ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

北大阪急行電鉄南北線の延伸は必要か(2)

2015年02月13日 00時00分48秒 | 社会・経済

 「(1)」では財政運営基本条例の制定と財源についてまで記しました。この条例は箕面市のサイトで見ることができます

 この条例は、最初のほうだけ読めばごく一般的とも言える規定を盛り込んでいます。例として「第一章 総則」の諸規定を引用しておきます。

(目的)

第一条 この条例は、市が社会経済情勢の変化や市の実情に応じた必要な施策を自主的かつ総合的に実施するため、市の財政運営に関し、基本となる事項を定めることにより、健全で規律ある財政運営の確保を図り、もって市民の福祉の維持向上に資することを目的とする。

(基本理念)

第二条 市の財政運営は、将来の世代に負担を先送りしないことを基本として、市民の受益と負担との均衡を図り、財政リスク(市の財政運営に著しい影響を及ぼす危険又はその危険を有する事象をいう。以下同じ。)を管理するとともに、市と大阪府、国、他の地方公共団体その他の公共的団体又は民間事業者とが分担すべき役割を明確にすることにより、規律を持って行われなければならない。

2 市の財政運営は、中長期的な見通しを持つとともに、予見し難い情勢の変化の際に市民生活の安定を確保することができるよう、計画的に行われなければならない。

3 市の財政運営は、市民の市政への関心及び理解を深め、その信頼を向上させることを基本として、透明性を確保して行われなければならない。

 以下、「第二章 規律の確保(第三条ー第十二条)」、「第三章 計画性の確保(第十三条―第十七条)」、「第四章 透明性の確保(第十八条・第十九条)」と続きます。ここまでは、他の地方自治体でも見られる同種の条例とあまり変わりません。

 ところが、第20条から第23条までの規定が含まれる「第五章 特定事業の財政運営」が「財政運営基本条例」の名称に相応しくない内容なのです。表現を変えるならば「基本条例」の枠からはみ出ている、または枠に入りきれない中身となっています。再び引用しておきましょう。

 「(財政上の配慮を要する事業)

第二十条 住民の福祉の増進に資する大規模な公共施設又は社会基盤施設の整備等であって、複数年にわたり財政上の配慮を要すると認められるもののうち次に掲げる事業(以下「特定事業」という。)は、本章の規定により実施するものとする。

 一 北大阪急行南北線延伸特定事業(北大阪急行南北線を千里中央駅から萱野地区まで延長し、萱野地区及び船場地区に駅を新設する事業をいう。以下同じ。)

(特定事業の収支計画の公表)

第二十一条 市長は、特定事業の実施に当たっては、あらかじめ財政運営に与える影響額を試算し、毎年度、当該特定事業の実施期間における年度に係る 収支計画を策定し、これらを公表しなければならない。

(特定事業の議会への報告)

第二十二条 市長は、毎年度、特定事業の実施期間における年度に係る決算に当たり、当該特定事業の進捗状況、前年度に実施した事業内容及び財政運営に与える影響額を議会に報告しなければならない。

(北大阪急行南北線延伸特定事業の財源の確保)

第二十三条 北大阪急行南北線延伸特定事業に係る費用(当該特定事業の実施に伴い発行した市債の償還のための費用を含む。)は、予算の定めるところにより、国又は大阪府の補助金等のほか、第一号に掲げる財源をもって賄い、なお不足するときは第二号に掲げる財源をもって賄うものとする。

 一 競艇事業繰入金(箕面市競艇事業の収入から同事業の円滑な運営に必要な範囲の経費を差し引いた上で一般会計に繰り入れるその余の資金をいう。以下同じ。)

 二 箕面市北大阪急行南北線延伸整備基金の積立金

2 市は、毎年度繰り入れられる競艇事業繰入金が北大阪急行南北線延伸特定事業に係るその年度の資金必要額を上回るときは、その余剰を箕面市北大阪急行南北線延伸整備基金に積み立てるものとする。

3 市は、第一項の規定による財源が北大阪急行南北線延伸特定事業に係る資金必要額に満たないときは、箕面市都市施設整備基金の積立金を充てることができる。この場合において、当該基金から使用した積立金は、当該特定事業の終了後速やかに競艇事業繰入金から補塡するものとする。

 読み進めると違和感を覚えますが、この第五章の存在により、財政運営基本条例が北大阪急行南北線の延伸事業を推進するための法的道具として制定されたことを、改めて意識させるものとなっています。第20条は拡張性のある内容となっていますが、柱書きにいう「複数年にわたり財政上の配慮を要すると認められるもののうち次に掲げる事業」すなわち「特定事業」の中身として、現在のところ第1号しかあげられていない点も特異です。通常、このような規定の場合は最低でも第2号まで並べるものです。

 同条は、第一章から第四章までに示された諸原則に対する例外を含むものであり、拡張性があることにより、例外を拡大する余地が含まれています。その意味において、財政運営基本条例には矛盾を引き起こしかねない要素が最初から入り込んでおり、問題なしとはしません。

 他方、特定事業が1つしかないのであれば、本来のところ別に条例などを制定すべきところです。そうすることなく、北大阪急行電鉄南北線延伸事業を財政運営基本条例に盛り込んだところに、箕面市の強い意向が示されている、と理解することもできます。附則を読み進めると、次のようになっています。

 「(施行期日)

1 この条例は、公布の日から施行する。ただし、附則第六項の規定は、北大阪急行南北線延伸特定事業に係る財源が確保されたとき(当該特定事業に係る費用の支出が市債の償還のみになり、かつ、箕面市北大阪急行南北線延伸整備基金の積立金がその後の当該特定事業に要する費用の全額を上回ったときをいう。)で規則で定める日から施行する。

(「財政事情」の作成及び公表に関する条例の廃止)

2 「財政事情」の作成及び公表に関する条例(昭和二十三年箕面市条例第十八号)は、廃止する。

(経過措置)

3 この条例の規定は、平成二十六年度以後の財政運営について適用する。

(箕面市交通施設整備基金条例の一部改正)

4 箕面市交通施設整備基金条例(平成四年箕面市条例第十四号)の一部を次のように改正する。

 題名を次のように改める。  

  箕面市北大阪急行南北線延伸整備基金条例

 第一条中「交通施設の」を「北大阪急行南北線の延伸及び関連交通施設の」に、「箕面市交通施設整備基金」を「箕面市北大阪急行南北線延伸整備基金」に改める。

第六条を次のように改める。

 (処分)

 第六条 基金は、第一条の設置の目的を達成するために必要な財源に充てる場合に限り、処分することができる。

(みんなの箕面の緑の寄附条例の一部改正)

5 みんなの箕面の緑の寄附条例(平成二十一年箕面市条例第一号)の一部を次のように改正する。

 第二条第四号中「北大阪鉄道延伸」を「北大阪急行南北線の延伸」に改める。

第四条第一項第四号を次のように改める。

  四 箕面市北大阪急行南北線延伸整備基金

(箕面市財政運営基本条例の一部改正)

6 箕面市財政運営基本条例(平成二十六年箕面市条例第  号)の一部を次のように改正する。

 第二十条第一号を次のように改める。

  一 削除

 第二十三条を次のように改める。 

  第二十三条 削除

 附則第6項の引用文において条例の番号の箇所が空白になっているのは、箕面市のサイトで公表されている文の通りに引用したためです。また「北大阪鉄道」なる言葉も登場しますが、これが北大阪急行電鉄南北線を意味することは明白です(何故に「北大阪鉄道」とされていたのか、詳細はわかりません)。

 さて、他の市町村とは全く異なる理由から財政運営基本条例を制定した箕面市ですが、果たして、第23条に定められるように事業を進められるのでしょうか。第1項によれば、事業の財源は、国や大阪府からの補助金等を別とすれば競艇事業繰入金が筆頭としてあげられています。同事業が黒字であれば、収益を一般会計に繰り入れる訳ですが、この通りに進むのでしょうか。

 昨今、公営競技の不調が度々伝えられます。私が大分大学に勤務していた時期(2001年)に中津競馬場(大分県中津市)が廃止されましたし、2010年に花月園競輪場(横浜市鶴見区)が、2011年に荒尾競馬場(熊本県荒尾市)が廃止されています(場外馬券売り場などは存続)。競艇場については廃止の話を聞かないのですが、運営状況がよいという訳でもないようです。

 近畿地方には、びわこ競艇場(滋賀県大津市)、住之江競艇場(大阪市住之江区)、尼崎競艇場(兵庫県尼崎市)および三国競艇場(福井県坂井市。北陸地方ですが、全国競艇場HPでは近畿地方として紹介されています)の4つがありますが、びわこ競艇場について、京都新聞社が今年の1月24日9時42分付で「競艇びわこボート、5年で3億の財源確保へ 滋賀県が計画素案」(http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20150124000042)として報じており、入場者数は減少の一途をたどっているようです。この記事によると、滋賀県が「発売日数の拡大や運営の効率化で、県一般会計の財源となる繰り出し金を来年度から5年間で3億円とする目標を立てた」という内容の中期経営計画の素案をまとめました。また、京都新聞の上記記事は、「びわこボートの売上額はピークの1990年度に518億円あり、一般会計へ47億円を繰り出したが、2013年度の売上額は286億円で、繰り出しは6千万円だった」と報じています。現在のところは競艇事業の収益から一般会計への繰り入れが続いていますが、額は大幅に減少しています。競艇事業そのものの合理化などの必要性は脇に置くとして、今後も一定額以上の繰り入れ額を確保できるのでしょうか。

 もっとも、大阪には住之江競艇場があり、日本全国の競艇場では売上高第1位で、収益状況も(現在のところは)よいのかもしれません。今回、この記事を作成するにあたって初めて知ったのですが、箕面市は住之江競艇場の競技主催者であり、ボートピア梅田の運営者でもあるとのことです。同競艇場の競技主催者としては、他に大阪府都市競艇組合が存在しますが、これは16市(堺市、吹田市、豊中市、池田市など)が構成する一部事務組合です(箕面市は単独で主催している訳です)。

 第23条第2項および第3項の規定は、少なくとも現在の段階においては住之江競艇場からの収益の状況が良いということを意味するものと思われます。そうでなければ、「競艇事業繰入金」の余剰を「箕面市北大阪急行南北線延伸整備基金に積み立てる」ことを想定できませんし、「箕面市都市施設整備基金の積立金を充て」た場合には「当該特定事業の終了後􏰂やかに競艇事業繰入金から補塡するものとする」ことを定めるはずがないからです。

 次の問題は、これだけの財源を確保し、事業に充てるとして、市にとって、市民にとって必要であるのか、また採算は合うのか、ということです。環境問題なども忘れてはなりません。これらについては、次の「(3)」において述べるつもりですが、ここで少しだけ記しておきましょう。

 地図を見る限り、確かに箕面市にとって北大阪急行電鉄南北線の延伸は望まれるところでしょう。同市には阪急箕面線(1910年、箕面有馬電気軌道により開業)が通っておりますが、市内にある桜井駅、牧落駅および箕面駅は市の西側にあり、国道423号線(新御堂筋)からは離れています。北大阪急行電鉄南北線は新御堂筋に沿う形で伸びていますので、箕面船場駅予定地、新箕面駅予定地も新御堂筋沿いにあることとなります。延伸が実現すれば、この地域から新大阪、梅田、心斎橋、難波、天王寺といった所まで乗り換えなしで行けることになりますし、千里中央で大阪モノレールに乗り換えることによって大阪空港にも行けますから、それなりに発展の可能性はあるでしょう(阪急箕面線では、せいぜいラッシュ時に梅田まで乗り換えなしで行ける程度です)。

 他方、阪急(グループ)にとっても、かつての千里山線延伸計画が形を変えて復活したようなものであるかもしれません。1961年、阪急は千里山線の千里山駅から箕面線の桜井駅までの事業免許を取得します。1963年には千里山駅から南千里駅までが開業し、1967年には南千里駅から北千里駅までが開業し、路線名も千里線と改められました。結局はこれでおしまいとなり、1970年代に延伸計画は破棄されてしまいましたが、北千里駅は延伸を予定していたことがわかるような構造になっており、計画があったことを現在に伝えています。もう少し北に足を伸ばせば箕面市の今宮、西宿といった所に着きますし、西国街道という通称のある国道171号線に出られます。

 地理的な観点を踏まえれば、北大阪急行電鉄南北線を箕面市に延伸してもそれなりの乗客数を見込め、採算も合いそうです。しかし、郊外、ニュータウン地域の常として、自家用車が普及しているのではないでしょうか。箕面市は道路渋滞を延伸希望の理由の一つとしてあげていますが、自家用車から電車にどの程度までシフトするのはわかりません。他に人口の増減など、考慮すべき点は多いはずです。また、近畿地方に限らず、鉄道新線を開業させても当初の甘い予測のために乗客数が見込みの半分以下などと少なく、莫大な赤字額を積む路線が少なくありません。箕面市の事業計画はどのような予測の下に立てられているのかが問われるでしょう。

 個人の遺産でも同じことが言えますが、資産が常にプラスであるとは限りません。むしろ、巨大なマイナスとして、国民・住民にとっての厄介な重荷になる可能性もあるのです。実際にたくさんの例があるので、ここで列挙したりする必要はないでしょう。建設のみならず、維持にも費用がかかるという当然のことを踏まえなければ、ただの無駄になりかねません。強靱化は脆弱化をも意味しかねないのです。 


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