ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

どういう議員辞職勧告か? 滅茶苦茶としか言い様がない

2020年10月21日 20時00分00秒 | 国際・政治

 10月21日17時30分付で朝日新聞社のサイトに「1年生市議に異例の辞職勧告『住民訴訟を起こしたから』」という記事が掲載されました(https://digital.asahi.com/articles/ASNBN67HHNBJOIPE039.html)。

 一読して「何なんだこれは?」と思わざるをえないものでした。これでは地方議会に良質な議員が生まれようもない、まともな人なら議員にならないであろう、とすら思えてきます。「辞職勧告は、この勧告に賛成した議員にこそ向けられるべきである」と考えられる方も少なくないでしょう。

 場所は愛知県弥富市で、9月の弥富市議会定例会で、議員のA氏に対する辞職勧告決議案が可決されたのですが、その理由が、某議員が議員になる前に弥富市に対して住民訴訟を起こしたというものでした。

 これだけでも滅茶苦茶としか言い様がありません。このブログに載せた「『地方の腐敗は日本の腐敗』 同感せざるをえない」に「地方政治の腐敗」を記しましたが、腐敗以前の無知としか言い様がないものです。無知から腐敗が生まれるのでしょう。「オンブズマン活動で市に大きな負担を負わせた」というのは言い掛かりと同じでしょう。市政がまともであればオンブズマン活動など起こりませんし、「市に大きな負担を負わせた」ことの原因が市議会にあることくらいわからないのでしょうか。

 そもそも、ここで問題になっている住民訴訟の発端を作ったのが弥富市議会の議員のB氏であるというのです。壁問題とも言われており、議員所有のアパートの壁が市有地の水路に65センチほどはみ出していたという問題は、弥富市対某議員という構図に発展しています。そこにA氏の住民監査請求が入り込んだということです。

 また、A氏は、今年の2月に完成した弥富市の新市庁舎建設について住民訴訟を提起しています。7月に却下されたそうですが、これがA氏への辞職勧告決議案の提案理由となっていますが、おそらく直接的には、ということでしょうか。

 この決議案に対する賛成者は7名、反対者は7名でした。賛否同数でしたので、議長(実はB氏)が賛成したことにより可決されました。

 上記朝日新聞社記事には決議の全文が掲載されているので御覧いただきたいのですが、その中に次のような一節があります。

 「本来オンブズマン活動は、行政の外部から行政を監視しこれを是正するものであります。地方議会は地方行政の一翼を担っている側面があり、地方議会の議員がオンブズマン活動を行うことは本来の趣旨に合致しない要素もあり、オンブズマン活動を歪(ゆが)めてしまう可能性もあります。なお、『弥富市政を考える会』は、平成27年2月13日に解散している(愛知県公報第3171号別冊1号11項)との事ですので選挙公報にも疑義が生じます。」

 たしかに、地方公共団体の議会の議員がオンブズマン活動を行うことには、活動内容に矛盾があるとも言えます。しかし、議員がオンブズマン活動をすることを禁止する法令はありませんし、実際に議員がオンブズマン活動またはそれに類似する活動をする例、議員が住民訴訟を提起する例は時々みられます(とくに大都市圏で多いかもしれません)。私が地方財務2017年10月号で発表した「高槻市里道占有損害賠償請求住民訴訟(財政法判例研究第9回)」は、このような議員の方が原告となった訴訟の大阪地方裁判所に関する評釈です。議会活動が低調であるからこうなるというのが実態に合う解釈でしょう。

 上記朝日新聞社記事を読んでいてもっと驚いたのが、決議案提出者であるC議員のコメントです。「訴えが却下されたにもかかわらず謝罪をしなかった」という言葉には開いた口が塞がりません。その上で「これまでの振る舞い、言動にも問題があった」というのですが、それはそれ、これはこれでしょう。

 賛成したD議員も「一言申し訳なかったと言えばいいだけのことなのにしなかった。反省していない」と語ったそうですが、「何を考えているのだ?」と思います。住民訴訟を提起した原告が敗訴したら謝罪だ何だのを行わなければならないのでしょうか。「それが当然だ」とおっしゃるのであれば、「オンブズマン活動はけしからん」というのであれば、今すぐ地方六団体にでも国にでも、住民監査請求制度および住民訴訟制度を廃止するよう提案してください。地方六団体が動けば、住民監査請求制度および住民訴訟制度は簡単に廃止されるでしょう。

 A氏は、住民監査請求および住民訴訟が「市民の権利。負けたから賠償する、謝るなんて聞いたことがない」と語ったそうです。これが地方自治法のとる立場でもあります。むしろ、卑屈であるのは、住民訴訟が提起されると地方公共団体が有する損害賠償請求権を放棄する(ことを議会が議決する)という姿勢でしょう。残念ながら、数年前に行われた地方自治法の改正で、条件付きではありながら認められたので、地方自治法自身が住民監査請求および住民訴訟の意味を減らしてしまいました。

 それにしても、今回の話を読んでみて、地方に巣くう病は根深いと感じます。これだけ様々な意見を排除しようとする傾向が強いのであれば、地方定住が進まないのも理解できますし、それはむしろ当然のことでしょう。新型コロナウイルス感染症の影響で東京からの人口流出が流入を上回るようになりましたが、頑迷とも言える閉鎖性を維持するのであれば、首都圏からの人口流入は一時的なものに終わるでしょう。定住をしようとする者に失望以外の何物も与えないからです。


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