昨日、朝日新聞のサイトに、最高裁判所が近々判決を出すということで2件のニュースが掲載されました。私としては、今日の朝刊38面14版に掲載された「外れ馬券は経費 確定ヘ 大量購入なら 最高裁、判断の見通し」(電子版はhttp://digital.asahi.com/articles/DA3S11609070.html)も非常に気になるのですが、今回は1面14版トップ記事「夫婦別姓 女性の再婚禁止期間 最高裁、初の憲法判断へ 民法規定めぐる2訴訟」〔電子版は5時30分付の「最高裁、初の憲法判断へ 夫婦別姓・女性の再婚禁止期間 民法規定めぐる2訴訟」(http://digital.asahi.com/articles/DA3S11609084.html)〕に示された内容について取り上げることとしましょう。
まずは、問題となっている民法の規定を示しておきます。
(再婚禁止期間)
第733条 女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2 女が前婚の解消又は取消しの前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。
(夫婦の氏)
第750条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
実は、今日の朝日新聞朝刊1面14版トップ記事には不正確なところがあり、女性の再婚禁止期間を定めた民法第733条については、既に最高裁判所が判断を示しています。平成7年12月5日に最高裁判所第三小法廷が下した判決で、最高裁判所判例集民事177号243頁、裁判所時報1160号2頁、判例時報1563号81頁、判例タイムズ906号180頁に掲載されています。この判決においては、次のように述べられています。
「国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではなく、国会ないし国会議員の立法行為(立法の不作為を含む。)は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというように、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の適用上、違法の評価を受けるものでないことは、当裁判所の判例とするところである」。
「上告人らは、再婚禁止期間について男女間に差異を設ける民法七三三条が憲法一四条一項の一義的な文言に違反すると主張するが、合理的な根拠に基づいて各人の法的取扱いに区別を設けることは憲法一四条一項に違反するものではなく、民法七三三条の元来の立法趣旨が、父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解される以上、国会が民法七三三条を改廃しないことが直ちに前示の例外的な場合に当たると解する余地のないことが明らかである。したがって、同条についての国会議員の立法行為は、国家賠償法一条一項の適用上、違法の評価を受けるものではないというべきである。」
正面から民法第733条が合憲であるとも違憲であるとも述べていない、とも読み取りうるかもしれませんが、ここは憲法第14条の趣旨、民法第733条の趣旨を並べた上で、民法第733条は憲法第14条に違反しない旨を明らかにしたと理解すべきでしょう。ただ、直接的には国家賠償法第1条第1項の適用の有無が争われた訴訟であることには、注意しなければなりません。民法第733条が憲法に違反するか否かと、国家賠償請求が認められるか否かとは、別個の問題であるためです。
以上の判決が出されてから19年と2か月ほどが経過し、平成27年2月18日、つまり昨日、最高裁判所は民法第733条が争点となっている訴訟を大法廷で審理することを決定しました。こうなると、初めての判断、というよりは先の最高裁判所第三小法廷平成7年12月5日判決を(部分的ではあれ)変更する旨の判断が示されるかもしれません。
現在行われている訴訟については、平成24年10月18日に岡山地方裁判所が民法第733条を合憲とする判決を出しています(判例時報2181号124頁、訟務月報59巻10号2707頁に掲載されています)。地裁判決に対して原告が控訴しましたが、平成25年4月に広島高等裁判所岡山支部は控訴を棄却する判決を下しています。
実は、民法第733条について、法制審議会は平成8年に女性の再婚期間を6カ月から100日に短縮すべしとする改正案を答申しています。学説は分かれますが、再婚禁止期間は100日で足りるという見解が有力に唱えられています(多数説、と言えるかどうかまではわかりません)。今、私の手元に長谷部恭男『憲法』〔第6版〕(2014年、新世社)があり、その172頁には「学説上は、民法733条の立法目的に合理性があるとしても、父性の推定の重複を避けるためには、再婚禁止期間は100日で足りるはずであり(民法772条2項)、再婚禁止期間の制限は内縁を増加させ、合法的な再婚を妨げる点で規制内容が過度に広汎であるとの違憲論が有力である」と書かれています。参考までに記しておけば、民法第772条第2項は「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と定めています。
次に、民法第750条です。この規定について最高裁判所はまだ判断を示していません。
今回の訴訟は、5人の原告が、民法第750条は憲法第13条および第24条により保障される権利を侵害し、女子差別撤廃条約第16条第1項に違反することが明白であるのに、国会は民法第750条を改正しなかったとして、国家賠償法第1条第1項に基づき「慰謝料」を請求した、というものです。東京地方裁判所は平成25年5月29日に原告らの請求を棄却しました(判例時報2196号67頁、判例タイムズ1393号81頁に掲載されています)。ここで、判決の一部を抜粋の上で引用しておきましょう。
「国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって、国会議員の立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである」。
「憲法13条は、個人としての尊重と共に、個人の生命、自由及び幸福追求の権利を定めており、憲法上明示的に列挙されていない利益を新しい人権として保障する根拠となる一般的包括的権利を規定するものといえる。
また,氏名は,社会的にみれば,個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが,同時に,その個人からみれば,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成するものというべきであり,氏名を他人に冒用されない権利・利益があり,正確に呼称される利益があるといえる」(最二小判平成18年1月20日民集60巻1号137頁を参照)が、「人格権の一内容を構成する氏名について、憲法上の保障が及ぶべき範囲が明白であることを基礎づける事実は見当たらず、婚姻に際し、婚姻当事者の双方が婚姻前の氏を称することができる権利が憲法13条で保障されている権利に含まれることが明白であるということはできない。」
「夫婦同氏について検討の余地があることは昭和29年以降認識されており、選択的夫婦別氏制度の導入について積極的な意見も多く述べられてきたということができ、平成4年頃には、婚姻に際し、婚姻当事者の一方が改氏を迫られることについて、人格権の侵害であるとの意見も存在したことが認められるが、そのことから、婚姻に際し、婚姻当事者の双方が婚姻前の氏を称することができる権利が憲法上保障されているといえるものではない。」
「憲法24条は、婚姻が、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として維持されること、婚姻に関する事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないことを定めているが、その趣旨は、民主主義の基本原理である個人の尊厳と両性の本質的平等の原則を婚姻および家族の関係について定めたものであり、両性は本質的に平等であるから、夫と妻との間に、夫たり妻たるの故をもって権利の享有に不平等な扱いをすることを禁じたもので」あり(最大判昭和36年民集15巻8号2047頁)、「憲法13条における個人の尊重と憲法14条における平等原則とを家族生活の諸関係に及ぼすものであって,家族に関する諸事項について憲法14条の平等原則が浸透していなければならないことを立法上の指針として示したものとみることができるから,憲法24条が,具体的な立法を待つことなく,個々の国民に対し,婚姻に際して婚姻当事者の双方が婚姻前の氏を称することができる権利を保障したものということはできない。」
原告らは控訴しましたが、東京高等裁判所は平成26年3月28日に控訴を棄却しています。そこで原告らが上告した訳ですが、最高裁判所が大法廷で審理するということは、単に最高裁判所が民法第750条について初めて判断する、ということに留まらないのではないかと思われるのです。
上記朝日新聞記事でも指摘されていますが、平成25年9月4日、最高裁判所大法廷は民法第900条第4号ただし書きが憲法第14条に違反するとする決定を下しています(これを受けて、既に民法第900条第4号ただし書きは削除されています。もっとも、これに代わる形で、配偶者の相続分を厚くする旨の改正案が出される可能性もあります)。
先に記した平成8年の法制審議会改正案は、民法第750条についても選択的夫婦別姓制度の導入を求めています。しかし、これはなかなか難しい問題で、2012年に内閣府が行った世論調査でも、同条については改正不要論と改正賛成論(記事によれば「改めてもかまわない」となっています)がせめぎあっているような状態です。選択制でもよいのではないかとは思うのですが、子の姓をどうするか、などの問題があります。
いずれにせよ、民法第733条および第750条が最高裁判所大法廷における審理の対象となります。第733条については、これまでの判例を改めるのではないかと予想されるのですが、いかがでしょうか。
(2015年2月20日追記)
この記事の冒頭で「朝日新聞のサイトに、最高裁判所が近々判決を出すということで2件のニュースが掲載されました」と記しましたが、不正確でした。外れ馬券のほうについては、確かに最高裁判所が近々判決を出すという趣旨でした(3月10日に判決を出すようです)。これに対し、民法については、事件が大法廷に回されたというだけのことで、近いうちに判決が出るという趣旨は記事にも書かれていません。
失礼をいたしました。
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