ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

JR東日本が改めて岩泉線の廃止を提案した

2013年09月10日 23時36分57秒 | 社会・経済

 気づいたのが先程のことなのですが、9月6日付で、朝日新聞社が「JR、『廃線』再提案 岩泉線復旧問題」(http://digital.asahi.com/area/iwate/articles/MTW1309060300002.html)として、読売新聞社が「岩泉線『廃線変わらず』 JR」(http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/iwate/news/20130905-OYT8T01569.htm)として報じています。どちらも岩手版の記事です(記事としては読売のほうが詳しいので、御参照ください)。

 また、岩手新報社が今日付で「県が押角峠の改良検討 岩泉線と並行の国道340号」(http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20130910_3)として報じています。

 このブログで岩泉線の話題を取り上げるのは二度めです。前回は2012年3月30日付で「やはり、岩泉線は廃止か」として掲載しました。そこでも述べたのですが、この路線は1980年代に第二次特定地方交通線に指定され、廃止されるはずでした。この時点でも輸送密度(1日1キロメートルあたりの平均通過量)が667人でしたが、年々悪化しており、2009年度の輸送密度は29人でした。また、上の朝日の記事によると、2009年度、1日に1キロあたりの平均乗客数―JRでは平均通過人員数と表現しています―は46人しかいなかったとのことです。これは前回にも記したように、JRの路線で最悪の数字です。JR東日本で2番目に低い只見線でも338人ですし、おそらくJRグループでは岩泉線の次に低いと思われる三江線でも83人となっています。

 このような岩泉線が残ってきたのは、途中にある押角峠のためです。この辺りに足を運んだことが一度もないのでよくわからないところもありますが、様々な文献などを読んでいると、同線とほぼ並行するような形で伸びる国道340号線に問題があるようです。押角峠付近では俗に言う酷道で、狭隘にして急カーブに急勾配が続きます。峠には雄鹿戸(おしかど)トンネルがあるものの、狭隘であることに変わりがないというのです。しかも冬には積雪があります。自動車、とくにバスを走らせるには悪条件ばかりが重なっているような道路であると言えるでしょう。

 このことは、鉄道路線にとっても厳しい地形であることを意味します。そのために、2010年7月末日に発生した土砂崩れのために不通となり、原因調査検討委員会により、岩盤崩落の危険箇所が23、落成崩壊の危険箇所が88と指摘されたのです。輸送密度、平均輸送人員を見ても、沿線の人口は少なく、過疎地であることが推測できます。

 もっとも、道路事情が悪いだけに、通学路線の需要としてはそれなりにあるものと考えられます。現在、代替バスが走っていますが、やはり、鉄道に比べて長い乗車時間を必要とするようで、通学のために利用する児童・生徒にとっては不便であるはずです。鉄道と同じであると思っていては学校の始業時刻に間に合わないということになりかねません。代替バスの多くが抱える問題が、岩泉線沿線にも生じた訳です。

 JR東日本は、5日、岩手県、宮古市、岩泉町に対し、改めて岩泉線を廃線にする旨を伝えています。宮古市と岩泉町は不快感を示したとのことですが、代替バスの内容などについての協議には応ずるとしています。実際問題として、鉄道の廃止とは関係なく、バスについては協議しなければならないでしょう。

 また、自治体が不快感をJR東日本に示すのは、気持ちとしては理解できるものの、いささか筋違いであるようにも思えます。詳しいことは別の機会に記しますが、JR東日本は赤字企業でないため、公費(とくに国費)による復旧を望めません(国も消極的です)。大船渡線および気仙沼線がBRTで仮の復旧となったのも、費用の問題があったからです。しかし、JR東日本が黒字であっても(その理由の如何はここで問いません)、個々の路線には赤字のものもある訳で、株式会社としては赤字にして年々乗客が減少する路線の復旧には慎重たらざるをえません。さもなければ、株主から責任を追及されかねません(他にJR各社に特有の事情もあることでしょう)。

 さて、読売の記事によれば、JR東日本は、昨年の時点で同社の責任で代替バスを運行するという提案を行っていたのですが、今回、さらに幾つかの方針が入れられました。記事の表現を借りるならば「鉄道施設・用地の両市町への無償譲渡」、「代替バスの運行区間は現行の茂市―岩泉駅間が基本」、「バス運行は地元バス事業者で行う」、などです。もっとも、施設や用地を無償で譲渡されたとしても、岩手県、宮古市、岩泉町が有効に活用できるのかどうか、疑問が湧きます。JR東日本も、実に111箇所で落石、崩落などの危険があると認めているのです。

 事実上、岩泉線は、鉄道路線としての復旧が極めて困難であり、また、費用対効果という観点だけからすれば無駄としか言えない状態です。道路事情が良好であれば、1980年代、あるいはそれより早い時点の「赤字83線」の一つとして、廃止されていた可能性が高いでしょう。押角峠が岩泉線の延命に貢献したとも言えそうです。これまで、国道340号線が改良されてこなかったのは、ひとえに財政事情でした。しかし、岩泉線の廃止が打ち出された以上は、道路を放置しておく訳にもいきません。そこで、岩手県は押角峠の道路改良を検討することとしました(岩手新報社の記事によります)。もっとも、県は道路の改良と岩泉線とは切り離して考える旨を表明しています。どの程度の費用がかかるのかはわかりませんが、岩手県は東日本大震災でも多大な被害を蒙っただけに、そう簡単に話が進むとも思えないのです。

 代替バスにしても、多数の課題が浮かび上がります。運行本数、運賃、運行区間、バス停の数や位置、運行経路、などです。とくに運賃が大きな問題でしょう。一概には言えませんが、鉄道路線の廃止に伴う代替バスには、鉄道時代以上に利用客を減らし、結局廃止される、という例が多いのです。下手をすると公共交通機関空白地帯が広がりかねません。それだけに、地域社会の課題として取り組まなければならなくなります。


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