ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

小湊鉄道線の行く末は

2023年12月02日 00時00分00秒 | 社会・経済

 私は神奈川県川崎市の出身です。そのためであるかどうかはわかりませんが、千葉県の鉄道を利用する機会があまりなく、房総半島を通る鉄道ではJR東日本の外房線の千葉駅から茂原駅までの区間しか利用したことがありません。

 ただ、関心がない訳ではなく、今回取り上げる小湊鉄道線を利用してみたいと思ったことは何度もあります。市原市にあるJR内房線の五井駅に行けばよいのです。

 この五井駅から房総半島の内陸部を走り、いすみ鉄道との接続駅で大多喜町にある上総中野駅までの非電化単線路線が小湊鉄道線です。終点の上総中野駅を除く全ての駅が市原市にあるので、市原市の住民の足となっているはずですが、実際には利用客が少なく、そのためもあって末端の養老渓谷駅から上総中野駅までの区間は平日でも7往復、休日は6往復しかありません。ここから推察できるように、小湊鉄道線は赤字に苦しんでいます。上総中野駅で接続するいすみ鉄道いすみ線も、かつては国鉄木原線でしたが第一次特定地方交通線として廃止の対象になり、第三セクターであるいすみ鉄道に引き継がれたという歴史があります(余談ですが、関東地方の国鉄線で第一次特定地方交通線に指定されたのは木原線のみです。また、木原線は1968年の赤字83線にも含まれていました)。さらに、房総半島と言えば木更津駅から上総亀山駅までの久留里線があり、この路線も久留里駅から上総亀山駅までの区間の平均通過人員が極端に低く、存廃論議が行われています。

 久留里線の影に隠れてしまっていますが、小湊鉄道線も存続か廃止かという問題の渦中にいます。朝日新聞社が2023年11月30日の11時0分付で「小湊鉄道、支援要望のさなかの大雨被災 運行を継続できるかの岐路に」(https://digital.asahi.com/articles/ASRCT6TZJRCNUDCB00G.html)として報じており、色々と考えさせられました。

 2023年9月8日、台風13号による大雨が房総半島を襲いました。小湊鉄道線も、月崎駅から上総中野駅までの区間が不通となりました。11月23日に仮復旧を終えて、全線で運行再開とはなりましたが、小湊鉄道による「お知らせ」によれば完全復旧とは言えません。次のように書かれているからです。

 11月23日から26日まで、および12月の土休日:五井駅から上総中野駅までの全線で運行される。

 11月27日から12月8日までの平日:五井駅から養老渓谷駅までは列車が運行されるが、養老渓谷駅から上総中野駅までは代行バスが運行される。

 12月11日から12月26日までの平日:五井駅から月崎駅までは列車が運行されるが、月崎駅から上総中野駅までは代行バスが運行される。

 小湊鉄道のホームページには被害状況を示す写真も掲載されています。土砂の流入で線路が埋まってしまう、あるいは法面が崩れる、というような被害を目にすることができます。相当な手間と費用がかかるだろうと思われますが、上記朝日新聞社記事には「土砂の撤去や枕木交換といった復旧にかかる費用の総額は当初、4千万円程度と見込まれていた。だが、人件費や物価高の影響で1億円近くに膨らみそうだという」、「平日の全線運行が実現するのは来年3月ごろになる予定だ」と書かれています。

 しかも、小湊鉄道線は度々被災しています。上記朝日新聞社記事にあげられているのは直近とも言える2019年10月の台風15号、2021年7月の集中豪雨で「それぞれ全線再開まで3カ月以上かかった」のですが、それだけではありません。2006年、2013年、2015年にも被災し、一部の区間が運行不能となりました。

 今年の被災に関して、千葉県が小湊鉄道を支援することになりそうです。千葉県は、12月定例議会に補正予算を提出しており、その中に小湊鉄道の復旧費用920万円が計上されています。920万円とは随分少ないと思われるかもしれません。これは、上の引用にあるように「復旧にかかる費用の総額は、当初、4千万円程度と見込まれていた」ことにより、市原市と大多喜町も復旧費用を賄うこととなっているようです。千葉県、市原市および大多喜町の支出を合計すると復旧費用の半分程度になるとか。

 小湊鉄道は第三セクターではなく、京成グループの民間企業です。上記朝日新聞社記事にある千葉県交通計画課のコメント(「沿線の足や観光資源として営業されていることも考慮し、特例的に補助することにした」)を読み、千葉県の内部では支援について議論があったかもしれないと考えました。

 ただ、国の補助は受けられません。小湊鉄道は、社名こそ鉄道会社ですが実際はバス事業のほうがメインとなっており(少なからぬ地方鉄道の実態とも言えます。大手私鉄であれば西鉄が好例です)、鉄道事業が赤字であっても他の事業が黒字であれば、事業者の決算は黒字になる可能性があります。そうなると、国からの補助を受けられない場合があるのです。

 鉄道軌道整備法第3条は、次のように定めています(原文には振り仮名がありますが、省略します)。

 第1項:「この法律の規定に基く助成の対象とする鉄道は、第一号若しくは第三号に該当するものとして国土交通大臣の認定を受けたもの、第二号に該当するもので当該改良計画につき国土交通大臣の承認を受けたもの又は第四号に該当するものとする。

 一 天然資源の開発その他産業の振興上特に重要な新線

 二 産業の維持振興上特に重要な鉄道であつて、運輸の確保又は災害の防止のため大規模な改良を必要とするもの

 三 設備の維持が困難なため老朽化した鉄道であつて、その運輸が継続されなければ国民生活に著しい障害を生ずる虞のあるもの

 四 洪水、地震その他の異常な天然現象により大規模の災害を受けた鉄道であつて、すみやかに災害復旧事業を施行してその運輸を確保しなければ国民生活に著しい障害を生ずる虞のあるもの」

 第2項:「前項の規定により承認を受けた改良計画を変更しようとするときは、国土交通大臣の承認を受けなければならない。」

 おそらく、第1項第4号に該当するものと思われます。

 次に、鉄道軌道整備法第8条は、次のように定めています。

 第1項:「政府は、第三条第一項第一号に該当するものとして同条の規定により認定を受けた鉄道の運輸が開始されたときは、当該鉄道事業者に対し、毎年、予算の範囲内で、当該鉄道の事業用固定資産の価額の六分に相当する金額を限度として補助することができる。」

 第2項:「政府は、第三条の規定により改良計画の承認を受けた鉄道の当該改良が完了したときは、当該鉄道事業者に対し、毎年、予算の範囲内で、当該改良によつて増加した事業用固定資産の価額の六分に相当する金額を限度として補助することができる。」

 第3項:「政府は、第三条第一項第三号に該当するものとして同条の規定により認定を受けた鉄道につき適切な経営努力がなされたにかかわらず欠損を生じたときは、当該鉄道事業者に対し、毎年、予算の範囲内で、当該鉄道事業の欠損金の額に相当する金額を限度として補助することができる。

 第4項:「政府は、第三条第一項第四号に該当する鉄道の鉄道事業者がその資力のみによつては当該災害復旧事業を施行することが著しく困難であると認めるときは、予算の範囲内で、当該災害復旧事業に要する費用の一部を補助することができる。」

 第5項:「政府は、前項に定めるもののほか、第三条第一項第四号に該当する鉄道に係る災害復旧事業が、次の各号のいずれにも該当するときは、予算の範囲内で、当該災害復旧事業に要する費用の一部を補助することができる。

 一 激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(昭和三十七年法律第百五十号)第二条第一項に規定する激甚災害その他これに準ずる特に大規模の災害として国土交通省令で定めるものに係るものであること。

 二 当該災害復旧事業の施行が、民生の安定上必要であること。

 三 当該災害復旧事業に要する費用の額が、当該災害復旧事業に係る災害を受けた日の属する事業年度(次号において「基準事業年度」という。)の前事業年度末から遡り一年間における当該鉄道の運輸収入に政令で定める数を乗じて得た額以上であること。

 四 基準事業年度の前事業年度末から遡り三年間(基準事業年度の前事業年度末において当該鉄道がその運輸開始後三年を経過していない場合にあつては、当該運輸開始後基準事業年度の前事業年度末までの期間)における各年度に欠損を生じている鉄道に係るものであること。」

 第6項:「前二条の規定は、前二項の規定により補助を受けた鉄道事業者(当該補助に係る災害復旧事業を完了した者及び第十四条の規定により当該補助金の全部を返還した者を除く。)について、準用する。」

 第7項:「災害復旧事業の範囲、補助率その他の第四項及び第五項の規定による補助に関し必要な事項は、政令で定める。」

 第8項:「政府は、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法(平成十四年法律第百八十号)の定めるところにより、第一項から第五項までの規定による補助金の交付を独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構を通じて行うことができる。」

 第9項:「前項の規定により同項に規定する補助金の交付が独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構を通じて行われる場合には、次条及び第十条中『国土交通大臣』とあるのは、『独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構を通じて国土交通大臣』とする。」

 小湊鉄道が第5項第4号に該当するのであれば、国からの補助が得られるでしょう。たしかに、鉄道事業は赤字が続いており、2021年度における営業損失は9000万円を超えました。しかし、前述のように、小湊鉄道のメインはバス事業です。鉄道事業の売上高はバス事業の1割程度しかないことからも、会社の主力がバスに置かれていることは明らかです。

 また、小湊鉄道線の沿線人口は減少しています。上記朝日新聞社記事によれば「1995年に5万8千人いた沿線人口は、2022年には約7割に縮小。同年の輸送密度(1キロあたりの1日平均利用者数)は、五井―上総牛久では95年の3割まで減って1563人。今回被災した養老渓谷―上総中野では、半分以下の61人だ」とのことですから、通勤通学客が増える見込みはないということになります。また、房総半島でもモータリゼイションが進んでおり、小湊鉄道線以外の鉄道路線においても乗客は減少していますから、小湊鉄道線だけの問題ではなく、千葉県全体の公共交通機関の問題と捉えるべきでしょう。

 ここまでは、今年9月の台風13号による被災からの復旧の話でした。しかし、ここで話は終わりません。

 上記朝日新聞社記事によると、小湊鉄道は今年の4月に、市原市に対して財政支援を求める要望書を提出していました。今後10年間で約60億円が必要であるという内容が書かれていたとのことです。線路や車両の維持や修繕に60億円で足りるのかどうか、疑問もあるのですが、最低限ということでしょうか。小湊鉄道線を走る気動車はキハ200形とキハ40系で、キハ200形は1961年から1977年までの間に製造されており、キハ40系は元国鉄の気動車で1977年から1982年までの間に製造されたものです。キハ200形の最も古いものであれば60年を超えており、最も新しいものでも46年となっています。キハ40系も40年を超えています。老朽化は避けられないだけに、車両の置き換えをどう進めるかが課題でしょう。

 また、現在においては驚きに値することですが、小湊鉄道線ではワンマン運転が行われていません。キハ200形の改造に費用がかかるからでしょうか。他に理由があるのかもしれません。

 小湊鉄道からの要望書には、上総牛久駅から上総中野駅までの区間については廃線を含めて検討が必要であるとも書かれていたようです。時刻表を見ると、五井駅から上総牛久駅までの区間については運行本数が多いので、需要はそこそこあるのでしょう。

 今後の動向に注意が必要ですが、実態を見に行く必要があるかもしれません。


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