ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

弘南鉄道の大鰐線が廃止されるか

2013年06月30日 15時08分08秒 | 社会・経済

 今日知ったのですが、一昨日(6月28日)付で東奥日報が、昨日(6月29日)付で朝日新聞(青森版)および読売新聞(青森版)が、弘南鉄道大鰐線について報じていました。

 東奥日報:「弘南鉄道社長『大鰐線を廃止』」(http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2013/20130628084515.asp?fsn=eb33f76037153e93cde084f7e7644d6f

 朝日新聞(青森版):「赤字の大鰐線16年度で廃止へ 青森、弘南鉄道方針」(http://digital.asahi.com/area/aomori/articles/TKY201306280517.html

 読売新聞(青森版):「大鰐線廃止を検討 17年3月末めど」(http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/aomori/news/20130628-OYT8T01604.htm

 弘南鉄道、大鰐線のどちらもご存じないという方も多数おられるでしょうから(そもそも、私は青森県に足を伸ばしたことがありません)、ここで説明をさせていただきます。

 まず、弘南鉄道は青森県の平川市に本社を置き、弘前市を中心として弘南線と大鰐線の2路線を経営する会社です。また、1984年には国鉄から黒石線を譲り受けていますが、1998年に廃止しました。現存の路線は東急から購入した中古車(初代6000系と初代7000系)で運用されており、日本で数少ない、冷房車が1両もない路線です(他に、札幌市交通局の地下鉄路線にも冷房車がありません)。

 2路線は弘前市を起点とするにもかかわらず、接続していません。弘南線はJR奥羽本線の弘前駅から黒石駅まで、大鰐線はJR奥羽本線の大鰐温泉駅に隣接する大鰐駅から中央弘前駅までの路線ですが、中央弘前駅から弘前駅までは1キロメートル以上離れています。

 同じ会社の路線なのに弘前市内で接続していないのも不便なはずですが、これは歴史的経緯によるものです。弘南鉄道は、本来、弘南線のみを運営する会社です。大鰐線は弘前電気鉄道という会社が戦後の1952年に開業させた路線でした。弘前市の周辺の交通事情が関係していたとも言われます。ただ、既に大鰐から弘前まで奥羽本線が通っているにもかかわらず、並行するような形で新たな路線を開業させる意味がどの程度あったのでしょうか。疑問とせざるをえないのですが、JR奥羽本線が非電化路線であったという事情もあるのでしょう。また、同じような路線が他県でも計画されていました。それにしても、首都圏や京阪神地区ならば話は別として、既存の国鉄路線と競合するような鉄道路線を中小私鉄が運営するという話については、おそらく当時でも議論があったはずです。

 弘前電気鉄道が大鰐線を実際に開業してみると、やはり経営は苦しかったようです。奥羽本線が通っていたことの他に、戦前から成長していたバスとの競合が大きかったようです(ディーゼルエンジンの発達がバスの発展に貢献しています)。しかも、そのバスは弘南鉄道の子会社である弘南バスが運営するものでした。さらに、弘前電気鉄道の経営に参加していた三菱電機が撤退しました。そのため、1960年代には苦境に陥り、廃止が議論されるまでになったようです。

 結局、弘前電気鉄道は解散し、路線を弘南鉄道に譲渡することとなりました。これが1970年のことです。弘南鉄道大鰐線となってからの1974年度に利用者数は389万7816人に達しました。これがピークで、その後は一貫して減少し、2012年度の利用者数は57万5759人でした。2004年から2012年までの間に累積した赤字はおよそ2億3000万円に達しています。読売新聞(青森版)の記事によると、2012年度、弘南線は黒字でしたがその額は240万円ほど、大鰐線は赤字でその額が1050万円ほどであり、弘南線の黒字も減少する方向にあるとみられています。

 大鰐線の沿線には学校が多いようで、路線図を見ても(中央弘前側から)弘高下、弘前学院大前、聖愛中高前、義塾高校前という駅名が見えます。全長14キロメートル足らずの路線にしては、学校に因んで名付けられた駅が多い訳ですが、実際に沿線には学校が多く(中央弘前駅も弘前大学医学部の最寄り駅となっているようです)、通学客が多いであろうと思われます。但し、全国的な傾向で通学客の世代の人口が減っていることにも注意を要します。

 大鰐線と言えば、かつて(1970年代)、弘南線と比べてもすさまじいほどに老朽化した電車が走っていたことでも知られています。弘南線でも中古車が使われていましたが、その中古車が大鰐線に移る訳ですから、大げさに記せば骨董品級の電車が多かったのです。あまりに差が激しいことから、東急から購入された初代6000系と初代7000系はまず大鰐線に配属され、その後に初代7000系が弘南線に配置されたということです。

 利用したことがなく、弘前市を歩いたこともないほどですので、沿線がどのような場所なのかわかりませんが、減便改正、ボーナスカットなどで延命を図ってきただけに、これ以上の合理化は不可能であるという判断がなされたのでしょう。しかし、大鰐線廃止の方針は、6月27日開催の株主総会における議題にあげられておらず、社長が冒頭の挨拶で述べたことでした。これは、読売新聞の報道でも述べられているように、会社として正式に決定した方針ではなく、社長の個人的な見解、または会社の検討事項というレベルでしょう。しかし、それだけに、利用者、沿線の自治体からは強い反発が出ることも予想されます。真に個人的な見解とも考えにくいからであり(そうであったとしたら、それはそれで大問題です)、以前から何度となく社内で、たとえ非公式であるとしても検討なり議論なりがなされてきたと考えるほうが自然です。

 また、社長の挨拶によるならば営業最終日が2017年3月中に設定されているとしても、今後の動向によっては廃止日が早まる可能性があります。要はいつ、国土交通大臣に大鰐線廃止が届け出られるか、ということです。鉄道事業法第28条の2は、「事業の廃止」という見出しの下、次のように定めています。

 第1項:「鉄道事業者は、鉄道事業の全部又は一部を廃止しようとするとき(当該廃止が貨物運送に係るものである場合を除く。)は、廃止の日の一年前までに、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。」

 第2項:「国土交通大臣は、鉄道事業者が前項の届出に係る廃止を行つた場合における公衆の利便の確保に関し、国土交通省令で定めるところにより、関係地方公共団体及び利害関係人の意見を聴取するものとする。」

 第3項:「国土交通大臣は、前項の規定による意見聴取の結果、第一項の届出に係る廃止の日より前に当該廃止を行つたとしても公衆の利便を阻害するおそれがないと認めるときは、その旨を当該鉄道事業者に通知するものとする。」

 第4項:「鉄道事業者は、前項の通知を受けたときは、第一項の届出に係る廃止の日を繰り上げることができる。」

 第5項:「鉄道事業者は、前項の規定により廃止の日を繰り上げるときは、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。」

 第6項:「鉄道事業者は、鉄道事業の全部又は一部を廃止しようとするとき(当該廃止が貨物運送に係るものである場合に限る。)は、廃止の日の六月前(利用者の利便を阻害しないと認められる国土交通省令で定める場合にあつては、廃止の日の三月前)までに、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。」

 以上のように、第2項によって関係地方公共団体や利害関係人から意見を聴取しなければならないとされているものの、基本的には鉄道事業者の届出により、1年後を目途として廃止することができます。許可制などではないので、大臣の審査は、届出書の不備や形式的要件への不適合という部分を除き、不要ということになります(行政手続法第37条も参照)。しかも、有田鉄道の鉄道路線などに例がみられるように、第3項~第5項の適用も考えられます。

 沿線の自治体は、大鰐線の廃止を前提として今後の交通などに関して検討を行い始める必要性がある、と言えます。勿論、存続を求めることでしょうが、受け皿となるべき譲渡先が民間企業にあるとも考えにくいため、廃止後を検討するほうが現実的であり、賢明です。


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5 コメント

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利用客の減少。 (ピカチュウの休日倶楽部)
2013-07-06 23:06:05
また、地方ローカル線が消えてゆく。

本当に鐵道ブーム?。

と言いたくなります。
返信する
 当ブログの席亭より、御来場に感謝申し上げます。 (川崎高津公法研究室長)
2013-07-08 01:40:53
 今、鉄道ブームなのかどうか、私にはよくわからないのですが、昨年、書泉グランデが大改装して、鉄道関係のコーナーを大幅に拡張したりしていることから、ブームとはいえるのかもしれません(もっとも、法律学などの専門書がほとんど置かれなくなったらしいので、利用しなくなりました)。
 全国的に乗客数が減少の一途をたどり、また、ローカル線の廃止の勢いも止まりそうにありません。だからこそのブームなのかもしれませんね。
返信する
 3日前の記事に気づきました。7月23日付で、読... (川崎高津公法研究室長)
2013-07-26 09:02:22
 ただ、この記事を読んでも、本当に大鰐線廃止の方針が撤回された訳でもないようです。弘南鉄道の社長が述べたところによると、1年間で57万人の乗降客があることを条件としています。これを上回ればよいのですが、下回れば廃止ということになります。今後、沿線の弘前市や大鰐町などの支援などがあるのかもしれません。事実、協議会が近々設けられるようです。
 それでも、弘南鉄道の社長は財政支援を受けないとも言っています。弘前市などがどのような方策を出すのかが注目されますが、下手な財政支援では乗降客数の上昇に何らの効果もなく、それどころか地方自治体の財政を悪化させるだけに終わってしまいます。
 これで気になるのが、神戸電鉄粟生線の件です。民主党政権時代に行われた事業仕分け(これ自体がどの程度の意味を持っていたのか、よくわかりませんが)により、「地域公共交通活性化・再生総合事業」が廃止されてしまいました。ちょうど、粟生線の存廃問題が注目を浴び、地元でも議論されていた最中のことです。自民党・公明党政権に戻ってから、この事業が復活するのかどうか不明ですが(復活しないのでしょう)、どちらにしても国からの支援などは期待できないというところです。
 〔余談ですが、上記の事業が廃止されたことと、民主党政権時代に交通基本法案が国会に提出されたこととは、少なくとも部分的に矛盾します。詳細は上記事業の内容と交通基本法案との比較検討に委ねられますが、民主党が公共交通機関に対していかなる政策で臨もうとしたのかが問われるところでしょう。税制などでも不透明な部分が目立ちました。〕
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かつては準大手だった神鉄の亜幹線である粟生線の... (白蛾)
2013-08-03 22:47:02
いずれにせよ、利用者の利益が移動手段のためだけにに換算されるという乱暴な数字マジックに惑わされないようにしてほしいものです。
三重では不通になっている名松線の復旧工事がはじまりました。赤字必至といわれながらの鉄路への執念です。
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 神戸電鉄粟生線の存廃問題は、交通分野に関する... (川崎高津公法研究室長)
2013-08-04 12:57:25
 阪急の財務体質については、よく聞かれるところです。副業はともあれ、本業はやはり相当に悪化しているのでしょうか。
 京阪神圏の求心力の低下や、JR西日本の大健闘などの影響により、阪急、阪神、山陽、南海などでは乗客が減少していると聞いています。JR福知山線の悲劇は、阪急宝塚線の乗客の減少ないし地位の低下を裏付けてもいました。阪神の場合はなんば線が開業したことによる持ち直しがあったかもしれませんが、関西の大手私鉄で唯一、大阪市中央区を通る路線がない阪急には、そのような機会がなかったのかもしれません。
 また、阪急というと、たしか北神急行電鉄の親会社でもあります(現在は阪神阪急ホールディングスが親会社ということになるでしょう)。私は一度も利用したことがないのでよくわからないのですが、累積赤字額が莫大であるようで、筆頭株主の阪急から何百億円かの融資を受けているということです。このことが神戸電鉄にも何らかの影響を及ぼしていると考えられます。
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