方、議員報酬だけでは生計を立てていけない状況にある」。2016年4月1日における平均議員報酬月額は、都道府県が812,781円、政令指定都市が792,325円、政令指定都市を除く市が405,743円、特別区が608,387円、町村が213,153円となっています。

 ・「小規模市町村においては、人口が少なく、事業所も限られていることから、兼職禁止及び請負禁止の実態的影響が大きい」。

 最後に上げた兼職禁止および請負禁止が、実は今回の主題です。どちらも地方自治法に定められておりますので、規定を紹介しておきましょう。 

 第92条第1項:「普通地方公共団体の議会の議員は、衆議院議員又は参議院議員と兼ねることができない。」

 第92条第2項:「普通地方公共団体の議会の議員は、地方公共団体の議会の議員並びに常勤の職員及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第28条の5第1項に規定する短時間勤務の職を占める職員(以下「短時間勤務職員」という。)と兼ねることができない。」

 第92条の2:「普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。」

 小規模市町村の議員報酬月額が少ないのであれば、引き上げればよいというようにも考えられますが、実際のところは無理、とまでは言えなくとも非常に難しいでしょう。また、議会を開く時間帯を変えればよいとも考えられますし、外国では夕方以降に議会を開いているところもあると聞いたことがあるのですが、やはり、日本の場合は難しいでしょう。

 そこで、地方自治法を改正し、兼業禁止および請負禁止を緩和しようと、第210回国会において衆議院議員提出法律案第17号の「地方自治法の一部を改正する法律案」が審査・審議されました。この法律案が12月9日の参議院総務委員会において可決されました。朝日新聞2022年12月10日付朝刊4面13版Sに「地方議員なり手増へ 兼業規制緩和 地方自治法改正へ」という記事が掲載されており、法律案の内容が紹介されています。

 衆議院のサイトに、この法律案の全文が掲載されています。ここで紹介させていただきます(原文の漢数字を算用数字に改めた箇所があります)。

 

 地方自治法(昭和22年法律第67号)の一部を次のように改正する。

 第92条の2中「請負をする者」を「請負(業として行う工事の完成若しくは作業その他の役務の給付又は物件の納入その他の取引で当該普通地方公共団体が対価の支払をすべきものをいう。以下この条、第142条、第180条の5第6項及び第252条の28第3項第10号において同じ。)をする者(各会計年度において支払を受ける当該請負の対価の総額が普通地方公共団体の議会の適正な運営の確保のための環境の整備を図る観点から政令で定める額を超えない者を除く。)」に改める。

 第101条に次の一項を加える。

  前項の規定による招集の告示をした後に当該招集に係る開会の日に会議を開くことが災害その他やむを得ない事由により困難であると認めるときは、当該告示をした者は、当該招集に係る開会の日の変更をすることができる。この場合においては、変更後の開会の日及び変更の理由を告示しなければならない。

   附則

 (施行期日)

 第1条 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第101条の改正規定及び附則第6条の規定は、公布の日から施行する。

 (経過措置)

 第2条 この法律の施行前にこの法律による改正前の地方自治法第92条の2(同法第287条の2第7項、第292条及び第296条第3項において準用する場合を含む。)に規定する請負をする者及びその支配人に該当した者については、なお従前の例による。

 (市町村の合併の特例に関する法律の一部改正)

 第3条 市町村の合併の特例に関する法律(平成16年法律第59号)の一部を次のように改正する。

  第36条第7項中「構成員」と」の下に「、「議会の適正な」とあるのは「合併特例区協議会の適正な」と」を加える。

 (所得税法等の一部を改正する法律の一部改正)

 第4条 所得税法等の一部を改正する法律(令和4年法律第4号)の一部を次のように改正する。

  附則第86条中地方自治法第252条の28第3項第10号を同項第12号とする改正規定の前に次のように加える。

   第92条の2中「第252条の28第3項第10号」を「第252条の28第3項第12号」に改める。

 (政令への委任)

 第5条 この附則に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。

 (政府の措置等)

 第6条 政府は、事業主に対し、地方公共団体の議会の議員の選挙においてその雇用する労働者が容易に立候補をすることができるよう、地方公共団体の議会の議員の選挙における立候補に伴う休暇等に関する事項を就業規則に定めることその他の自主的な取組を促すものとする。

 2 地方公共団体の議会の議員の選挙における労働者の立候補に伴う休暇等に関する法制度については、事業主の負担に配慮しつつ、かつ、他の公職の選挙における労働者の立候補に伴う休暇等に関する制度の在り方についての検討の状況も踏まえ、この法律による改正後の規定の施行の状況、前項の自主的な取組の状況等を勘案して、引き続き検討が加えられるものとする。

   理由

 地方公共団体の議会の議員に係る請負に関する規制における請負の定義の明確化及び議員個人による請負に関する規制の緩和をするほか、災害等の場合の地方公共団体の議会の開会の日の変更に関する規定を整備する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

 

 このような法律案の提出者は、衆議院のサイトによれば浮島智子議員(公明党)となっていますが、上記朝日新聞記事によると「超党派の議員立法」ということでした。衆議院が議案として受理したのが12月6日、委員会での審査が省略された上で12月8日に衆議院本会議において可決されています。賛成会派は自由民主党、立憲民主党・無所属、日本維新の会、公明党、国民民主党・無所属クラブおよび有志の会であり、反対会派は日本共産党のみです。そして、今日、つまり2022年12月10日(会期末となっています)に参議院本会議で成立の見通しであるということです。

 改正が実現するならば、第92条の2は次のような規定となります。

 「普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負(業として行う工事の完成若しくは作業その他の役務の給付又は物件の納入その他の取引で当該普通地方公共団体が対価の支払をすべきものをいう。以下この条、第142条、第180条の5第6項及び第252条の28第3項第10号において同じ。)をする者(各会計年度において支払を受ける当該請負の対価の総額が普通地方公共団体の議会の適正な運営の確保のための環境の整備を図る観点から政令で定める額を超えない者を除く。)及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。」

 つまり、地方公共団体に対して請負をする法人などの無限責任社員や取締役などとの兼職は引き続き禁止されるものの、個人事業主との兼職は可能であるということです。もとより、ただ個人事業主であればよいという訳ではなく、「各会計年度において支払を受ける当該請負の対価の総額が普通地方公共団体の議会の適正な運営の確保のための環境の整備を図る観点から政令で定める額を超えない」ことが条件となっています。法律案では明示されていませんが、上記朝日新聞記事によると「取引額の上限は、個人事業主の年間平均売上高の2割程度にあたる300万円を想定している」とのことです。

 兼業禁止の緩和は、全国都道府県議会議長会などが求めていたことで、小規模市町村では産業構造などから考えると個人事業主が議員との兼業をしやすいという事情があるのでしょう。ただ、取引額の上限が妥当であるか、疑問が残るところではあります(資料がないので分析などはできませんが)。上記朝日新聞記事にも書かれていますが、「兼業しやすい自営業者」が「自治体と何らかの取引があるケースが多い」からです。

 また、上記朝日新聞記事では「改正法案では、勤め人が議員になりやすくするため、政府が企業や団体に立候補休暇や副業規定の整備を促すことを求めることも付則に盛り込んだ」と書かれているのみですが、附則第6条こそが実は重要なのではないかと考えられます。開会の時間帯もそうですし、現在であればZoom、Webex、Google Meetなどを利用したオンライン議会も可能なはずです。こうした点は、政府に丸投げするのではなく、国会こそが或る程度の提案をすべきでしょう。まして、今回の法律案は衆議院議員提出法律案なのですから。


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1 コメント

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この法律案も可決されました (川崎高津公法研究所長)
2022-12-14 01:16:12
2022年12月10日、地方自治法の一部を改正する法律案が参議院本会議において可決され、法律として成立しました。
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