最初に。行政区は、横浜市の中区、川崎市の川崎区のような区をいいます。地方自治法第252条の20第1項は「指定都市は、市長の権限に属する事務を分掌させるため、条例で、その区域を分けて区を設け、区の事務所又は必要があると認めるときはその出張所を置くものとする」と定めており、ここに登場する区が行政区にあたります。
東京都の区は特別区といい、地方自治法第281条以下に定めがあるほか、同第1条の3第3項において特別地方公共団体とされる他、第2条第1項によって法人とされます。これに対し、行政区は法人格を有していません。そのため、分区または合区は市の条例で定めることができます。私が住んでいる川崎市では1982年に高津区から宮前区が分区し、多摩区から麻生区が分区していますし、奇しくも同年に福岡市では西区が早良区、城南区および西区に分区されています。
さて、今回は浜松市の行政区の再編です。共同通信社が今日(2023年12月31日)の16時13分付で「浜松市の行政区、三つに 再編でコスト削減」(https://www.47news.jp/10335106.html)として報じているところを基にしました。
2005年、浜松市は浜北市、天竜市などを編入合併しており、2007年に指定都市となりました。その際、7つの行政区が設けられました。中区、東区、西区、南区、北区、浜北区および天竜区です。しかし、2011年には早くも行政区の再編が協議されるようになります。2019年4月7日、区再編に関する住民投票が行われました。同年中に再編に関する協議は再開されましたが、住民投票の結果が今回の再編にどの程度生かされたのかについては疑問が残ります。
住民投票においては、設問1として3区案(天竜区、浜北区、その他の5区)での区の再編を2021年1月1日までに行うことについて問われ、設問2として、設問1で反対の意見の場合に2021年1月1日までに区の再編を行うことについて問われました。この2つしか設問がなかったことが妥当なのかという問題はあるのですが、それを脇に置いておくとして、次のような結果となりました。
有効投票数:322,600。
設問1に賛成:132,249(約41%)。
設問1に反対で設問2に賛成:31,722(約9.8%)。
設問1に反対で設問2にも反対:158,629(約49.2%)。
浜松市は、設問1に反対の意見が多数を占めたことを認めつつ、「区再編を行うことについては、設問1で賛成した票と設問1に反対で設問2に賛成した票の合計が50.8%となり、賛否は拮抗」と分析したようです。確かにその通りですが、設問1にも設問2にも反対の意見がほぼ半数であったということを無視してはいけないでしょう。住民投票の限界を示すものである可能性の一つが現れているような気もします。
また、2020年2月に行われた浜松市議会特別委員会において協議がスタートし、区の再編のメリットおよびデメリットが議論されたようですが、果たして、住民投票の前に住民に対して説明されたのでしょうか。何の説明もなく再編に関する住民投票が行われたとは考えにくいのですが、説明がなければ賛成のしようも反対のしようもありません。
2020年9月28日、浜松市議会の全議員が無記名投票を行い、賛成38、反対4、棄権4で再編が決議されました。具体的な再編案は2021年になってから検討されており、同年4月には市内各区にある区自治会連合会および区協議会における説明が行われ、パブリック・コメントも実施されています。
そして、2023年2月の浜松市議会において「浜松市区及び区協議会の設置等に関する条例の一部を改正する条例」が可決・成立し、同条例附則第1項に従って2024年1月1日から施行されることとなりました。
改正前の「浜松市区及び区協議会の設置等に関する条例」第2条第1項は、浜松市の区を上記の7区としていましたが、改正後の同条例第2条第1項は浜松市の区を中央区、浜名区および天竜区としています。再編前と再編後との比較は、別表第一を見ることでわかります。
中央区:再編前の中区、東区、西区、南区、北区の一部。
浜名区:再編前の北区の一部、浜北区。
天竜区:再編前の天竜区と同じ。
これにより、中央区の人口が約61万、浜名区の人口が約16万人、天竜区の人口が約3万人となります。かなり極端な差がありますが、天竜区の面積が広大であることを考慮しなければならないでしょう。何せ、天竜区の面積は、指定都市の区としては静岡市の葵区に次ぐ広さであり、天竜区だけで広島市の面積を上回るほどです。
地理感覚のない人が、国会で浜松市への森林環境譲与税の配分額が多いことを問題視して質疑を行っていましたが、地図を見ればわかるように、天竜区の大部分は森林地帯であり、かつ、指定都市の区としては人口も人口密度も最少です。鉄道に関心がある方であれば、天竜区には飯田線が通っていると記せば、どういう状況であるかはすぐに察しが付くのではないでしょうか。秘境駅として有名な小和田駅があるのですから。
再編後の中央区の人口密度がどの程度になるのかはわかりませんが、人口だけで見ても20倍以上の格差があります。このような指定都市が他にあるでしょうか。
勿論、区は人口、面積など様々な要素によって分けられることとなります。ただ、中央区については、2つか3つに分けてもよかったのではないかと考えられます(無理に3区に再編することもなかったのではないか、ということです。ただ、私は浜松市民でも何でもないので、この辺りの事情はよくわかりません)。
上記共同通信社記事には「将来の人口減少や経済状況の変化に合わせて行政コストを減らす狙いがある」、「市は区役所業務の集約により、人件費など年間約6億5千万円のコスト削減を見込んでいる」、「人口規模の違いで市民サービスに差が出ないようにするため、市は業務のデジタル化を進める方針」であるとのことです。
2024年1月1日以降の推移を見守っていく必要があると言えますが、各区の特性をどう生かすのか、バランスをどのようにとるのかが問われるところでしょう。
なお、分区とは逆の合区の例としては、大阪市(東区と南区とを統合して中央区、北区と大淀区とを統合して北区)、神戸市(葺合区と生田区とを統合して中央区)があります。
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