現在召集されている第211回国会に「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律案」が提出されています(内閣提出法律案第46号。以下、改正法案と記します)。改正法は複数の法律を改正するためのもので、マイナンバーカードの一層の普及や活用を内容とするものと言えますが、マイナンバーカードへの健康保険証情報の「紐付け」などでトラブルが相次いでいる中で、今日(2023年5月31日)、改正法案が参議院地方創生・デジタル社会形成特別委員会において賛成多数で可決されました。朝日新聞社が、今日の18時26分付で「マイナ法案、混乱続くなか成立へ 現行の保険証は24年秋に廃止」として報じています(https://digital.asahi.com/articles/ASR505JFSR5ZULFA02R.html)。
改正法案の内容は多岐にわたるので、複雑なものとなっていますが、やはり現行の健康保険証を廃止するという内容が目を引くところでしょう。健康保険証をマイナンバーカードに統合する訳なのですが、そればかりでなく、年金受給者の預金口座への「紐付け」も含まれています。
ただ、マイナンバーカードの取得は国民に義務付けられていません。そこで、マイナンバーカードの申請をしたくないという人、申請をしたくとも困難な人などについては「資格確認書」が発行されるとのことで、その「資格確認書」も代理申請(家族や施設による)を認める方向とのことです。
その一方、マイナンバーカードの取得者については、年金などのデータの紐付けについては、郵送などによる通知が行われた後に、年金受給者などが「受給者が一定期間内に『不同意』の回答をしなければ、同意したと見なされる。このため、勝手に登録されたと受給者が受け取りかねず、制度への不信につながる可能性がある」とのことです。立法的には当然ありうることなのですが、確かに一方的に登録されたと思われる可能性も高いことでしょう。
元々、マイナンバーカードは、2012年の社会保障・税一体改革の産物です。当初から様々な領域に使用されることが予定されていましたが、現在まで社会保障、租税および災害対策に限定されていました。さらに「国家資格の手続きや自動車の登録、在留外国人に関わる行政手続きなどを追加」することになっています。
それ以上に気になるのは、「いまはマイナンバーの利用が認められる事務は具体的に法律に規定されているが、新たに『準ずる事務』も対象となり、政府の裁量の余地が広がる」という部分です。こういう部分こそ、行政の裁量に委ねるのでなく、立法の関与が求められるはずです。法律に示されていない事務についてもマイナンバーの利用が認められるのでは、不明確極まりないだけでなく、何らかの障害なり事故なりがあった場合には取り返しの付かない事態が多発する可能性が高くなります。情報の危険性に対する認識がなさ過ぎると批判されてもおかしくありません。
また、最近相次いでいる誤登録や情報漏れなどに関して記すならば、原因は複数想定されるものの、その一つとして委託があるものと思われます。情報管理こそ行政が自ら行うべきであるのに、民間企業などへの安易な委託などが行われています。そうなると、日本お得意の下請け、孫請けなどへの丸投げが行われ、責任などが曖昧になるのです。システムのメインテナンスが企業に委されることは仕方がないのですが、普段の管理業務こそは行政が自ら行い、他者に委ねるべきではありません。
そして、今後、マイナンバーカードはますます気軽に持ち歩くことができない物となりそうです。私自身もマイナンバーカードを持っていますが、滅多に持ち歩きません。何のために取得したのかがよくわからなくなっています。身分証明が必要な場合には運転免許証で十分であることが多いからです(パスポートを持っていったこともあります)。
仮に私が運転免許証を持っていなかったとするならば、マイナンバーカードの所持の意味が高まるとは思います。健康保険証では身分証明に不十分である場合が多いからです。
さらに、現在の状況ではマイナンバーカードのために地方公共団体は多大な迷惑を蒙っていることでしょう。私に身近なところでも、マイナンバーカードの申請から取得まで何ヶ月もかかっており、しかも窓口などは混雑しているようです。結局、国が立案し、地方公共団体が手足となって動くという伝統は壊されていないということなのでしょう。この点については、今日の19時15分付で朝日新聞社のサイトに掲載された「トラブル続きのマイナ、国や県から『ご指示』が次々と 自治体は困惑」という記事(https://digital.asahi.com/articles/ASR505CXDR5ZULFA02W.html)をお読みください。
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