ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第33回 取消訴訟の原告適格(1)

2021年02月19日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.原告適格とは

 一般的に、原告適格とは、訴訟の原告となりうる資格を備えていることをいう

 行政事件訴訟法第9条第1項は、「処分」または裁決の取消について「法律上の利益を有する者」に、取消訴訟の提起を認める。ここで問題となるのが「法律上の利益」の具体的な意味である。この「法律上の利益」を有しない者は原告適格が認められないこととなる。

 まず、「処分」または裁決の相手方は、それらの法律上の効果により、直接的に権利を侵害され、または義務を課される者である。そのため、「処分」または裁決の取消について「法律上の利益」を有すると認められ、取消訴訟の原告適格が認められる。

 次に、「処分」または裁決の相手方ではないが実質的な当事者である者も、やはり「法律上の利益」を有すると認められるから、取消訴訟の原告適格が認められる。最一小判昭和57年4月8日民集36巻4号594頁(第二次家永訴訟最高裁判決)などがその例である。

 問題となる場合の一つは、「処分」または裁決の相手方ではなく、実質的な当事者でもない第三者(近隣住民など)が、たとえば許可のように当事者にとっては授益的な処分または裁決によって不利益を受ける場合である。もう一つは、道路の公用廃止などの一般処分によって不利益を受ける場合である。果たして、この双方の場合、いかなる範囲において原告適格が認められるのであろうか。

 なお、裁決について原告適格が問題となる場合はほとんどないので、以下においては「処分」に限定する。

 

 2.原告適格に関する二つの説

 原告適格については、理論的にいくつかの説を想定することができるが、一般的には二つの説が主張されている。

 (1) 法律上保護された利益説

 法律上保護された利益説は判例が採用するものであり、学説においても通説と言いうるであろう。

 この説は、原告が侵害されていると主張する利益が「処分」の根拠法規により保護されているか否かによって、原告適格の有無を判断する考え方である。もう少し具体的に記すと、原告適格が認められるのは、次のような場合である。

 ・「処分」の取消を求める者の利益が「処分」の根拠法規により個別的利益として保護されている。

 ・この個別的利益が実際に侵害されるおそれがある。

 逆に、「処分」の根拠法規に誰の利益を保護するかが示されない場合には(日本の立法には極めて多い)、公益を保護する趣旨であって「処分」の取消を求める者の個別的利益を保護する趣旨ではないと判断されやすい。その場合には原告適格が認められないこととなる。しかし、この考え方によると「処分」の取消を求める第三者が有する利益は事実上の利益にすぎないので、訴訟を提起しても却下されることとなり、原告適格が認められる余地はほとんどないということになりかねない。

 (2)法的保護に価する利益説

 取消訴訟の原告適格に関するもう一つの説として、 法的保護に値する利益説がある。最高裁判所の判例では採用されていないが、有力説と考えてよいであろう。

 この説は、原告が侵害されていると主張する利益が「処分」の根拠法規により保護されているか否かではなく、権利や利益の侵害の実態に着目し、救済すべきとみられる状態にあるときに原告適格を認めるべきである、とするものである。そのため、事実上の利益であっても原告適格が認められうることとなる。

 (3)法律上保護された利益説の拡大傾向

 もっとも、後にみるように、法律上保護された利益説の射程距離は拡大する傾向にある。基本的枠組みは変わらないが、処分の根拠規定のみならず、その法律の目的規定や関連規定まで視野を広げ、原告適格を判断する傾向が見られるようになったのである。これが、平成16年改正法により行政事件訴訟法第9条に追加された第2項につながる。

 同項は、原告適格について、次の事柄を考慮し、判断することを求めている。「法律上の利益」を、処分または裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによるのではなく、

 a.当該法令の趣旨および目的を考慮し(前段)、

 b.その上で、当該処分において考慮されるべき利益の内容および性質を考慮すべきである(前段)。

 c.処分または裁決の根拠となる法令の趣旨および目的を考慮するにあたって、その法令と目的を共通にする関連法令があるときは、その趣旨および目的をも参酌すべきである(後段)。

 d.当該処分において考慮されるべき利益の内容および性質を考慮するにあたって、当該処分または裁決がその根拠となる法令に違反してなされた場合に害されることとなる利益の内容および性質、ならびに害される態様および程度をも勘案すべきである(後段)。

 ●最大判平成17年12月7日民集59巻10号2645頁(小田急高架化訴訟、Ⅱ−165)

 事案:東京都知事(被上告参加人)は、平成5年2月1日付で、都市計画法第21条第2項・第18条第1項に基づき「東京都市計画都市高速鉄道第9号線」を変更し、小田急小田原線の喜多見駅付近から梅ヶ丘駅付近までの区間を複々線化し、さらに成城学園前付近を堀割式とする以外は高架式とする旨の都市計画を告示した。これに対し、沿線住民らは、周辺地域に与える影響や事業費の面で問題のある複々線化・高架化を採用したことが違法であるとして、この都市計画などを認可した建設省関東地方整備局長を被告として、訴訟を提起した。一審判決(東京地判平成13年10月3日判時1764号3頁)は沿線住民らの請求を認容したが、控訴審判決(東京高判平成15年12月18日訟月50巻8号2322頁)が一審判決を取り消し、請求を棄却した。最高裁判所大法廷は、沿線住民らの一部について原告適格を認めた。なお、4人の裁判官による反対意見がある他、3人の裁判官による各補足意見がある。また、この判決の後に本案審理がなされ、最一小判平成18年11月12日民集60巻9号3294頁(Ⅰ−75)は沿線住民らの上告を棄却した。

 判旨:①「行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき『法律上の利益を有する者』とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。/そして、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。」(/は原文改行箇所。下線は引用者によるもの。以下同じ。)

 ②「公害防止計画に関する」公害対策基本法第1条などの諸規定は「相当範囲にわたる騒音、振動等により健康又は生活環境に係る著しい被害が発生するおそれのある地域について、その発生を防止するために総合的な施策を講ずることを趣旨及び目的とするものと解される。そして、都市計画法13条1項柱書きが、都市計画は公害防止計画に適合しなければならない旨を規定していることからすれば、都市計画の決定又は変更に当たっては、上記のような公害防止計画に関する公害対策基本法の規定の趣旨及び目的を踏まえて行われることが求められる」。また、東京都環境影響評価条例第3条などの諸規定は「都市計画の決定又は変更に際し、環境影響評価等の手続を通じて公害の防止等に適正な配慮が図られるようにすることも、その趣旨及び目的とするものということができる」ことなどもあわせて考えるならば、「都市計画事業の認可に関する」都市計画法の規定は「事業に伴う騒音、振動等によって、事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し、もって健康で文化的な都市生活を確保し、良好な生活環境を保全することも、その趣旨及び目的とするものと解される」。

 ③「都市計画法又はその関係法令に違反した違法な都市計画の決定又は変更を基礎として都市計画事業の認可がされた場合に、そのような事業に起因する騒音、振動等による被害を直接的に受けるのは、事業地の周辺の一定範囲の地域に居住する住民に限られ、その被害の程度は、居住地が事業地に接近するにつれて増大するものと考えられる。また、このような事業に係る事業地の周辺地域に居住する住民が、当該地域に居住し続けることにより上記の被害を反復、継続して受けた場合、その被害は、これらの住民の健康や生活環境に係る著しい被害にも至りかねないものである。そして、都市計画事業の認可に関する同法の規定は、その趣旨及び目的にかんがみれば、事業地の周辺地域に居住する住民に対し、違法な事業に起因する騒音、振動等によってこのような健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されるところ、前記のような被害の内容、性質、程度等に照らせば、この具体的利益は、一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものといわざるを得ない」。

 ④「以上のような都市計画事業の認可に関する都市計画法の規定の趣旨及び目的、これらの規定が都市計画事業の認可の制度を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば、同法は、これらの規定を通じて、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るなどの公益的見地から都市計画施設の整備に関する事業を規制するとともに、騒音、振動等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して、そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって、都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有するものといわなければならない」。

 ●最二小判平成元年2月17日民集43巻2号57頁(新潟空港訴訟。Ⅱ−192)

 事案:運輸大臣Yは、新潟―小松―ソウル間の定期航空運送事業免許を訴外航空会社に付与した。これに対し、近隣住民のXが、騒音による健康や生活上の利益の侵害を主張し、取消しを求めて出訴した。一審判決(新潟地判昭和56年8月10日行集32巻8号1435頁)はXの請求を却下し、控訴審判決(東京高判昭和56年12月21日行集32巻12号2229頁)もXの控訴を棄却した。最高裁判所第二小法廷は、結局のところXの請求を棄却したが、原告適格を認めた。

 判旨:「法律上の利益を有する者」は「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであるが、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に」該当する。この判断は「当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関連規定によって形成される法体系の中において、当該処分を通じて右のような個々人の個別的利益をも保護しているものとして位置づけられているとみることができるかどうかによって決すべきである」。航空法第1条の目的には騒音の防止が含まれ、飛行場周辺航空機騒音防止法が運輸大臣に騒音防止のための権限を与えていることからすれば、新規路線免許により生ずる航空機騒音により「社会通念上著しい障害を受ける者には、免許取消しを求める原告適格が認められる」。

 ●最三小判平成4年9月22日民集46巻6号571頁・1090頁(「もんじゅ」訴訟。Ⅱ−162・181)

 事案:旧動燃(動力炉・核燃料開発事業団〈1998年に核燃料サイクル開発機構として改組された。さらに、2005年には日本原子力研究所と統合され、独立行政法人日本原子力研究開発機構となっている〉)が敦賀市に建設した高速増殖炉「もんじゅ」の設置許可について、周辺住民などのXらが無効確認訴訟などを提起したものであり、原告適格の有無と範囲が争われた。一審判決(福井地判昭和62年12月25日行集38巻12号1829頁)はXらの請求を却下したが、控訴審判決(名古屋高金沢支判平成元年7月19日行集40巻7号938頁)は原子炉から半径20キロメートルの範囲内に居住する住民にのみ原告適格を認めた。最高裁判所第三小法廷は、事案を福井地方裁判所に差し戻した。

 なお、差戻第一審判決である福井地判平成12年3月22日訟務月報46巻4号1303頁はXらの請求を棄却した。これに対し、名古屋高金沢支判平成15年1月27日訟務月報50巻9号2541頁は設置許可を無効とする判断を示したが、最一小判平成17年5月30日民集59巻4号671頁は、設置許可に違法な点があるとは言えないとする判決を出した。

 判旨:「行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき『法律上の利益を有する者』とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである」(最三小判昭和53年3月14日民集32巻2号211頁、最一小判昭和57年9月9日民集36巻9号1679頁、前掲最二小判平成元年2月17日を参照)。「そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである」(原子炉からおよそ29~58キロメートルの範囲内に居住する者に原告適格を認めた)。

 

 3.判例の傾向―従来の傾向と、法律上保護された利益説の拡大傾向

 (1)競業者の利益と原告適格

 ●最三小判昭和34年8月18日民集13巻10号1286頁

 事案:東京都公安委員会(被告)は、昭和29年2月11日、訴外Aに対して質屋営業法に基づく質屋営業許可処分を行った。これに対し、同じく質屋を営業する原告は、この質屋営業許可処分の無効の確認を求めて出訴した。一審判決(東京地判昭和31年4月7日行集7巻4号978頁)は原告の訴えを却下し、控訴審判決(東京高判昭和31年9月29日民集13巻10号1291頁)も原告の控訴を棄却した。最高裁判所第三小法廷も原告の上告を棄却した。

 判旨:「訴を提起するには、これにつき法律上の利益あることを必要とするは、訴訟法上の原則であつて、行政庁の違法処分の取消を求める訴についても、これと別箇に考うべき理由はない」。

 ●最一小判昭和37年1月19日民集16巻1号57頁(Ⅱ−170)

 事案:京都府知事は、昭和31年10月27日にAに対して公衆浴場の営業許可処分を行った。しかし、Aの公衆浴場とX1経営の公衆浴場との距離が京都府公衆浴場法施行条例などの定める距離制限を満たしていなかった。また、Aの公衆浴場とX2経営の公衆浴場との距離は距離制限を満たしていたものの、この3つの公衆浴場が競合するためにそれぞれの利用圏内の利用者が2000人を割り込んだ。そこで、X1およびX2は、国を被告として〈当時の公衆浴場法により、公衆浴場の営業許可処分に関する事務は国から都道府県知事に委任されていた(いわゆる機関委任事務の一例)〉Aに対する営業許可処分の無効確認を求めた。一審判決(京都地判昭和32年6月29日行集9巻4号823頁)はX1およびX2の請求を棄却し、控訴審判決(大阪高判昭和33年4月26日行集9巻4号818頁)もX1およびX2の控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷は控訴審判決を破棄し、事件を京都地方裁判所に差し戻した。なお、1名の裁判官による反対意見、1名の裁判官による意見がある。

 判旨:「公衆浴場法第2条および京都府公衆浴場法施行条例の「規定の趣旨から考えると公衆浴場法が許可制を採用し前述のような規定を設けたのは、主として『国民保健及び環境衛生』という公共の福祉の見地から出たものであることはむろんであるが、他面、同時に、無用の競争により経営が不合理化することのないように濫立を防止することが公共の福祉のため必要であるとの見地から、被許可者を濫立による経営の不合理化から守ろうとする意図をも有するものであることは否定し得ないところであつて、適正な許可制度の運用によつて保護せらるべき業者の営業上の利益は、単なる事実上の反射的利益というにとどまらず公衆浴場法によつて保護せられる法的利益と解するを相当とする。」

 ●最三小判昭和43年12月24日民集22巻13号3254頁(東京12チャンネル事件〈東京12チャンネルは、現在のテレビ東京の1981年までの商号〉。Ⅱ−173)

 事案:Xは第12チャンネルのテレビ放送局の開設を企図し、郵政大臣Yに免許申請をしたが、この申請は五者の競願になった。Yは、審査の結果、Aに予備免許を与え、他の申請を拒否した。Xは自己に対する免許拒否処分とAへの予備免許処分の取消しを求めてYに異議申立てをしたが棄却されたので、Xはこの棄却決定の取消しを求めて出訴した。東京高判昭和40年6月1日行集16巻7号1266頁はXの請求を認容したので、Yが上告したが、最高裁判所第三小法廷はYの上告を棄却した。

 判旨:AとXは「係争の同一周波をめぐつて競願関係にあり、Yは、XよりもAを優位にあるものと認めて、これに予備免許を与え、Xにはこれを拒んだもので、Xに対する拒否処分とAに対する免許付与とは、表裏の関係にあるものである。そして、Xが右拒否処分に対して異議申立てをしたのに対し、Yは、電波監理審議会の議決した決定案に基づいて、これを棄却する決定をしたものであるが、これが後述のごとき理由により違法たるを免れないとして取り消された場合には、Yは、右決定前の白紙の状態に立ち返り、あらためて審議会に対し、Xの申請とAの申請とを比較して、はたしていずれを可とすべきか、その優劣についての判定(決定案についての議決)を求め、これに基づいて異議申立てに対する決定をなすべきである。すなわち、本件のごとき場合においては、Xは、自己に対する拒否処分の取消しを請求しうるほか、競願者(A)に対する免許処分の取消しをも訴求しうる(ただし、いずれも裁決主義がとられているので、取消しの対象は異議申立てに対する棄却決定となる。)が、いずれの訴えも、自己の申請が優れていることを理由とする場合には、申請の優劣に関し再審査を求める点においてその目的を同一にするものであるから、免許処分の取消しを訴求する場合はもとより、拒否処分のみの取消しを訴求する場合にも、Yによる再審査の結果によつては、Aに対する免許を取り消し、Xに対し免許を付与するということもありうるのである」。

 ●最三小判平成26年1月28日民集68巻1号49頁(Ⅱ−171)

 事案:福井県小浜市に本店を置く訴外Aは、平成13年10月1日に小浜市長から「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下、廃棄物処理法)第7条第1項に基づく一般廃棄物収集運搬業許可を受けた。その後も許可の更新を受けており、平成21年3月31日付で一般廃棄物収集運搬業許可更新処分を受けている。また、兵庫県西脇市に本店を置く被告参加補助人のBは、平成16年4月1日に小浜市長から廃棄物処理法第7条第1項および第6項に基づく一般廃棄物収集運搬業許可を受けた。その後も許可の更新を受けており、平成22年3月30日付で一般廃棄物収集運搬業許可更新処分を受けている。小浜市に本店を置くXは、小浜市長が行った上記2件の一般廃棄物収集運搬処分業許可更新処分にはいずれも重大かつ明白な瑕疵があるとして、これらの一般廃棄物収集運搬処分業許可更新処分の取り消し、および国家賠償を請求する訴訟を起こした。一審判決(福井地裁平成22年9月10日判自380号56頁)は一般廃棄物収集運搬処分業許可更新処分取消の請求を却下し、その他の請求を棄却した。控訴審判決(名古屋高金沢支判平成23年6月1日判自380号64頁)はXの控訴を棄却したが、最高裁判所第三小法廷は控訴審判決のうち国家賠償請求に関する部分を破棄して事件を差し戻したが、その他の部分についてはXの上告を棄却した。

 判旨:(ここでは上告棄却の部分のみ示す。)

 ①「行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき『法律上の利益を有する者』とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項)」(前掲最大判平成17年12月7日を参照)。

 ②「市町村長から一定の区域につき既に一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けている者がある場合に、当該区域を対象として他の者に対してされた一般廃棄物処理業の許可又はその更新が、当該区域における需給の均衡及びその変動による既存の許可業者の事業への影響についての適切な考慮を欠くものであるならば、許可業者の濫立により需給の均衡が損なわれ、その経営が悪化して事業の適正な運営が害され、これにより当該区域の衛生や環境が悪化する事態を招来し、ひいては一定の範囲で当該区域の住民の健康や生活環境に被害や影響が及ぶ危険が生じ得るものといえる。一般廃棄物処理業の許可又はその更新の許否の判断に当たっては、上記のように、その申請者の能力の適否を含め、一定の区域における一般廃棄物の処理がその発生量に応じた需給状況の下において当該区域の全体にわたって適正に行われることが確保されるか否かを審査することが求められるのであって、このような事柄の性質上、市町村長に一定の裁量が与えられていると解されるところ、廃棄物処理法は、上記のような事態を避けるため、前記のような需給状況の調整に係る規制の仕組みを設けているのであるから、一般廃棄物処理計画との適合性等に係る許可要件に関する市町村長の判断に当たっては、その申請に係る区域における一般廃棄物処理業の適正な運営が継続的かつ安定的に確保されるように、当該区域における需給の均衡及びその変動による既存の許可業者の事業への影響を適切に考慮することが求められるものというべきである」。

 ③「以上のような一般廃棄物処理業に関する需給状況の調整に係る規制の仕組み及び内容、その規制に係る廃棄物処理法の趣旨及び目的、一般廃棄物処理の事業の性質、その事業に係る許可の性質及び内容等を総合考慮すると、廃棄物処理法は、市町村長から一定の区域につき一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けて市町村に代わってこれを行う許可業者について、当該区域における需給の均衡が損なわれ、その事業の適正な運営が害されることにより前記のような事態が発生することを防止するため、上記の規制を設けているものというべきであり同法は、他の者からの一般廃棄物処理業の許可又はその更新の申請に対して市町村長が上記のように既存の許可業者の事業への影響を考慮してその許否を判断することを通じて、当該区域の衛生や環境を保持する上でその基礎となるものとして、その事業に係る営業上の利益を個々の既存の許可業者の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって、市町村長から一定の区域につき既に廃棄物処理法7条に基づく一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けている者は、当該区域を対象として他の者に対してされた一般廃棄物処理業の許可処分又は許可更新処分について、その取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである」。

 ④Xは「平成25年5月8日に小浜市長に対して廃棄物処理法7条の2第3項に基づき一般廃棄物収集運搬業を廃業する旨を届け出た上で同年6月に廃業したことが明らかであ」り、Xが「上記各処分の取消しを求める法律上の利益は失われたものといわざるを得ない」。

 注意:判旨の①から③までにおいては、Xに原告適格が認められるという趣旨が述べられている。しかし、④においてXには狭義の訴えの利益が認められないという趣旨が述べられている。その結果、Xの請求は認められなかったのである。

 

 ▲第7版における履歴:2020年11月10日20時54分00秒付で「暫定版 取消訴訟の原告適格(1)」として掲載。修正の上で2021年02月19日に再掲載。

 ▲第6版における履歴:2017年10月25日掲載(「第24回 取消訴訟の訴訟要件その2―原告適格および狭義の訴えの利益を中心に―」として)。

              2017年12月20日修正。


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