・オープンダイアローグの実践を通じて感じるのは、既存の医療や支援の現場に、対話がもっとあったほうがいいということである。
・ケロブダス病院で始まったこの取り組みによって、それまで向精神薬による治療継続が必須と思われている人たちや、何十年も精神科病院の中で暮らさなければならないとされてきた人たちの8割以上が、向精神薬をやめるか使用することなく、精神病状がなくなり、仕事や学業から離れないですむまでに回復している。
・「その場で必要だったのは、何に困っていて、何を話したくて、どういった助けが必要なのか、それを真摯に実直に知ることでした」
・7つの原則
①すぐに助ける
②本人関わりある人たちを招く
③柔軟かつ機動的に
④責務/責任
⑤心理的な連続性/積み重ね
⑥不確実な状況の中に留まる/寄り添う/すぐに応えに飛びつかない
⑦対話主義
・子どもが生まれたとき、私はヤーコ・セイラック氏に、
「子どもが生まれたんだ。どんなふうにしていったらいいか、何かアドバイスをくれないか?」
と聞いてみた。セイラックラ氏は驚いた表情で答えた。
「何を言ってんだ。君の大切なプロセスを、僕が奪うことなんてできないよ」
それは、私にとって最高の言葉だった。
・その日以降、人の目が気にならなくなった。自分のことをどう思われようと、自分にはほとんど影響がないのだ。そんな気持ちは、自分の人生で初めてのことだった。
・ヤーコ。セイラックラ氏は、
「精神病状、幻覚や妄想などの状態にある人たちの多くが、こころに深い傷を抱えている」
と言う。私もそう思う。
そんなときは、他の誰かに話しを聞いてもらえたらと思う。それだけで、私たちはきっと生きていける。オープンダイアローグは、そのためにある。
・私の診療風景は、オープンダイアローグ以前と以後で大きく変化した。
・オープンダイアローグを知ってからは、できるだけその人を心配する家族にも参加してもらうようにしている。
・スタッフと対等の立場で話すようになったら、明瞭に対話が広がった。私一人の考えではどうにもならないことがしばしばあるし、他のスタッフが話しているのを聞くことで刺激も受けられる。また、話さない時間があることで考える時間が生まれ、私自身のの中にも新しい考えが浮かびやすくなる。対話の場にいるそれぞれの思いが重なって、新しい考えやこれまで話されていなかったことが話されるようになる。
・今から思えば、何を話したらいいのかではなくて、本人たちが話したいことは何だろうか、そのためにはどんな聞き方ができるだろうかと考えればよかったのだが、私は何かよいこと、役に立つことを言おう言おうとしていたのだと思う。
・オープンダイアローグの目的地とは、自然に対話が起こることなのだ。
・Q 精神科での病名によって、オープンダイアローグに向いているケースと向いていないケースがありますか?
A 病名で区別されることはありません。病名をもとに対話を行うのではなく、苦悩、困難、困り事などについて対話が開かれます。
・Q 対話のテーマは何ですか?
A 話したいことがテーマになります。何かの目的に向かって話すとか、結論を出すために話すのではありません。
・Q 傾聴と対話の違いは何ですか?
A 傾聴とは話し手に耳を傾けることです。対話は相手の言葉に耳を傾け、そのうえで自分の思いや考えも話す、その相互のやりとりのことです。対話のためには傾聴の姿勢がとても大切です。
・Q 会話と対話の違いは何ですか?
A 普段は会話でいいのだと思います。人と人との関係の中で困難が生じ、相互に理解しようとしなければ困難が解決しないと思われるときや、自然な会話ができなくなったときに、改まって対話する意識が必要になるでしょう。些細な誤解から大きな争いまで、様々な対話が必要になると思います。
・Q 1対1でもオープンダイアローグは実践できますか? どのようにしたらいいですか?
A オープンダイアローグとは、対話であり、対話を開くことです。1対1でも対話はできます。1対1で話す中でその困難に関わっている誰かが見えてきたとき、その人たちも対話の場に招待することも試みてもいいでしょう。
ヤーコ・セイラックラ氏は、3名以上いなければ対話になりにくいと話されています。1対1では対話するのは難しいときがあると、私も感じています。
・Q 対話で治るとはどういうことですか?
A 対話で治るということはありません。精神面の困難に直面したときに、その困難によって緊張や不安が強くなりすぎたり強い思い込みが起きたり、ときには幻覚が生じることもあると思います。
しかし、それらは困難に直面したことによる結果です。対話では、困難な状況を聞きつつお互いに理解を深めながら、その始まりや背景を探していったり、気持ちを話したりしていくことになるでしょう。すると、困難でどうにもならないと思っていた現状や未来への理解が相互に促進され、何とかなるかもしれないと思うようになるかもしれません。そうなれば、結果として、精神面の困難は軽減されていくでしょう。
・対話の場をたくさん持つようになってからは、新たにお薬を処方することがとても減った。
“オープンダイアローグ”によるこころの支援――水平な立場で開かれた対話を 2023.12.26
感想;
斎藤環先生、森川すいめい先生と多くの人がオープンダイアローグを実践され、そして実感されています。
これはこれまで薬だけではなかなかよくならなかった精神疾患で苦しんでいる人への大きな希望となるように思いました。
統合失調症患者を対象としてオープンダイアローグは出発して来ましたが、すべての精神疾患も対象のようです。
そして”開かれた対話”、対話することで困難を軽減することもできる可能性が広がっているように思います。
Q&Aの傾聴と対話の違いは、なるほどと思いました。
ナラティブセラピーでは質問により問題点を”外在化”して個人と問題を分けてその問題を明確にしていくようです。
1対1でもオープンダイアローグは可能とのことです。
このことは電話相談のような相談にも一つの選択肢というか今後の発展の可能性を秘めているように読んでいて思いました。