地方税法に税目として定められておらず、都道府県または市町村が条例によって導入することが可能である地方税(但し、総務大臣との事前協議を経て総務大臣の同意を得ることが必要です)を、法定外税と言います。税収の使途が条例で定められているか否かによって法定外普通税と法定外目的税に分かれますが、どちらにしても地方税法において税目として法定されていない点が重要であり、制限されてはいるものの地方税について都道府県および市町村が有する立法権の産物として、地方自治の観点からしても重要な存在です。
〔以上については、石村耕治編『税金のすべてがわかる現代税法入門塾』、略して『現税塾』の第11版(2022年、清文社)の155頁以下(実は私が担当しています)も御覧ください。〕
ただ、法定外税は収入が少ないものが多く、また、とくに核燃料や産業廃棄物に関係する税目が多いのも特徴です。そして、21世紀に入ってからは宿泊税が採用される傾向にあります。有名なのは東京都の宿泊税ですが、後に紹介するように、大阪府、福岡県、京都市、金沢市などにおいても導入されています。
現在、北海道においても導入が議論されています。少し前の記事にはなりますが、2024年1月25日19時付で、朝日新聞社のサイトに「北海道の『宿泊税』、2万円未満100円が有力に 免税点は導入せず」(https://www.asahi.com/articles/ASS1T63LMS1TIIPE005.html)という記事が掲載されていたので、これを参照しつつ記していきます。
北海道で導入が検討されている宿泊税ですが、結局は宿泊税となる様子であるものの、「観光振興税」という仮称(?)が付けられていたようです。北海道の宿泊税は、上記朝日新聞社記事の表現を借りるならば「人口が減っても持続可能な観光産業を実現するため」のものです。この記事にはあまり詳しく書かれていませんが、「使い道はマーケティングや交通網の充実、災害対応の強化など7分野で」あると書かれていたので、おそらく法定外目的税でしょう。先行例の全てが法定外目的税であることも記しておきます。
ここで、既に宿泊税を導入している都道府県および市町村の例をみてみましょう。上記朝日新聞社記事に書かれているところを利用していますので、正確さに欠ける部分があるかもしれませんが、御了承ください。
東京都 税額=100円(一人一泊10,000円以上15,000円未満の場合)、200円(一人一泊15,000円以上の場合)。
直近の税収見込額=16億7,000万円。
大阪府 税額=100円(一人一泊7,000円以上15,000円未満の場合)、200円(一人一泊15,000円以上20,000円未満の場合)、300円(一人一泊20,000円以上の場合)。
直近の税収見込額=12億円。
京都市 税額=200円(一人一泊20,000円未満の場合)、500円(一人一泊20,000円以上50,000円未満の場合)、1,000円(一人一泊50,000円以上の場合)。
直近の税収見込額=35億5,000万円。
金沢市 税額=200円(一人一泊20,000円未満の場合)、500円(一人一泊20,000円以上の場合)。
直近の税収見込額=7億1,000万円。
長崎市 税額=100円(一人一泊10,000円未満の場合)、200円(一人一泊10,000円以上20,000円未満の場合)、500円(一人一泊20,000円以上の場合)。
直近の税収見込額=3億7,000万円。
福岡県 税額=一人一泊の宿泊料金にかかわらず200円。但し、福岡市または北九州市が課税する場合には50円、その他の市町村が課税する場合には100円。
直近の税収見込額=13億9,000万円。
福岡市 税額=150円(一人一泊20,000円未満の場合)、450円(一人一泊20,000円以上の場合)。
直近の税収見込額=18億6,000万円。
北九州市 税額=一人一泊の宿泊料金にかかわらず150円。
直近の税収見込額=3億9,000万円。
倶知安町 税率=一人・一部屋・一棟あたり宿泊料金の2%。
直近の税収見込額=2億円。
このように見ると、宿泊料金に応じて税額が変わる所が多いようで、北海道もそのような構造の宿泊税を導入することを考えているようです。もっとも、当初は宿泊料金にかかわらず一泊100円とすることが考えられていたようですが、これでは1年間の税収見込額が36億円で、これでは少ないという意見が多く出されたようです。そこで、宿泊料金の多寡に応じて税額が変わるという、東京都や大阪府などと同じような構造とすることにしました。こうすると、1年間の税収見込額が60億円になります。北海道が2023年9月にこうした案を示すと、札幌市など7市から反対意見が出されました。札幌市なども宿泊税の導入を検討しているようです。
そのため、北海道は、一人一泊20,000円未満であれば税額100円、一人一泊20,000円以上50,000未満であれば税額200円、一人一泊50,000円以上であれば税額500円とすることにしたようです。ただ、このようにすると1年間の税収見込額が45億円になります。
問題は税額の区分よりも免税点でしょう。修学旅行の場合には「課税免除とする」とのことですが(京都市や長崎市と同様です)、それ以外の場合には免税点は設けないということです。しかし、これは妥当でしょうか。上記朝日新聞社記事によれば「道内宿泊客の5~6割は道民でビジネスの利用も多い」とのことです。私も熊本県立大学、西南学院大学および福岡大学での集中講義の際に一泊10,000万円未満のビジネスホテル〔熊本東急イン(現在の熊本東急REIホテル)、西鉄イン天神〕に宿泊していたくらいで、仕事のための宿泊であれば豪華な宿泊施設である必要もなく、安価な宿泊施設の利用にも宿泊税を課するというのは観光振興という目的から外れる部分があります。勿論、ビジネスホテルに宿泊している客は観光客ではないとも言えないので、免税点を設けなかったのでしょう。ただ、或る程度は判別も付くはずです。
また、札幌市などが導入を検討しているということですが、それ以前に倶知安町が導入しています。税収、役割分担など、市町村との調整という課題も残っています。
おそらく、北海道は2025年度またはそれ以降の導入を目指して動くでしょう。しかし、解決すべき課題はまだ残っています。導入を急ぐ必要はないと考えています。現在、オーバーツーリズムなどが問題となっていますが、これが長期間続くかどうかもわかりませんから(私自身は、一時的なものであって早ければ今年中には海外からの観光客は減少すると予想しています。然したる根拠はありませんが)。
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