「この時期に新税を導入かい?」という声も聞こえてきそうですが、部分的には空き家対策とも重なる政策であるようで、土地政策の一環とも言えそうです。京都新聞社が「大都市初、京都市が『別荘税』導入へ 子育て世代が市外流出」として報じています(https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/525974)。
別荘などに課される税といえば、日本では唯一、静岡県の熱海市が別荘等所有税として課税していることが知られています。別荘等所有税は地方税法に定められた税目ではなく、地方税法により新設が認められる法定外普通税の一種です(都道府県については同法第259条以下、市町村については同法第669条以下を参照してください)。最近では東京都、京都市などが導入している宿泊税が法定外普通税の典型例ですが、京都市は、まさに法定外普通税として「別荘税」(正式の名称かどうかわかりませんので、以下「 」を付けます)を新設しようとしている訳です。京都市が方針を固めたのは今月9日までのことであるということです。
この記事を書いている私自身には無縁ですが、京都市には非居住住宅が少なくないそうです。例えば、川崎市に住んでいる私が京都市内に分譲マンションの一室か一戸建ての空き家を所有している、というようなことです(また記しますが、実際には所有していません。無縁の話です)。このような住宅について固定資産税を課することはできますが、京都市民税のうち、所得割を課すことはできません。一方、均等割を課すことはできますが(その意味で上記京都新聞社記事の表現は不十分です)、京都市内に住所がないということで一年に数千円(標準税率で都道府県が1,000円、市町村が3,000円)ですから、京都市としては税収が不十分であるということになるでしょう。
京都市が「別荘税」を課す方針を立てたのは、コロナ渦に見舞われて観光客が激減した現在では遠い昔のようにも思えてくるかもしれませんが、京都市内のマンションなどが首都圏や海外の富裕層によって購入され、マンションの価格が急騰したことによるようです。首都圏のタワーマンションなどと同様に、投資の対象として購入されている物件も少なくないでしょう。こうなると、1980年代のバブル経済期と同じような話で、京都市に子育て世代が住むことは難しくなるでしょう。実際に、こうした世代が京都市から流出しているようです。また、現在の京都市長は非居住住宅所有者に対して何らかの負担を求める旨を公約に掲げていたとのことです。
2020年8月、京都市長は有識者で構成される委員会に諮問しており、この委員会による答申の案が最近まとめられました。今後、私も調査してみたいと思っていますが、とりあえずは上記京都新聞社記事によることとしましょう。この記事によると、次のようなものとなりそうです。
納税義務者:非居住住宅の所有者。ここで非居住住宅とは「富裕層が資産として保有したり、週末などに滞在したりする別荘や、生活せずに管理するだけの空き家」を意味します。
対象地域:市街化区域。およそ17,000戸になると想定されているようです。
課税を免除する物件:「賃貸や売却予定、事業での使用のほか、市条例に基づき保全対象となる京町家など」。
税額:三つの案があります。①別荘などの「資産価値を表す額」(固定資産税などで用いられる評価額のことでしょうか)に一定の税率をかける。②「家屋の固定資産評価額を階層に分けての累進制」。タワーマンションについて採用されている固定資産評価額の計算方法にならうということでしょうか。③「家屋の床面積1平方メートル当たりに一定額」。この部分はあまり詳しく書かれていませんので、どういうイメージなのかは不明ですが、熱海市の別荘等所有税と同様のものとして設計することになるのでしょう。
「別荘税」は或る種の富裕税とも言えますし、設計の仕方次第では税負担の公平性に資するものです。税収目的が第一ではないという税目になりそうですが、それも一つの在り方です。どのような制度が設計されるのか、注目しておきましょう。
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ここで、熱海市が実施している別荘等所有税について記しておきます。
まず、熱海市別荘等所有税条例第2条は「納税義務者等」として、次のように定めています。
第1項:「別荘等所有税は、次の各号に掲げる家屋又はその部分(以下「別荘等」という。)に対し、その所有者に課する。
(1) 通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋又はその部分で、主として保養の用に供する目的で所有するもの
(2) 他の者(自己と生計を一にする親族を除く。)に対して主としてその者の保養の用に供するため貸し付ける目的で所有する家屋又はその部分
(3) 寮、宿泊所、保養所その他これらに類する施設(旅館業法(昭和23年法律第138号)第2条第1項に規定する旅館業の用に供するもの又は従業員の居住の用に供するものを除く。)の用に供する家屋又はその部分」
第2項:「前項の所有者とは、登記簿又は法第341条第13号に規定する家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)第2条第2項の区分所有者とする。以下同じ。)として登記又は登録されている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録されている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている次条の者が同日前に所有者でなくなっているときは、同日において当該別荘等を現に所有している者をいうものとする。」
なお、所有者であるか否かを判断する基準は毎年1月1日です(同条例第8条)。同日に課税対象となる物件を所有している者は、その後に所有者でなくなったとしても納税義務を負います。
次に、同条例第4条は「課税標準」として、次のように定めています。
「別荘等所有税の課税標準は、別荘等の延べ面積(当該別荘等の各階の床面積の合計面積をいう。以下同じ。)とする。ただし、区分所有に係る別荘等で建物の区分所有等に関する法律第2条第4項に規定する共用部分を有するものにあっては、当該区分所有に係る別荘等に係る同条第3項に規定する専有部分の延べ面積と、当該共用部分の延べ面積を同法第14条第1項に規定する割合によって、あん分した面積との合計面積とする。」
この規定のただし書きは、分譲マンションのような区分所有財産については共用部分の床面積も課税の対象になるということを示しています(按分の上で)。
そして、同条例第5条によると、税率は1平方メートルあたり650円です。
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